2回に分けてお届けするインタビューのvol.1では、ボーダレス・ジャパン 代表取締役社長の田口一成さんに、ソーシャルビジネスで利益を生み出し続ける経営スタイルや哲学、原動力などについてお伺いしました。
社会起業家として、売上アップを目指す既存の起業家とは一線を画す田口さん。「人に貢献できること」を自分の人生にする、と決意した大学時代から現在に至るまで、1ミリもブレない仕事への真摯な姿勢がよく分かる内容でした。信念だけでなく、地道なトライ&エラーを繰り返しながら独自のビジネスモデルも構築するなど、「世界を動かす日本人50」(日経ビジネス)に選ばれるのも納得。
そんな田口さんと同じように――とまではいかなくても、少しでも近づきたい!
ということで今回のvol.2では、笑下村塾がメインで活動している出張授業の話を中心に、たかまつななと相川美菜子が儲かるシステム作りのアイディアを頂戴しました。
創業期は労働集約型でいい!
―ここからは、ぜひ笑下村塾を10億円の会社にするためのアドバイスをいただきたいなと思っています。
意義として一番大切なのは何ですか?
―社会課題に対して、身近に問題意識を持ってもらうことですね。私が目指しているのは、お笑いを通して、社会課題の当事者になってもらうこと。ただ、孤軍奮闘している感じがあって、このままで社会が本当に変わっていくのかなという気持ちは、3年やってきた今だからこそ感じる時もあります。
やっていて一番楽しいのはどれですか? 出張授業?
―生徒さんや参加者の皆さまの顔が見える、出張授業ですね。
出張授業はいいですよね。
―いいんですけど、けっこう労働集約型で…。
労働集約型であることは、何も問題ないですよ。むしろ、労働集約型のもの以外は今後効率化されていきます。人間がやらなくてもよくなる領域ですから。現在、労働集約型によって単価が低いのは問題ないんです。
ただ、お金がついて来ないところをどう乗り越えるかということだけだな…。
お金を気にせず出張授業ができる仕組みを考えろ!
僕だったら、出張授業にこだわりたいです。実は、僕自身も出張授業をやりたいと思っているんですよ。
地域の企業が寄付講座として学校に届けていく形で、環境課題などに関する出張授業をやろうと考えています。
「社会の仕組み」という学校現場ではなかなか教えにくい賛否両論ある世界について、寄付授業として教えに行く。
お金の稼ぎ方は別として、出張授業していくことは大賛成です。売上利益はいったん置いておいて。結果論としてこのままで1億でも10億でも、100億いっちゃうならいけばいい。
何よりも大切なのは、日本中の学校にどう届けられるかですよね。これだけを真剣に考えましょう。なんとか利益が出る形で。赤字の案件をなくす仕組みだけ作れれば問題ありません。
―今そこがけっこう悩みで…。お金を儲けるための事業を伸ばすことが、私の中ではしんどいんですよね。でも「こっちを伸ばした方が出張授業にもっと行けるんじゃないか、だから私は労力を割くべきなんじゃないか」と考えたり。
分かる分かる。でも、それはステージの問題なのであまり心配しなくていいし、単純に出張授業をやって儲かる状況が作れた瞬間に切り替えることができます。
―そうですね、いつでも畳めますもんね。
問題は、どうすれば出張授業で黒字にできる状態を作るか、というところ。
地域スポンサーに飛び込みまくれ!
―色々な企業さんを回ったんですけど、やはり向こうにも利益がないといけないので、その組み方がとても難しかったです。
うまく出張授業をやりながらお金をまわる仕組みを考えた方がいいと思います。
僕も出張授業をやろうとしたことがあります。某小学校でやろう、となった時に、地元の歯医者さんが母校だったり地元の学校を卒業していたりするので、山田歯科(仮)に寄付を募って、寄付授業という形でやろうと。
―大学のように年間を通じてやる形ですか?
実際の数は忘れましたが、例えば1年生から6年生になるまで毎年2回、100万円で利益が出る形で実施します。使った教材など通じて「これは山田歯科の寄付授業です」と保護者にも伝わるようにする。
地域商売をしている人からすると宣伝になりますから、「悪くない」と思ってもらえたらいい。学校側は「広告主が山田歯科ならまあいいか。あとは教育委員会さえ良ければぜひ」という感じでしたが、公立の学校に民間企業が宣伝という形で入ることに関して、難しいということになりました。
最初から行政側が太鼓判を押してくれている中で始まればまた違ってくるかもしれません。もし地域の首長とつながりがあるのであれば、どこかの地域と事例を作ってしまうのがいいかもしれないですね。
―首長の権限が強いところだと実現できる可能性がある?
そういうのが僕は美しいモデルだと思っています。町の人が小学校のために寄付授業のスポンサーをするというのは。
地域ごとに、スポンサーが絶対いるんです。地域のお金持ちのおじさんとかいるじゃないですか。
―どこに行けば会えますか?
これは普通に飛び込みまくるしかないですね。
―商工会議所みたいなところとか。
いいんじゃないですか。僕だったら、とにかく飛び込みまくります。地域のお金持ちに、「50万 、100万払って寄付授業ができます」と言ったら「いいんじゃないの、子供のためなら」という人も絶対に出てくる。
あなただってそうするでしょう? 歳も重ねて、お金が余剰にある状況にいたら。
―あったらやります。
っていう人が何人かいるんですよ、どんな地域にも。前例がないから出てこないだけで。
だから、出張授業の形は崩さずに、さらにできるだけ公立にも入れるような形の仕組みづくりを考えてやっていくのかですね。
僕は「動機善なりや」を大切にしていて。自分が儲かるためだけのモデルって、どこかでバレちゃうんです。地域の人が地域の学校に寄付するというのは本当にとても素敵だなと思いますよ。
地域の寄付授業がいいなと思った点はもう1つ。基本的に同じ人が来年もやりたがってくれること。地域や学校の関係ができ、継続できるようになるんです。
そうやって、1つ1つ押さえていったほうがいいですね。最初に営業するコストは高いですが、次第に自転車操業だったものがストック型になっていきます。
―たしかに…。これまでも口コミでは広がっていて、依頼してくださる学校さんも多いです。
大切なのはストック型にすること。1回やってまたゼロベースに戻ってしまうのではもったいない。1回行ったことで「来年も、再来年もやる!」と続けられるようになりましょう。
―そう思ってもらえるものを作るということですね。
もちろん他のビジネスモデルもあるとは思います。でも、自分たちにしかできないところにこだわるのが大事。それなら、やはり出張授業で何とかベースを作れたらいいですね。
難しいことに挑んで既成事実を作れ!
―出張授業は早い時期に受けてもらいたいので、出来る限り小、中、高校生に届けたいと思っているんです。
僕がお2人だったら起業家として「すべての小中高に出張授業を届けたい」と考えるでしょうね。さらに言えば、私立だけでなく公立にまで届けられるようにしたい。そのためには、どうにかこじ開け続けるしかありません。
たとえば、今でこそ誰もが知っている「シェアハウス」。僕らが13年前に始めた当時って、そもそもシェアハウスという言葉がありませんでした。僕が入居申込書にシェアハウスと書いたら、拒否されたんですよ。
―信じられないです。
今では当たり前でしょ。でも、昔はシェアハウスっていっても誰も相手にしてくれない時代があった。大家さんを一軒ずつ説得して周り、業界新聞の記者さんと一緒になってシェアハウスの啓蒙記事を書いてた時代があった。
だから「寄付授業なんて…。民間が公的教育に入り込みやがって!」という考えも、いつかは既成事実化していきます。その時になって初めて、最初は許可してくれなかった人たちも賛成の立場になっていくこともあるでしょう。
―「これが当たり前だよ」と。教育・地域の仕組みとして。
僕がやってきたシェアハウスも、あなたたちがやる出張授業も同じです。
どうにかこじ開けてきた人間がいるんです、どの時代にも。出張授業に関しても、辛酸をなめた時代を過ごす必要があるでしょう。でも途中でやめたらおしまいなので、やめないこと。
ただ、何度も言いますが、無理やり拡大しようとしなくていいかな。自分ができる範囲の中でしっかり追求し続けて継続していれば、必ず「これ、うまく行くじゃん」っていう瞬間が来ます。
あとは絶対に難しい方を選ぶことですね。僕がボーダレスグループでやるとしたら、出張授業以外やらなくていい!と言うくらい。出張授業が一番難しいけど一番インパクトが出る。日本中に提供できるよう仕組みを考え続けよう、っていう感じかな。
―たしかに一番やりたいです。
そしたら、他のことも副次的に出来はじめるようになります。
ブランド化ができたら「教材だけくれませんか」という人が自然と出てくる。芸人さんを呼んで話が聞けるのもいいけど、お金の問題もあるので教材だけが欲しい、と勝手にニーズが出てくる。
もうそこから先は「チャリンチャリン」という感じで、まさに労働集約じゃない形でお金が落ちる仕組みになってくるでしょう。そこから儲かるステージが来ますよ。
まずは出張授業がいいですね。難しい方をやり続けましょう!
―ありがとうございます。頑張ります!
ボーダレス・ジャパン 田口一成さんインタビュー
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