18歳が選挙権を得て10年、「社会を変えられる実感」を持てる教育の実現度は?
- 笑下村塾

- 20 時間前
- 読了時間: 9分
2015年の公職選挙法改正により18歳選挙権が実現してから、10年が経ちました。笑下村塾はこれまで各地の学校に出向き、10万人以上のこどもたちに主権者教育を届けてきました。
「社会を変えられる」と考えるこどもの割合がぐんと増えるなど変化を目の当たりにする一方、課題も感じてきました。若者の政治参加は投票率向上を指標として語られがちですが、選挙だけが政治参加の手段なのでしょうか。どのようにすれば、若者の声を意思決定や政策に反映できるのでしょうか。
2026年1月30日、笑下村塾は文部科学省にて記者会見を開催しました。会見には、笑下村塾代表のたかまつななのほか、学校で民主主義を実践してきた教育者や、スウェーデンの若者の社会参画が専門の研修者が登壇。知事に政策提言したことのある高校生・大学生もオンラインで参加しました。各登壇者の発言を中心に、会見の模様をレポートします。
(会見の動画はこちらです⇨たかまつなな youtube)

未来の民主主義に向けて見えてきた4つの論点
(1)投票率ではなく「社会を変えられる実感」をどう育てるか(たかまつなな)
会見冒頭、たかまつは「若者の声をもっともっと政治に反映したい。そして社会を変える子どもたちを増やしていきたい」と語りました。
笑下村塾はこれまで、高校生が自治体の首長の相談役となり政策提言を行う「リバースメンター制度」の推進や、学校現場での主権者教育に取り組んできました。若者の政治参加というと投票率をどう上げるかという議論に終始しがちですが、たかまつは「それだけではない。議論をアップデートしたい」と強調。投票率向上にとどまらず、政治参加そのものの捉え方を広げていく必要があると述べました。
主権者教育とは「社会を変えられると考えて行動する市民を増やすこと」。そのためには、話し合いによる合意形成や、自分たちのことを自分たちで決める経験が欠かせないと語りました。
たかまつは、主権者教育の実施率は高い一方、具体的な政治事象を扱う授業は3割ぐらいにとどまっていることが課題だと指摘。背景には、政治的中立性をめぐり「リスクになりかねない」と捉える学校や教員が少なくないという実感があるといいます。
また、若者の意欲と自己効力感のギャップにも触れ、社会の役に立ちたいと考えている若者は9割ほどいる一方で、自分の力で社会を変えられると思っている若者は4割程度にとどまっていると紹介しました。

(2)管理教育では「本物の主権者教育」は進まない(工藤勇一氏)
続いて登壇したのは、千代田区立麹町中学校の工藤勇一元校長。生徒を当事者として学校の「当たり前」を見直し、宿題も定期テストも学級ごとの担任制もなくすなどの学校改革に取り組んだことで知られています。工藤氏は、子どもたちに学校運営の主体を渡していくことが学校経営の中心にあると述べました。
管理教育の枠組みの中で模擬投票や模擬裁判といった取り組みを行っても、政治に批判的な子どもたちは育たないと指摘。「だからこそ重要なのは、自分たちの学校を自分たちで動かすことの難しさを体験しながら、より良い学校に変えていく経験」だと語ります。
そうした経験を通してこそ、「自分たちで社会をつくる」という感覚が育まれ、本物の主権者教育につながるのだと強調しました。
また、民主主義の歴史的な浅さや揺り戻しの可能性にも触れ、日本の学校教育はいまだに封建主義的な管理教育の構造を色濃く残していると指摘。子どもの権利条約やインクルーシブ教育をめぐり、国連から繰り返し是正勧告を受けていることにも言及しました。
若者の意識に関する調査結果として、「自分で国や社会を変えられると思う」と答えた若者が2割にも満たないというデータを示して「非常にショッキング」だと述べる一方、麹町中学校で行った調査では、同じ問いに対して「変えられると思う」と答えた生徒が50%を超えていたと紹介しました。さらに、麹町中学校の卒業生の投票率が83%だったというデータにも触れ、学校での民主的な経験が、卒業後の実際の投票行動にもつながっていることを示しました。
最後に、子どもたちに主体を渡すことが簡単ではない現実を踏まえつつ、合意形成の技術を教える必要性を指摘しました。対立が起きた場合でも、共通の目的を見つけ、その目的に向かって合意を形成していく力こそが、民主主義社会を支える基盤になると語りました。

(3)若者参画が進む国は「日常に社会参加の機会が埋め込まれている」(両角達平氏)
日本福祉大学の両角達平氏は、18歳選挙権導入から10年が経過した今、改めて問いたいことがあると切り出しました。
それは、若者の声が本当に社会に届いているのか、という点です。
両角氏は、スウェーデンでは若者投票率が80%を超え、国会議員の約1割が30歳未満であること、過去には18歳の国会議員も誕生していることを紹介。若者の意識が高い国のように見えますが、実際には日常生活の中に社会参加の機会が制度として組み込まれていると説明しました。
具体的には、学校が民主主義を教える使命を持ち、児童・生徒が学校運営に実際の影響力を持てる仕組みがあること、地域にはユースセンターという第三の居場所があること、さらに若者団体への助成金が人件費や施設賃料にも使える点などを挙げました。
また、欧州各国ではユースカウンシル(若者評議会)が制度として位置づけられている一方、日本にはそうした仕組みがないため、特定の個人が「若者代表」として呼ばれる状況が生まれていると指摘しました。
終盤では、若者参画の本質について整理しました。重要なのは、若者が自己決定し、社会に影響力を発揮できるようになることだといいます。単に意見を聞くだけでは意味がなく、実際に若者が影響力を持てる場を、制度としてどう支えていくのかが問われていると語りました。

(4)高校生の提言が社会を変える:「不登校」の名称変更を実現(外所もみじ氏)/「政治を身近に感じるように」(植松水歌子氏)
後半には、群馬県高校生リバースメンターの経験者2名が登壇しました。この制度は、高校生が自身の問題意識から政策をまとめ、知事に直接提言する仕組みです。2023年度に全国で初めて群馬県が初めて導入し、現在は3自治体に広がっています。
リバースメンター2期生で高校3年の外所もみじ氏は、自身の不登校の経験をもとに提言活動に取り組んできたと語りました。不登校という言葉が、当事者に「学校に行くのが当たり前で、それができない自分はダメなのではないか」という感覚を与えてしまうことがあるといいます。言葉が持つ影響の大きさを指摘し、名称変更を知事に提言したところ、知事が変更を発表しました。そのほかにも居場所づくりや支援情報の整理、知事との意見交換など、多くの提言が実際に形になっていると語りました。
この経験から、若者の政治参加を進めるには、リバースメンターのような仕組みが不可欠だと語ります。個人では届けられなかった声も、制度の中に位置づけられることで県政を動かす力になったと振り返りました。
大学1年の植松水歌子氏(リバースメンター1期生)は、高校時代にHPVワクチン接種率向上をテーマに提言を行い、事業化された経験を紹介しました。TikTokを使った情報発信、生理用ナプキンの配布、公共施設でのワクチン接種会場設置といった提案が実施されたといいます。
社会が変わっていく姿を目の当たりにする中で、「高校生でも社会を変えられる」という実感を得たことが、自身の意識を大きく変えたと語りました。リバースメンターの経験を通して政治を身近に感じるようになったと述べ、若い世代が政治に触れる機会を増やす必要性を訴えました。
質疑応答
Q1.18歳選挙権導入から10年。現場では何が変わり、何が課題として残っているのか
18歳選挙権導入から10年が経過するなかで、議論の焦点は投票率そのものから、学校の中で民主主義をどのように実装していくかへと移りつつあります。
工藤氏「麹町中学校の取り組みが広く知られるようになり、全国で子どもの主体性を重視した実践が進んでいる。一方で、子どもの自己決定を尊重することが、秩序の乱れにつながるのではないかと受け止められる学校も多く、現場には葛藤がある。ただし、こうした揺り戻しは民主的な学校づくりの過程では避けられないものであり、本当の意味で子どもが主体となる学校教育へと変わり始めている」
たかまつ「文部科学省と総務省が政治教育を支持した点を制度面での前進として評価する一方、ガイドラインの解釈が難しく、教員が判断に迷い萎縮しやすい構造的課題が残っている。あわせて、インターネット上の誹謗中傷が深刻化している現状を踏まえ、若者の社会参加を支える環境整備も重要」

Q2.被選挙年齢の引き下げをどう考えるか
被選挙年齢については、外所氏、植松氏が若者当事者の立場から「年齢要件の違いによって政治への距離感が変わる可能性がある」「引き下げの是非については考える余地があり、年齢による制度上の壁そのものが議論の対象になる必要がある」と問題意識を語りました。
たかまつ「18歳で大人として扱われる一方、立候補には年齢制限がある。若い世代が意思決定の場に存在することに意義がある。制度を見直す場合には、候補者を守るためのガバナンスや支援体制をあわせて整える必要がある」
両角氏「(海外の事例を紹介しながら)被選挙年齢の議論は制度設計と地域での実践を並行して進めることが重要だ」
Q3.当事者はどのような主権者教育を受け、投票行動にどう影響したのか
若者当事者が、学校での具体的な学びが投票行動につながった経験を紹介。日常的な経験の積み重ねが、若者が主体的に社会や選挙と向き合う姿勢を育んでいることが示されました。
植松氏「公民や社会の授業で模擬投票を行ったり、投票所の様子を映像で学んだりしたことが、実際の投票に対する心理的なハードルを下げた。その結果、落ち着いて投票に臨むことができ、一票の重みも実感できた」
外所氏「通信制高校において、生徒会活動や選挙に近い形での意思決定の経験が日常的にあったことが、政治を身近なものとして捉える土壌になっていた」
会見を通じて浮かび上がったのは、若者の政治参加を投票率の議論に閉じず、日常の中で意思決定や合意形成に関わる経験をどう増やしていくか、そして若者の声が実際に反映される仕組みをどう整えるか、という問題意識でした。
たかまつは「18歳選挙権導入から10年という節目に、若者の政治参加を進めるために必要な仕組みや文化について社会全体で一緒に考えていきたい」と語り、記者会見を締めくくりました。

登壇者
・たかまつなな(株式会社笑下村塾 代表)
・工藤勇一氏(元・千代田区立麹町中学校 校長)
・両角達平氏(日本福祉大学 社会福祉学部 講師)
・外所もみじ氏(群馬県高校生リバースメンター2期生・高校3年生)
・植松水歌子氏(群馬県高校生リバースメンター1期生・大学1年生)


