※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年12月25日配信)
ドイツでは、州ごとの生徒会連合が存在する。一つの学校だけで生徒会活動を完結させず、地域の学校が連携し合い、政治家や自治体に生徒の声を届けることを可能にしている。自分たちの生活空間である学校を自らの手で変える仕組みは、主権者としての意識を育む場として、とても有効に機能していると言えるのではないだろうか。今回は、ドイツの生徒会について紹介したい(取材は2022年9月)。
市役所で生徒会代表選挙
北部ニーダーザクセン州のガルブセン市にある中高一貫校「ヨハネス・ケプラー・ギムナジウム」。21年から生徒会長を務め、同市の生徒会長代表でもある18歳のヤン・レーマンさんに話を聞いた。生徒の日々の問題を解決するために、学校や自治体と連携しながら活動しているという。
「私は生徒会長として常に生徒のために何かを変えようと頑張っています。うまくいくときや、そうはいかないときもあります。いつもガルブセン市と相談しなければいけませんし、それが私の仕事でもあります」
この学校では、生徒会長や学級委員を選挙で決める。クラス内の投票で学級委員が、その後、全校生徒の投票で生徒会長が選ばれる。さらに、市内各校の生徒会長の中から、代表を決める選挙が市役所で行われる。
「全生徒会長代表が新たに選ばれるのは年度初めですね。ガルブセン市内の学校の生徒会長が一堂に会し、その中から全生徒会長代表を2人選出します」
日本には、生徒会が形骸化している中学や高校も多いと思う。理由の一つとして、生徒会の活動が学校内のみで完結してしまっていることが挙げられる。ドイツのように同じ地域の学校同士で横のつながりを作ることで、自治体や政治家に自分たちの意見を届けられる環境を用意し、自らの力で学校を変えることができるという実感が湧けば、生徒会の在り方も変わるのではないだろうか。
政治家に直接伝える
市役所で実施される選挙では、ガルブセンの学校の責任者である市職員や政治家も出席するという。そこで全生徒会長代表を2人選ぶ仕組みで、代表は地域の学校で起きている問題を政治家や行政に直接伝える重要な役割を果たすことになる。
学校で必要な備品の購入なども、彼らを通じて行われる。例えば、故障したトイレの修理や買い替えなどがあるという。日本ではそのような問題は学校側で解決するのが当たり前とされ、生徒の参画は想像しにくい。このように、身の回りのことを自分たちで協力して変えていくことは生徒にとって貴重な経験となる。
「私たちはそれ(学校での問題)に対し意見を固め、それを市や政治家へ適切に伝える必要があります。結局は政治家が最後の決定権を持っていて、私たちが何かを言うと、その問題に対し何かを変えてくれるのです」
最後にレーマンさんから、社会は変えられないと思っている日本の若者へのメッセージをお願いした。
「私が言えるのは、あなたたちは(18歳になれば)投票できる権利があって恵まれているということです。投票する機会や、何かを変える権利のない人々もいるのですから。本当に何かを変えたいのであれば、自分たちで始めるしかないのです。最後には投票が全てを変えるのです」
ドイツでは、生徒会や以前紹介した学校会議といった、学校の中で民主主義を実践するための制度が充実している。そして、若者の声を政治に届けるため、生徒会と行政が連携している。このような場が日本にもあれば、若者の声がより社会に反映されるのではないだろうか。
取材の模様は「You Tubeたかまつななちゃんねる」でもご覧いただけます。
☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。
※記事に出てくる名前、年齢、肩書はいずれも取材した22年9月時点のものです。