• 笑下村塾

「どこまで行っても自信がない」 “傷つけない笑い”の裏にある、せやろがいおじさんの細かな配慮

すっかりYouTuber芸人のせやろがいおじさんの動画は完成度がめちゃくちゃ高い!目まぐるしく変わるアングルで美しい海とコミカルなおじさんを見せたり、分かりやすいテロップをつけるといった動画制作のクオリティも素晴らしい一方、内容の充実度にも目を見張るものがあります。そこには、せやろがいおじさんの過去の経験で学んだことや今も抱える“自信のなさ”があるとか。


Vol.2では“せやろがい動画“の根底に流れるおじさんの思いに迫ります。


■真冬の海にもダイブ!台本から動画編集までこなすYouTuber芸人




―伝えるときに気を付けていることをお伺いします。まず台本を考えて撮影して編集、という動画の作り方だと思いますが、台本はどのくらい考えてらっしゃるんですか?


調べやすかったり、面白いフレーズがぱっと出たら、1、2時間で終わることもあります。でも1週間くらい考えても全然出てこないときもあるので、ピンキリです。


―ドラマみたいな撮影の仕方なんですか?


そこまでちゃんとはやってないですけど、台本を海に持って行って「ここからここまでをこっちで撮って、次はこっち。カメラパンしてもらったらここまで読むわ」という感じです。カメラマンと海の中で打ち合わせしています。カメラマンは素人で、iPhone片手にピュっと撮ってもらってます。ドローンのところ以外は全部iPhone。


―知らなかった。だまされた気がします。全部ドローンでいい映像を撮っているのかと思った。


ジョブズに感謝。iPhoneのスペックが高くなってきているから騙されてやんの。(笑)


―冬の海にも飛び込んで、大変じゃないですか?


そうですね。今年の沖縄は暖かいので助かってます。


―風邪ひいちゃいそうですね。


ガンガン引きますね。せやろがいおじさんを始めて2回目の冬ですが、1回目はめっちゃ風邪ひきました。滝のすぐ前に海があるっていう、最高のロケーションを見つけたのが1月。カメラマンと「どうする?」「浴びる」「1月っすよ?」「浴びなくてもいいけど、浴びた方がいい画はとれますけどね」という会話をして、そう言うなら、とやりました。


―撮影時間はどのくらいですか?


長くて4時間、短いと2時間くらい。


―結構短いんですね。撮り直しも多いとか。


海に行って台本を覚えながら撮ってるんですよ。何回もNG出して、奇跡的に全部言えたら採用、という感じです。


―編集はどうしているんですか?


僕がやっていたんですけど、最近はシーン繋ぐのだけやって、テロップ入れは製作の方にお願いしています。最初は5、6時間かかっていましたが、最近は3時間くらいでやります。テロップ入れはものすごく早くなりましたね。


―芸人のYouTuberって成功しないイメージありますが、成功している上にそこまでされているなんてすごいです。


■論点の本質を見抜く力は座長時代に磨かれた





―台本を作る時は何を意識していますか?


笑いのポイントは絶対に入れるようにしています。笑ってもらえるかどうかは別として「僕は面白いつもりです」というのを入れるのはマスト。あとは自分の意見を言いながらも、色々な立場や考え方の人にどれだけ配慮できるかを考えています。


―情報としてもすごいと思いますが、どのように収集しているんですか?


TBSラジオの荻上チキさんがやっている「Session-22」という番組を聞いています。1つの問題に対して、長く追いかけたり研究している専門家が話しているのでいいなと。いわゆるテレビのワイドショーで知見のない芸能人が自分の感覚で語っているのとは一線を画していますよね。あとは、新聞のデジタル版をぽちぽち携帯で見ています。

チキさんの言葉が自分に突き刺さって、落ち込んだりするときもあります。最近、「“分かりやすさ”というのは、単純化を招くから警戒が必要だ」という話がありました。分かりやすいと「これが正解なんだ!」という考えになりやすいけど、世の中の問題ってそんなに白黒はっきり言えることの方が少ない。だから動画では、みんなで悩むきっかけを作らなアカンなと思いました。


―問題の本質や構造をしっかりとらえてらっしゃると思います。


正直、自分にその力があるか分かりません。ただ、お笑い事務所の座長みたいなことを7、8年やっていたんです。こんな沖縄のローカルでお笑いやろうとする芸人ってヤバいやつらばっかりなんですよ。そいつらがコントを作ろうとしても、まあまとまらない。座長をしている間、みんなが出した意見の中で被っている領域を見つける作業をやってきたから、それが活きているとは思います。


―色々な意見を聞くということですか?


社会問題の本質って、全てが正しいとはいえないにしても、専門家が一番近いところにたどり着いていると思っています。だから専門家が「こういう考え方が主流です」と言うなら、それを広げるようにした方がいいのかなと考えています。


―私がバラエティの番組に出て政治の話をしても、論点がそもそものテーマから外れていると思うことが多いんです。でもせやろがいおじさんの動画は、テーマがバチっとハマっていると感じます。


その言葉を思い出して、今日はおいしいお酒が飲めそうです。


―例え話は分かりやすくするために入れてるんですか?それとも笑わせるため?


一石二鳥になればいいなと。感覚的に落とし込みつつ、笑っていただけたら最高ですね。


―感覚を例えることって、芸人しかできないので、めちゃくちゃカッコイイと思います。


■「光の当て方が違うだけ」。だから違う立場への配慮を忘れない




―動画は全然炎上してないですよね。


そんなこともない。批判はいっぱいきます。


―でも高評価ですよね。あまり炎上しない理由ってあるんですか?


自信がないので、言葉の点検は怠らずにやります。「この言い方だったら、たぶんあの立場の人はちょっとダメージ受けるだろうな」とか「この言葉を入れたら、それが和らぐかな?」とか。全方位外交にならないように、自分の意見を言う必要もあるんですけど、違う目線の人たちに配慮する言葉をちょっと入れるのも大事。


―自分と反対意見の人から攻撃される可能性がある?


攻撃というより、「この立場の人を完全に失念していたな」ということがあります。例えば去年、「台風が来るから、みんな気をつけような」という動画の中で「台風の時に出社させる会社、マジなんなん?危ないやろ」っていう話をしました。それに対して「台風の中でも病院とか介護施設とかホテルとかは出社しないといけない。そういう人もいる」みたいなのが来て「ホンマやん」と思った。しかもその時、俺はホテルに泊まってた。働いている人たちのお世話になりながら「出社するな」だなんて欺瞞だなって。もうちょっと考えてたら、思い至ったはず。「もちろん台風の中、出社せなアカン人もおるけど」とか一言足すだけでかなり違う。


―勉強になります。私は取材などしていると「最終的にここに落ち着くだろう」という論点が見えてくるので、強い調子で意見を言ってしまいます。だからすごく叩かれる。叩く人たちの意見についてはそれ以前の時点で至っているんですが、そこも伝えた上で自分の意見を言うと変わってくるんでしょうね。


自分の意見を言いながらも「そういう考えの人たちがいるということを頭に入れています」と示すのでは違うかなと思います。


―情報に関しても、まるで官僚みたいな感覚も持ってらっしゃいますよね。私は全然身につかなかったです。「~など」と具体例を出したり「可能性がある」と言うのは、意識しないとできないですよね。


僕が何か言う時は「~やろ!」って断定的に言うよりは「~と思うんやけど、どない思う?」「~とちゃうやろか?」みたいな感じ。自信のなさが表れています。

僕の好きな言葉で「物事は見る角度と光の当て方次第で、全然違うものに見える」というのがあります。僕の意見は、ある角度からある場所に光を当てているだけ。違う角度から違う光の当て方をしている人と、話が通じるようにしなければいけない。


―社会問題で困っている人たちを取材していると、自分も同一化してしまって怒りが湧いてきたりします。せやろがいおじさんは、その状況から一旦引いて考えられていますよね。


両論併記になったら卑怯かもしれませんが、困らせている側の事情も気になるし、そこで知った事実は言いたい。あとは動画を見た人が自分で考えて、掘り下げて、自分なりの着地点を見つけてもらえるといいなと。


―調べていくと「あれもこれも言いたい」ってなりますよね。情報の精査はどうしているんですか?


そこはすごく苦しい。最近は3分で「せやろがい動画」をまとめて、そこに入らなかった分は「宅やろがい」といってお家でゆっくりしゃべるみたいな動画をセットで出しています。


―誰も傷つけていませんよね。


よく言っていただきます。何かの雑誌の取材で「誰も傷つけない笑いを目指す」みたいなフレーズがついて浸透してしまったんですが、そんなことはあり得なくて、傷ついている人もいる。だから自分からは声高には言わないようにしていますね。


―客観的に見ても、雑誌の方がそのフレーズにした理由は理解できます。社会問題を語ると誰かを傷つけやすいけど、せやろがいおじさんはあらゆる配慮をしていると思う。


みんな色んな意見を持ってるけど、上流にいくと結局は「暮らしを良くしたい」とか「日本を良くしたい」というところだと思うんです。源泉は一緒だけど、だんだん支流に分かれていっているだけ。究極の目的は一緒だから、敵対とか対立するのは不毛な気がします。地球を滅亡させようとする宇宙人が来たら敵対するけど、「ここを良くしたい」というのは山の登り方次第で変わってくる。


■クレームは気にしない。カピカピだから干しようもない!?




―クレームが来ることもあると思います。その場合、発信の仕方を変えたりしましたか?


今のところはないです。僕はやりたいことしかやれない人間なので。


―前に松本人志さんに物申していましたが、怖くないんですか?


「干されるぞ」とか言われるけど、住む世界が違いすぎる。「すでにカピカピやのに、もっと干せるもんなら干してみい」みたいな。


―すごいですね。


別にディスってるわけじゃないです。「松本さんが言いたいことも分かるけど、こっちの方がええんちゃう?」という提案のつもりなので、失礼じゃないかなと。


―ネットニュースで変に書かれたりしませんか?私も松本さんの「ワイドナショー」でのコメントについて発言したことがありました。どちらかと言うと松本さんを擁護したんですが、ネットニュースでは真逆の切り取られ方をしました。こんなんだから、みんな社会問題や政治について、目上の人に何も言わなくなるんだろうなと思う。


たかまつさんは僕より知名度が高いので、スキャンダラスに書かれてしまうんでしょうね。


―自分のチャンネルを持つことが大事ですね。「私はこういうつもりで言いました」という場がないと、強い相手に勝てなくなっちゃいます。


ブログや動画、SNSなり色々な発言の場を持てるようになったら弁解もできるし、本当にいいですよね。


―vol.3では沖縄の基地問題やお笑い事情などについてお聞きします。




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