※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年5月29日配信)
「もし、彼女が予期せぬ妊娠をしたら、どうする?」。イギリスの中学校の授業中、先生が生徒たちに聞いた。「僕は、学校に通うんだ」。男の子の生徒が答えた。先生が「パートナーだって、学校に行きたいでしょ。あなただけ学校に通うの? それって不平等じゃない?」という。「だから(彼女が妊娠しないように)僕はコンドームをして避妊をするんだ」と生徒が答える。
これは私が昨年、「主権者教育」の授業をイギリスで取材した時に見た光景だ。主権者教育とは、社会にどう参画するかを教えるものだが、日本では投票率を上げるための教育と誤解されがちである。しかしヨーロッパでは、あらゆる社会問題について当事者意識を持たせ、自分ごととして捉えられるように教えることで、子どもたちに「生きる術」をさずけている。イギリスでは性教育も主権者教育の中で行われている。
日本では、性教育はタブー視されていて、正しい性に関する知識を知る機会が少ない。私自身も、正しい性教育を受けてこず、保健の授業では性感染症のことばかり扱われていたので、性=穢らわしい、病気になってしまうなどの偏見をもっていた。
今回のコラムでは、イギリスの性教育について紹介したい。
性的同意について授業で扱う
中学校の授業で、先生が1枚の写真を子どもたちに見せる。廊下の前に立つ女子生徒と男子生徒。男の子が女の子に〝壁ドン〟をしているようにも見える。「この女の子はどう思っていると思う?」と先生が聞く。「デートに誘われているんじゃないかな」「キスされたいと期待している」「本当は嫌だけど、怖くて逃げられないんじゃないかな」
1枚の写真でいろんな意見が出る。子どもたちは、自分以外の見方を知ることができ、感じ方は多様なのだと知る。よくある日常生活の一コマを切り取り、その上で好意を感じる人と嫌だと感じる人がいることを理解するのだ。
性行為についても「相手が嫌がることはしてはいけない」「性的同意をとる必要がある」ということを、学校の授業の中で教えている。日本では、「嫌よ、嫌よも好きのうち」などと、相手が嫌がっていても、行為を続けていいと解釈する人がいる。こんな誤った考え方が出るのも、性的同意などについて性教育がなされていないからではないか。
海外では、小学校の授業で、コンドームの付け方を、実際にコンドームと模型を使って説明する国もある。このように、実社会で役立つ方法として教わっている。イギリスの中学校でも、コンドームをいつつけるのが正しいのか、どのようにつけるべきなのかを、外部講師が来て説明していた。
ライフプランを考える授業
男女の生殖機能が何歳から低下するか、先生がグラフを提示する。女性は30~35歳にかけ大幅に低下することを説明し、生徒たちにライフプランを考えさせる。子どもを持つためには、自然妊娠、不妊治療、人工授精、養子をもらうなどの方法があり、いろんなカップルのケーススタディを見て、どのカップルがどのような子どもの持ち方をするのがいいのかを隣の人と議論する。
子どもを持ちたくない人もいて、持つか持たないかはその人の自由であることを伝えた上で授業は進められる。これもイギリスで行われていた中学校の授業の様子だ。
私は今29歳だが、このようなことを昔から知りたかった。25歳を超えたぐらいから、先輩から「不妊治療のお金がたくさんかかって大変だった。こんなことならもっと早くから始めればよかった」というような声を聞くようになり、「子どもを2~3人ほしいから、今から婚活やらなきゃだめか」と逆算して焦るようになった。もっと早く、私もこの授業を受けたかったと思った。
取材した動画はYouTubeたかまつななチャンネルにアップしているので、ぜひご覧いただきたい。
寝た子を起こすなは間違い
日本では、性教育について一部の保守層が反対している。「寝た子を起こすな」といい、性教育をやると、性に目覚めてしまうという論調らしい。
これは間違っており、性教育をするほど予期せぬ妊娠が少なくなり、初体験の年齢が上がると言われている。性教育を行わないから、性被害を受けても、それに気づけなかったり、傷ついたりする人がいる。学校教育で、性的同意を教えたり、避妊などの正しい情報を伝えたりすることで予期せぬ妊娠や性病を防ぐことができるだろう。
前回のコラムでは、ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏(2019年死去)の性加害疑惑について取り上げた。子どもたちに知識がない場合、それだけ被害にあいやすい。性的同意とは何か、被害にあった場合にどうするかを性教育として教えることで、子どもの性被害を減らせると私は思う。性教育で社会を変えよう。(たかまつなな 隔週月曜更新)
☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。
(了)