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  • 執筆者の写真笑下村塾

緊急対談!菅新首相の素顔を「宿敵」望月衣塑子記者が語る!

今回新総理となった菅義偉氏。 そこで、菅氏が官房長官のころに、会見で矢継ぎ早に質問を浴びせ、疑惑を問いただしてきた東京新聞の記者、望月衣塑子(もちづき・いそこ)さんとの緊急対談が実現。菅官房長官が首相になったら日本はどう変わるのか。笑下村塾たかまつななが、望月さんを通して菅官房長官の素顔に迫りました。 (2020年9月2日取材)


■「細やかな気配り」や「根回し」でスキャンダルを防ぐ



ー安倍首相の辞任表明には驚きました。自民党総裁選では、菅官房長官が出馬を表明し、最も優勢だと言われています。望月さんと言えば、会見場で菅さんといつもケンカをしているイメージがありますが、菅さんってどんな人なんですか?

望月:私は菅さんと直接食事をするなどの個人的な付き合いは全然ないので、会見場での彼しか知らないんですけど、今回いろいろな派閥の人たちが、なぜ彼についていくのかというと、おそらく「細やかな気配り」や「根回し」というのがあるんだと思います。そもそも国会議員の不祥事というのは、側近たちの裏切りというのが如実にあるんですね。最近でも、LINEのやりとりが公開されてしまったり、車の中での会話が録音されていてそれが外部に漏れたりといったことがありました。だから、秘書を含めて側近のことを日頃からいかに大事にしているかが、いざというときに裏切られてスキャンダルとして表に出されるかどうかを左右するんですね。その点、菅さんはあまりスキャンダルな部分は出てこないです。それは菅さんが周囲の人に「細やかな気配り」や「根回し」を日頃からすることで信頼関係を築いているからです。周りも彼を守ろうという気持ちになるんじゃないでしょうか。菅さんは派閥自体は作っていないですけど、菅さんに近い自民党の無派閥有志でつくる「ガネーシャの会」という会があったりして、彼を慕う議員が多いのは事実です。


■女性記者とも男性記者とも平等に付き合う

ー記者との関係はどうなんですか?

望月:確かに記者の間では、菅さんは女性記者があんまり好きじゃないみたいな話も聞いたことがあります。でも本人は「そんなことはない」とどこかで否定していたと思います。 国会議員によっては、女性記者のほうがいいというおじさんたちも多くて、男性記者も同じ場所に来ているのに、女性記者にばかり話しているということはよくあります。そうすると記者仲間の間で、その女性記者は嫉みの対象になってしまう。 それに対して菅さんは、「女性の記者だから」というところはなくて、男性記者とも平等に付き合うらしいです。確かにこの3年見ていて、番記者(特定の政治家に密着して取材を行う記者)のコアなメンバーは十数人いるんですけど、そのうち女性はたぶん1社か2社しか入っていない。むしろ、安倍首相のほうは若い女性記者が多かったりして、それに比べると菅さんは男性記者からも評価が高いようです。


■異を唱える官僚は徹底的に排除する



ー菅さんの悪いところは?

望月:会見ではあえてかもしれないですけど、なかなか「非を認めない」ですし、「過剰にむきになって反発する」ところがあります。私に対する嫌悪感から「あなたの質問に答える場じゃない」と言ったり、同じ質問でも私以外の人が聞いたらもっと違う答えをするだろうなということはあります。 それに、菅さんに対して異を唱える官僚は徹底的に排除されると聞きます。それはかなり徹底していて、官僚は人事でコントロールできるという思いがあるので、仕事で勢いのある官僚でも、自分の方向性に沿って動かない人は飛ばされてしまう。彼が書いたとされる著書の中にも「人事で人心を把握する」という言葉が出てきます。

ー菅さんが官僚を飛ばそうと思えば飛ばせるんですか? 望月:飛ばせます。一説には横浜市が進めているカジノを含む統合型リゾート(IR)の誘致を見越して、横浜市役所の課長クラスに至るまで細かい人事をすべて行っているという噂もあります。もし菅さんが総理大臣になった場合は、内閣総理大臣補佐官の和泉洋人さんが相当重要な人物になってきます。自分の意向に沿って現場の官僚や企業をまとめあげて物事を進めてくれますから。そういう意味では、和泉補佐官の問題(和泉補佐官と大坪寛子厚生労働省大臣官房審議官が、海外出張の際、自由に互いの部屋を行き来できる「コネクティングルーム」に宿泊していた問題)が文春に出てきたときも、菅さんは徹底的に守りましたよね。登りつめていく政治家たちの強さというのは、そのように側近たちに裏切れない恩を売ることができる強さでしょうね。


■記者会見で司会役の報道室長が質問妨害

ー菅さんに関して、印象深いやり取りはありますか? 望月:首相官邸の上村秀紀報道室長(当時)が印象的でしたね。彼は3年前から菅官房長官の記者会見の司会進行を取り仕切ってきて最近異動になりました。私が記者会見に行き始めてから半年後くらいから、私に対して「次の質問最後で」とか「質問やめてください」とか「簡潔にお願いします」と言う方で、明らかに私の話す時間を短くしようとしたり、質問をさせないようにしたりしてきました。これは、彼が菅さんのためにいろいろと動いた結果だと思うんですけど、当時はこの質問妨害は精神的にすごくつらくて嫌でした。 確かに、質疑の最初の方でやたらと長い質問で聞いていたときは、クラブからも注意を受けたので、短く質問をまとめて聞くようにしたんですけど、それでもひどいときは1分半の質問の中で5回ぐらい「次の質問に移ってください。簡潔にお願いします」と言われて私の質問がほとんどかき消されていくみたいなのことがありました。そこで「なんでこの妨害が止まらないんでしょうか」と聞いたら、「質問妨害なんかしていません」って菅さんが言って、その横で上村さんが「次の質問に移ってください」って言うという(笑)。上村さんが菅さんに指示されてやっていたかは分からないですけど、さすがにちょっとやりすぎなくらい延々とやるんですよ。人によってはあれはパワハラと受け取りますし、記者に対しては望月みたいな質問をする記者はこういう目にあうぞ、みたいな「見せしめ」にも見えます。
菅さんは権力側ですから、私の役割としては、長期政権の弊害が出てきたら番記者が聞きづらいこともしっかり聞くとか、森友・加計学園の問題に関しては、社会部で現場の取材もしていましたから、聞かなきゃいけない疑惑はいっぱいあるわけです。それを質問している時に報道室長から拒否反応が出てくるのはおかしな話ですよね。もうちょっと大人になれないのかなと思いました。 一方で、会見はネットで公開されているので、市民がすごくよく見てくれるようになりました。私へのバッシングもありましたけど、聞くべきことを聞いているのになぜ妨害するのかと怒って中学生の方が署名運動をやってくれたりといった動きも出てきました。だから、見る人が見れば、おかしいということが伝わったのかなと。ネットの時代になったからこそ、私も市民の方に助けられているのかなと思います。


■経済重視の政策が続く



ー今後、菅さんが首相になった場合、日本の政治状況はどう変わりますか? 望月:この3年、彼を見ている限りはあまり右や左の思想性というのはないと感じます。憲法改正にはそれほど関心がなさそうです。ただ、経済がだめになると国民が黙っていない、支持率に直結するというのは、これまでの長期政権の中で感じていることなので経済をどれだけよくできるかを重視するのではないかと思います。 コロナ禍で菅さんの考え方として一番分かりやすいのがGoToトラベルです。閣議決定の際には感染の収束後に行うとしていたのに、全然収束しないうちに7月22日に1.7兆円の予算規模で開始しました。政府は第二波ということはまだ正式に一言も言っていないんですけど、この前政府の対策分科会の尾身茂会長が「第二波のピークを越えた」と言いました。やっぱり第二波が来ていたんじゃないかって思うんですけど、それは経済をとにかく回さないと自分たちの支持基盤を含めた財界が黙っちゃいないということで、GoToトラベルを始めたということなんだろうと思います。
 一方で、韓国や欧米各国と比べても、新型コロナウイルス感染症を診断するためのPCR検査の検査数を増やすことに及び腰です。検査数を増やしているとはいっても、まだせいぜい3万件とかで、ニューヨーク州だけで1日6〜7万件やっているようなアメリカには及ばない。それはなぜかというと、GoToトラベルをやるときに軒並み検査をしたら、無症状とか軽症状の人からも陽性がたくさん出てしまうから検査をしたくないというのがあると私は思うんです。結局、まずは経済を回していきたいがために、PCR検査の数が抑制的になっているのではないか。医療の現場が今後どうなっていくかが心配です。


■韓国や沖縄に対する敵対的な態度は変わらず

望月:安倍政権では、女性活躍とかジェンダーバランスを含めた取り組みが全然進まなかったので、これは菅さんが首相になってもなかなか進まないでしょうし、韓国に対する敵対的な対応も変わらなそうですね。 沖縄の辺野古基地に関しても、軟弱地盤だということが指摘されるなど作るのは難しいのでないかと指摘されていますが、そういう現状をごまかしながらアメリカの決めた方向性に沿ってとにかく米軍基地を作ろうとする。県民投票では県民の7割がNOという意志を示していますが、沖縄の基地に絡んだ圧力をかなり強化するのではないかと思います。

■「政治の私物化」が進み、疑惑の真相は明らかにされず?




ー安倍さんの路線を追従していくということですね。では望月さんとしては、「菅首相」の誕生は、どちらかというと嫌ですか? 望月:そうですね。安倍政権のもとで「政治の私物化」が非常に進んだ気がします。安倍さんは最後の会見で「私はそう思わない」と言っていましたけど、森友問題も、加計学園の問題も、伊藤詩織さんの問題も「政治の私物化」と言われても仕方ない。 森友問題に関しては、安倍さんの妻の昭恵さんが名誉校長を務める森友学園が、新たな学校を作ろうとして起きた値引きの問題だったし、加計学園も安倍さんが自分の腹心の友だっという加計孝太郎さんが作ろうとしていた獣医学部新設の動きだったし、伊藤詩織さんに関しては、安倍さんに最も食い込んでいる男性記者と言われていた元TBS記者の山口敬之さんの性的暴行疑惑でした。さらに、長期政権の中で、直接の指示がないにしても、官僚が官邸のために仕事をするという意識が強まってしまった。自分たちの人事が人事局に握られているというのもありますけど、それが結果として公平・公正な行政が、国民のために機能しない状況を生み出しました。 こういうときに、かつて見られたような、自民党内の自浄作用が働かなくなってきたのも大きな問題です。長期政権の弊害が出てきたから、安倍さんには一度退陣してもらって、党内のおかしいところをしっかりと調査して、問題があれば解決する。そうやって疑惑を払拭して変わっていこうという様子が自民党には全然見られませんでした。 森友学園の国有地売却問題を担当していた財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さんが無念の死を遂げた問題では、改ざんに関わりたくないと反発していた赤木さんがあのような目にあって、公文書の改ざんがいかに問題であるかということが明らかになりました。しかしその後、首相主催の恒例行事「桜を見る会」を巡って、招待者名簿を共産党の宮本徹衆院議員が政府に資料請求したにもかかわらず、その数時間後にシュレッダーで廃棄されました。本当にコントみたいな話です。これに対して国民は、公文書を扱う人の意識が変わらない限り、またこうした問題は繰り返されると感じると思うんですね。新たに首相が変わることで、こうした負の遺産をリセットしてくれるのではないかという期待があるはずです。 しかし、菅さんが首相になるとすると、こうした期待をどうしても持てない。検察幹部の定年延長を政府の判断で可能とする検察庁法改正案については、菅さんが安倍さんよりもこだわっていたと言われています。黒川弘務検事長について、定年延長という閣議決定がなされて、その後それと連動するかのように検事長の定年延長を認めるかのような改正法案が出されました。これは推測もありますけど、森友問題や加計学園の問題を含めて、刑事罰を含めた事件のターゲットになったときに、守護神である黒川さんを検察庁のトップに置いておきたいという意図もあったのかなと。 そういうことも含めて、菅さんが首相になると、これまでの疑惑について再調査に踏み切るとは絶対に思えませんし、いろいろなことが明るみになるとも思えません。結局、うやむやなことがうやむやなまま進んでいくんだろうなと思います。

ーありがとうございました。ポスト安倍政権がどうなるのか、自民党総裁選に注目ですね。


後半では、マスメディアのあり方や新聞記者という仕事について望月さんに語っていただきました。


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