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菅新総理を追い詰めた望月衣塑子記者に聞く 新時代のジャーナリストとは

新総理となった菅義偉氏が官房長官だったころ、彼に対して会見で鋭い質問を繰り返し、バトルを繰り広げてきた東京新聞の社会部記者、望月衣塑子(もちづき・いそこ)さんです。前半のインタビューでは、菅氏の素顔について赤裸々に語ってくれました。  あえてその場の空気を読まないその取材手法から、たびたびバッシングも受けてきた望月さんですが、なぜそこまで自分の信念を貫くことができるのか。新聞記者という仕事にどんな思いを抱いているのか。NHKでニュース番組の制作にも関わっていた笑下村塾たかまつななが、望月さんに胸の内を聞きました。


■相手によって取材の手法を切り替える




ー新聞記者という仕事について伺いたいです。望月さんと言えば菅さんを始めとして、取材相手と激しくやり合っている印象があるんですが、敵対してしまうと情報を取りにくくなることってありませんか? 望月:私はどういう人に話を聞くかによって、取材の方法を使い分けています。社会部なので、社会的に追い込まれている人に話を聞くこともあるんですが、そういったときは当然ケンカ腰では行きません。逆に、政治家や官僚など権力側にいる人に話を聞いて物事を掘り下げていくときには、なめられてはいけないから攻撃的にはなるけれど、常に戦闘モードでいいかというとそれはダメだと思うんです。情報を取るためには「私はここまで調べていて、ここまで分かりました、これはおかしいですよね」と冷静に問いを重ねていける取材力も重要です。 政治家に対しては、政治部の記者と比べると社会部の記者のほうがしつこく追及するイメージがありますよね。政治部の記者は政治家から情報を取って来るのが仕事だから、厳しく問い詰めて嫌われるようなことはしたくない。だから政治部が聞けないことも含めて、私たちが淡々と攻めていきたい気持ちはあります。


■応援する多数の読者の声が会見場に足を運ばせた

ー社会部の望月さんが菅官房長官の会見であれだけしつこく質問していたことに対して、同じ会社の政治部記者とはトラブルにならなかったんですか? 望月:ちょうど、私が森友学園や加計学園の問題について厳しく追及していこうと思っていた時期、政治部は「望月はいつまで来るんだ」みたいな「他社からの非難」と会社側の「私を擁護する方針」との間で板挟みになって大変な状況に追い込まれていたんです。 というのも、私はあとから間接的に聞いた話なんですが、当時の編集局長が政治部長と社会部長を呼び出して「望月のことで現場の政治部にはかなり迷惑がかかっていると思う。しかし読者や視聴者からは『私たちが聞きたいことを聞いてくれる記者がようやく現れた』とか『嫌がらせがあっても彼女だけは守ってほしい』とか『質問をやめさせるようなことはしないでほしい』という声が多く寄せられている。我々は今、読者の疑問や思いにこたえる仕事をするべきだ。彼女が会見に行きたいという限りは、行くなとは言わないようにしよう」という趣旨のことを言ってくれたそうです。実際に当時は、私を応援してくれる読者の声が何百件と寄せられて、東京新聞の部数も大幅に伸びました。だから当時は政治部には迷惑をかけたと思いますよ。


■若い記者に闘う背中を見せたい



ー望月さんは、東京新聞の中では嫌われていないんですか?

望月:嫌われていると思います。映画監督の森達也さんがドキュメント(望月記者を追ったドキュメンタリー「i−新聞記者ドキュメント−」)を撮影してくれているときに、「望月さんみたいな人はジャーナリズムにいなきゃいけないけど、みんな望月さんだったら会社組織が壊れちゃう」と言ったんです。森さんに言われたくないですとは思いましたけど(笑)。でもうちの会社からは「ちょっと危なっかしいけど、こいつのこういう良さは伸ばしてあげよう」みたいなおおらかさを感じます。 そう考えると、たかまつさんがNHKを辞めてしまったのはすごく残念です。NHKに入局したと聞いたとき、こういう人を採用するところがあるんだと感心しましたが、辞められると聞いたときには残念でしたね。 ー東京新聞だったら良さを伸ばしてもらえたかもしれませんね(笑)。望月さんに続こうとする若い記者も出てくるんじゃないですか? 望月:記者であればみんな、いろいろな壁を前にして何とか乗り越えたいと葛藤していると思うんです。そんなときに、私みたいな人間が全く空気を読まずに言いたいことを言っている姿を見て、エネルギーを受け取ってくれる人が出てくればいいですね。 実際に、ある地方の支局の若い記者が空気を読まずに県の知事に質問をしたことで、ベテランの女性記者に注意されてしまって悩んでいるときに、私が官邸の会見場で暴れているのを見て「こういう人もいるんだ。自分も思いをぶつけていいんだ」と思ってくれたらしいんです。その後「僕も負けずに嫌がらせがあっても頑張ります」みたいな言葉をくれてうれしかった。私も駆け出しのころはそうでしたけど、地方の記者ってすごく理不尽な思いをしてへこんだりすることがたくさんあるんです。でもこうやって苦しんでいる記者が、私が叩かれながらも闘っている姿を見て頑張ろうと思ってくれるなら、すごくやりがいがあります。




■メディアのコントロールを強化した安倍政権



ー望月さんは安倍政権になってからの日本のメディアの状況をどう見ていますか?

望月:自民党が野党になってから、第二次安倍内閣として与党に返り咲いたとき、最重要テーマと考えられていたのが「メディアをコントロールしていく」ということですね。彼らは、自分たちが野党になったときにメディアにやられたという意識が非常に強い。だから、メディアのコントロールを強めていったなという印象があります。 こうした中で、安倍さんがお気に入りの媒体なら何度も単独インタビューを受けるけれども、気に入らない媒体だとほとんど受けないというようなことも出てきた。すると、メディアの側も安倍さんに単独インタビューを受けてほしいところと、それとは対照的に批判的なトーンを強めて報じようとするところに分かれていきました。 つまり安倍政権のもとでは、徹底して自分たちに都合のよいメディアを味方につけながら、記者が一丸となって権力者に対抗する構図にならないようにコントロールしていくという流れが進んだように感じます。


ー恐ろしいことですよね。でも、権力側がメディアをコントロールしたいと思うのは必然的だとも思います。メディアが弱すぎるんじゃないかと感じますが、安倍さんが首相を辞めたら状況は変わるんでしょうか?

望月:総裁選は菅官房長官が優勢だと言われていますが、菅さんが首相になればよりいっそうメディアの状況はひどくなると思います。会見では質問は全部事前に提出させますし、朝と夕方に行われるぶら下がり(記者が取材対象者を取り囲んで行う取材)も都合の悪いときにはやらなくなるでしょうね。先月、NHKの日曜討論に出た時も、討論番組のはずなのに菅さんしかいなかった。ああいうことも集中的にやっていくかもしれません。もしかすると、安倍さん以上にマスコミに対していろいろな手を使って批判的な厳しい追及をやらせないようになるんじゃないかと思います。


■「 I(私) 」を大切にして記事を書くジャーナリストでありたい


ードキュメンタリーを見て驚きましたが、望月さんを活動家と感じる部分もあるように見えました。ジャーナリストと活動家、ご自身の役割としてはどう考えているんですか? 望月:私は自分をジャーナリストだとは思っていますが、活動家だとは全く思っていません。新聞記者はもともと、自分の主観を入れて表に出て行くような仕事ではなくて、どちらかというと「黒子的な仕事」だと思うんですね。でもネットの時代になって、東京新聞もラジオチャンネルをやったりして、紙の媒体に限らず情報発信をしようという流れになっています。朝日新聞でも毎日新聞でも個性的な記者がTwitterでつぶやいているし、新聞記者は黒子であるだけじゃなくて、自分自身の思いも言葉にして記事で伝えていくことが重要なんじゃないかと思います。 いま、電子版が非常に読まれているアメリカの「ニューヨークタイムズ」という新聞社では、自分という「I(私)」を大切にして記事を書きなさいと言われるらしいです。そのほうが記事がよく読まれると。ファクトだけでなく、自分の感情を入れるというのは今までは考えられないことでした。でも、記者の中には自分が取材したからこそ伝えられる、伝えなきゃいけない思う人も多いと思うんですね。それを素直に伝えていくことも、新しい記者のあり方なのかもしれないと思います。


■「スクープ」よりも質の高い「調査ジャーナリズム」を



ー望月さんはこれからの時代はスクープを独占するんじゃなくて、他の記者にも共有すべきだということを本に書かれていてびっくりしました。なぜ、そう思われるんですか? 望月:一社で鮮やかにドーンとスクープするのもいいんですけど、政治のおかしさを伝えるには、より多くの記者と共有しないと権力とは闘えないんですよね。新聞各社には政治や社会に対して問題意識を持つ記者がたくさんいることを知るうちに、自分の会社だけでネタを囲い込むのではなくて、どんどん共有していくのが理想だと思うようになりました。
 ネットの時代になって、新聞の購読者数は確かに減っているけれど、それでも私たちが事実を掘り下げて世の中に出していくという「調査ジャーナリズム」の役割は重要です。特に朝日新聞は、国会で安倍首相に何度も名指しで批判されるぐらい調査能力が高い。あそこまで徹底して調査報道班のようなものを作って報道をするというのは、まだ今のネットメディアにはできていないことです。今後は、ネットメディアの調査ジャーナリズムも出てくると思うんですけど、私たちのようなオールドメディアのいいところは、ある程度の人とお金をかけながら掘り下げていくことができるということだと思います。


■共感してくれるお客さんにエネルギーをもらう



ー望月さんは官邸直属の情報機関である内調(内閣情報調査室)や公安警察(公共の安全と秩序を目的とする警察)からチェックされているということですが、お子さんもいらっしゃるのに不安じゃないんですか? 望月:内調の人から直接「あなたを調べていますよ」と言われることはないですけど、例えば内調と関係がある記者が「かつてはあの人だったけど今は望月さんだから」というようなことを聞いたことはあります。でも、日本ではロシアのように毒殺されたりするわけではないし、やっぱり忖度したり萎縮したりするのが一番よくないですよね。 ーどうしてそんなに強いんですか?泣いたりしないんですか? 望月:ひとつには、講演会でお客さんからエネルギーをもらえていることが大きいです。確かに怖い思いをすることもありますが、講演後に声をかけてくれたり握手をしてくれたりする人たちと話をすると、みんな私と同じように今の政治がおかしいと感じてくれていて、励まされるんです。会社に来る応援メッセージにも勇気づけられます。だから、自分が強いというよりも、皆さんに育ててもらっているんです。自分だけの問題意識で頑張ろうと思ったら1カ月ぐらいで途切れていたと思うんですけど、外に出ていろいろな人に声をかけてもらううちに、世の中はもっと変えられるし、声を上げて闘った方がいいんだと思えるようになりました。


■ジャーナリストとして生きていく



ー望月さんの最終目標は何ですか? 望月:私はたぶんジャーナリストという仕事がすごく好きなんですね。いろいろ周りから怒鳴られたりしてきましたけど、私はすごく人が好きですし、誰にも気付かれていないけどすごく大事な問題を掘り起こして伝えていきたいという気持ちは常にあるので、やっぱりジャーナリストとして生きていきたいなと思っています。

ー 本を読んで印象的だったのが、ご主人がめちゃくちゃ素敵だということでした。twitterのコメントを「君は見なくていいよ。メンタルがおかしくなっちゃうから僕がチェックするよ。でも必要になったら言うよ」って。 望月:私はすぐケンカになるし、突っ走りやすいので、そこを冷静に見てくれていますね。カーッとなって書いたときには炎上して会社に呼び出されて。そのときに彼には何回か怒られました。「お前の気持ちは分かるけど抑えろ」みたいなことを言われて。

ーご主人の優しさをお伺いしたので、私にもぜひ恋愛のアドバイスをいただきたいのですが。家で政治とかについて熱く語れるパートナーがほしいです。 望月:たかまつさんの良さを引き出しつつ政治談議ができる方ですよね…。 ーどうやったらできますか?紹介してほしいです! 望月:私は支局時代に出会いがあったと思いますけど…。 ーぜひ具体的なアドバイスを! 望月:いろいろインタビューに行かれるから、記者やディレクターと出会ったりは…? ー新聞社とかテレビ局の人とかって、やけにモテません?みんな結婚してますよね。 望月:かっこよく見えるところはあるんですかね。でも女性記者は……。 ーいい人がいたらぜひ紹介してください(笑)。本日は長時間ありがとうございました。


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