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  • 執筆者の写真笑下村塾

ドイツで行われている平和教育って?

※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年11月27日配信)

ロシアのウクライナ侵攻が始まってから1年8カ月が過ぎた。イスラエルでは「戦争」が始まり、第三次世界大戦の引き金になるのではないかと緊張感が走っている。しかし日本では、戦争は二度と起こしてはならないと誰もが知りつつ、具体的にどのようにすれば良いのか分からない人が多い。これまでは戦争の悲惨な体験を聞き、平和を祈る教育が主流だった。だが戦後80年近くがたって直接的な記憶の伝承が困難となり、それだけで十分とは言えなくなった。昨年のウクライナ取材で聞いた人々の生の声をヒントに、私が提唱してきた「平和をつくる教育へのアップデート」が必要ではないだろうか。昨年秋、平和教育が進んでいる国の一つであるドイツの歴史の授業について取材した。この国でどのような平和教育が行われているのかを紹介したい。


歴史は現在の価値観の「ものさし」

 北部ニーダーザクセン州の中高一貫校で、高校の歴史と経済の授業を(取材当時の)4年前から担当している教師ミヒャエル・ブッシュ氏にお話を伺った。ブッシュ氏は、歴史の事実だけを教えるような授業にしないことが大切だと言う。

 「生徒たちに授業で考えてほしいのは、歴史の中の個人(民衆や権力者)がなぜその選択をしたのかということです。与えられた状況でどう判断できたのか?そのように決めなければならなかったのか、それとも別の選択もできたのか」

 歴史の事実を学ぶだけでなく、その選択をしたことから見えてくる、当時の人たちの潜在意識を知るのが大事なのだと説明してくれた。このようなことを生徒たちに考えてもらおうと、第1次世界大戦(1914~18年)の授業では、オーストリア皇太子がセルビア人青年に暗殺されたサラエボ事件の後、ドイツ皇帝ウィルヘルム2世がオーストリアに対して取った選択を取り上げたという。

 「彼がオーストリア皇帝にいわゆる『白地小切手』と呼ばれる自筆書簡を渡して『よし、どんなことをしても支援するぞ』と言いました。その瞬間、いろいろな選択肢の中から、まさにこれを選んだのです。私は生徒たちに問います。『なぜ彼はそうしたのか』」

 そのような選択をした理由を自分なりに考えれば、生徒たちは「そうか、当時はナショナリズムが主流だったんだ」「みんな、なぜか戦争に熱中していたんだ」と分かると、ブッシュ氏は語る。その時に「今とは違う価値観があった」と気付くことがとても重要なのだ。

 過去の選択を分析し、当時の価値観を知ることがどうして平和学習に不可欠なのか。ブッシュ氏はそれを「違い」の体験ができるからだと言う。異なる時代を生きた人々の価値観を知ることで初めて、現代の人たちが持っている価値観を見つめ直せるのだ。

 「昔の人々は、今とは違う潜在意識で行動しました。そして、歴史は現在の行動のための実験室のようなものとして理解できるのです。今日適用されるわれわれの価値観の方向性を得るためには、人は常に他者(比較としての他の価値観)を必要とします。そして歴史はその『他者』なのです」

 17~18歳の生徒25人が対象の授業で、この理論が必ずしも成功するとは限らない。しかし、多くの歴史的事例でこのようなことを繰り返すのが大事なのだという。


社会から疎外された側への視点も

 ナチズムについても、もちろん同じように授業で取り上げる。つまり、何がこの運動を引き起こす思想を形づくったのか。その上でもう一つ、授業で欠かせない視点があるという。それは社会から疎外された人々にとって、その歴史的事象がどのような意味を持った(持つ)のかということだ。

 「つまり、ヒトラーが政権を掌握した1933年以降に起こった歴史において(二つの異なる観点からの)並行的な説明が必要なのです。例えば(われわれドイツ人の歴史があった一方で)ユダヤ人にとってはそれが何を意味したのか、など。そう、(ユダヤ人から公民権を奪った)ニュルンベルク法は何を意味するのか…いわば私生活にどれだけ深く干渉しているのか、ということです」

 授業では映像などを用いるが、戦争の経験者(その際はユダヤ人の差別経験者)に直接お話に来てもらうこともあるという。

 「その人が目の前に座ると、まさに経験者として持っているオーラ的な要素と言いますか…。というのも、彼らは本物の説明ができるので、映像で見せるのとはまったく別物なんです。そこ(その人の中)では本当に何かが失われているのです」


歴史を「自分ごと」として

 平和を維持するため、あるいは増進するために授業で(生徒に)何を伝えられると思うかを尋ねた。

 「戦争の結果を、個人として見えるようにするのが重要です。一般市民だけでなく戦いに行く兵士にも言えるが、個人が戦争を経験することにどんな意味があるのか。単なるトップの意思決定や武器の数ではなく、実際に人々は意味のある体験をしているのです」

 また、ブッシュ氏はこう付け加えた。「もう一つ。(歴史の出来事が)『どうしてそうなるのか?』、一連の原因を解明することです。つまり、歴史は(全く同じように)繰り返されませんが、ある状況にはもちろん類似点が存在するのです」

 そして最後に、平和を達成するためには何が最も大切かを聞いた。

 「『戦争』という、平和の対極にあるものへ目を向けること。これは平和の価値に気付くための重要なポイントの一つです」

 ブッシュ氏は、ウクライナ侵攻で現在起きている残虐行為に焦点を当て、なぜこのようなことが行われるのかを考えるのが、平和をつくるための方法の一つだと述べた。

 平和をつくるために、私たちは何ができるのか。そもそもなぜ戦争が起きるのか、それぞれ個人の選択肢に立って、当時の価値基準とは何だったのかを考えることの大切さが取材で分かった。そして私たちが持っている価値基準も、後世からは時代遅れに映るかもしれない。その価値とは時代によって変わるものであり、何が正しいのかを常に自問自答し、自分の価値判断を疑うこと、それが平和につながるかもしれないと思った。(隔週月曜更新)

 取材の模様は「YouTubeたかまつななチャンネル」でも見ることができます。



 ☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。


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