2日に1回は「やめたい」と思った― たかまつなな、芸人としての収入をつぎ込み、10年前にスタートした「若者と政治をつなげる」活動の現在地
- 笑下村塾

- 2 日前
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どうすれば、私たちの声で政治を動かし、社会を変えられるのだろう―。社会起業家であるたかまつななは、10代の頃から、若者と政治をつなげようともがいてきました。株式会社「笑下村塾」を立ち上げたのは大学院1年目の時。「2日に1回はやめたいと思った」という厳しい道のりでしたが、国内外の教育現場に通い、発信を続けてきました。
2026年は、18歳選挙権が施行されてから10年目。たかまつの目に、現状はどう映っているのでしょうか。
(このインタビューは2026年1月20日に行いました)
海外で出会った「世界を変えられる」と感じている若者たち
若者の政治参加が盛んな国をいくつも訪れ、取材を重ねてきました。「どうして選挙に行くの?」と聞くと「世界を変えられると思うから」とか「社会をより良くしたいから」という理由がとても多いんです。自分が社会の一員であり、そのことを示すために意見表明をする、という感覚が強いと感じます。
学校や家庭で自分の意見をしっかりと伝えて、相手の意見も聞いた上で合意形成したり妥協したりする経験をすることで「民主主義」が根付いている。
「あなたのことは大好きだけど、意見が違う」ということはありますよね。でも、日本では「意見が違う」というと、人格否定だと捉えられてしまうことが多いな、と思います。
民主主義って「多数決で勝った人はなんでもやっていい」わけではなくて、「少数派の意見をいかに汲み取るか」「様々な意見がある中、どのようにして合意形成するか」ということが大事だと思う。たとえば、実際にある学校で実践していたという話を聞いたのですが、学校で、運動会でリレーをするかについて多数決を取ると、やりたい人の方が多かった。でも、足が遅い子にとって、リレーは罰ゲームのような感覚かもしれないですよね。「全員が楽しめる運動会」について話し合い、「参加したい人だけがリレーに参加すればいいのでは」という議論になったそうです。
私は昨年結婚しましたが、お互いに姓を変えたくなかったので事実婚を選びました。でも「どちらの名前にするかの話し合いもできないなんて」と批判されました。話し合いができるからこそ、こういう選択にしたのですが……。「相手の意見にあわせる」とか「自分が折れる」ことがいいことだ、という感覚が日本では強いのかな、と感じます。

若者の声が政治に反映される仕組みを
私は10代の頃から、子どもや若者の声が政治に届いていないと思っていました。でも18歳選挙権が導入されて、若者はどう考えているのかがメディアで取り上げられるようになって「政治の場で初めて若者が主役になれた」と感じました。
政治に興味を持ってもらうためには教材が大事だと思って、政治とお笑いを掛け合わせた教材を作りました。「民主主義って使い方次第なんだよ」と話したり、世代別の人口比に投票率をかけて「世代別の影響力」を示し、「人口が少ないからこそ選挙に行って存在感を示して」と伝えたり。
当時、選挙が社会を動かすための最大の手段だという感覚を強く持っていました。でも徐々に、選挙以外にもいろいろな可能性があると思うようになりました。
学校の文化を変えることの難しさ
大学院生だったときに株式会社「笑下村塾」を立ち上げました。取り組んできたのは、主権者教育―国や社会の問題を自分の問題だと捉えて、自分で考えて判断し、行動していく主権者を育成していくこと―です。
学校に出向き、年間約1万人の子どもたちに授業を届け、子どもたちが大きく変わる姿を見てきました。たとえば2022年、参議院選挙を前に79の公立、私立高校に出前授業をした群馬県では、県内の10代の投票率が前回より約8ポイントも上がったんです。
2024年に日本財団が行った18歳意識調査で「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と答えた割合は約46%で、6カ国の中で日本は最下位でした。でも出前授業後にアンケートを取ると「社会は変えられる」と思う子の割合は平均で7〜8割。「普段手を挙げない子が発言した」と先生にびっくりされることも多いです。
子供たちは、空気を読む力や忖度する力がとても強い。「自分の意見を表すことが肯定されている」というメッセージを伝えたいし、「校則を変えたい」という生徒がいれば「いいじゃん」って反応する。そんなふうにして、心理的安全性を作ってきました。
でも多分、「じゃあ、その校則について先生と話そうよ」という変化までは起こせていない。授業を聞いているのは一部の先生だけなので、職員室の雰囲気や学校の文化までは変容できないというのが正直なところです。
授業の中でロールプレイをすると、子どもたちは柔軟なのですが、大人は自分の考えから脱却できないことが多い。意思決定の場にいる人たちの価値観に変化が起きることを期待しています。

リバースメンター制度でブレイクスルーが起きた
「社会を変えられる」と思う子どもたちは増えた一方、社会は変わっていないのでは―。若者の声が政治に反映される仕組みが必要だと感じて、2023年に始めたのが「リバースメンター制度」です。一般的には年配者が若者のメンター(助言者)として指導や助言するのに対して、立場を逆転させて若者が上司や年配者に助言を行う、というものです。
始めてから3年目ですが、ブレイクスルーがすごい。群馬県では毎年、高校生10人が知事のメンターになり、様々な提言をしています。2025年度には「不登校という言葉をポジティブなものに代えてほしい」との提言を受けて、知事が「UniPath(ユニパス)」という名前に代えると発表しました。他の不登校支援制度についても今、県で議論が進んでいます。
日本では、社会活動をしている人やNPOは自分たちの活動で精一杯になりがちでした。リバースメンターは横のつながりが強くて、支え合えていることが素敵だな、と感じています。「先輩が社会を変えている姿を見て応募した」という人も増えました。高校生が声を上げるという文化が浸透してきたのかな、と大きな手応えを得ています。
制度が導入されているのは、3自治体。「世の中の3.5%の人が動くと社会の大きなムーブメントになる」と言われているので、全国1700ぐらいの自治体のうちの3.5%、60の自治体で同じようなプログラムが始まったら社会が大きく変わるのでは、と期待しています。

主権者教育に取り組む先生がリスクにさらされている
18歳が投票できるようになってから、10年がたちました。投票率が向上したかだけではなく、若者の声を政治に届ける仕組みは十分なのか、政治に届けるってどういうことなのか、という検証が必要だと思います。
校則を変えるという動きは出てきたけど、「ブラック校則をなくそう」といった文脈が強い。自由に議論して物事を変えることが浸透しているかというと、一部に限られていると思います。
主権者教育の実施率は9割超ですが、具体的な政治事象について触れているのは3割。学校に政治家を呼ぶと問題にされることもあり、主権者教育に取り組む先生がリスクにさらされています。
私が取材に行った国々では、政党についても学校で教わっていました。スウェーデンでは小学校の教科書に政党の名前が載っていて、どの政党がどんな基本理念を持っているかを比較できたり、デンマークでは「〇〇党の議員になりきってディスカッションしましょう」という授業をやっていたりするので、政党への理解が深いんですよね。
日本では「中立にするために詳しくは触れないでおこう」という感覚が強い。高校用の『私たちが拓く日本の未来』という副教材があって、「政党比較表を完成させよう」というワークシートがついていますが、真っ白のままの学校が多いんです。
包丁の使い方だって、調理実習で習いますよね。政党について学校で教えてもらえないと、ネットの情報だけで選挙に行け、ということになってしまう。リアルに知る機会が少ないから、ネットでレコメンドされた政治家が支持される形になりやすい。政党名が載った教材を国が作る、あるいは超党派で政治家が作ってほしい。政治家を学校に呼ぶときのルールも曖昧な表現なので、具体的にしてほしいと思っています。
民主主義の根底には信頼が必要
スウェーデンやデンマークでも「中立性の担保が必要」とは言われています。でも、「リスクを取ってでもやる」という姿勢がある。スウェーデンで主権者教育を推進している省庁の方とお話した時に「先生が政治的中立性を犯した場合、どうされているんですか?」と聞いてみましたが、「先生を信頼しているし、先生たちはしっかり教育を受けているから大丈夫」という返事でした。
ドイツのベルリンでは、小学生も「学校会議」というのに参加して、校長先生に投票する権利まで持っていました。「ポピュリズムが起きるのでは?」と質問したら「ポピュリズムを学べる最大の機会じゃないですか」「1年目にお調子者を選んでも、2年目には違う人を選びます」と言っていました。学ぶために失敗することを許容していますよね。民主主義の根底には信頼が必要だと実感しました。


子どもたちは「対等なパートナー」
日本では子どもについて語るとき、大人が主体になっている感じがします。もちろん、子どもたちを守ることも大事だし福祉も必要ですが、子どもを信頼してエンカレッジすることも大切。弱くて守るべき対象として、石橋を叩いて渡らせるみたいな感じだと、子どもがなかなか主体性を持てないのではないかと思うんです。
子どもたちを「守るべき存在」から「社会を作っていく対等なパートナー」と思って信頼すれば、本当の意味で若者の政治参加ができると思います。子どもたちの感性を、社会として聞き入れられるのか、が鍵になると思う。
私は、仕事がなくなるリスクを負いつつテレビ局や芸能事務所の問題にも声を上げてきました。いま32歳で、まだ若いという気持ちもあります。でも、高校生の「⚪︎⚪︎したい」という言葉を聞いたときに「強く反対する人がいるな」という考えが頭をよぎってしまうこともある。しがらみがないからこそ言えることって、あると思います。
いま、不登校または不登校傾向にある中学生は13.3%(日本財団「不登校傾向にある子どもの実態調査」)。それほど、学校が居づらい場所になってしまっている。学校だけでなく会社でも、自分の意見を言ったり話し合いができたりすれば、全然違うのでは。みんなが議論して合意形成する力を身につけられたら、もっと生きやすい社会になっていくんじゃないかなって思います。

「30歳の壁」をなくしたい
お笑いの活動で得た収入をすべて突っ込んで、役員報酬0円でやっていた時代が長くありました。社会課題について発信するとネットで誹謗中傷をされることも多くて、ずっと辛かった。2日に1回はやめたいな、と思いながら続けてきました。主権者教育をやっていた他の団体が資金不足などでどんどんなくなってしまって、危機感が強かったから続けられたのだと思います。
若者が社会活動をすると、メンタルも削られて資金面も大変なことが多い。「30歳の壁」というか、30歳ぐらいでNPOをやめていく人って、すごく多いんです。私も、子どもができたらこれまでと同じようにはできないかも、と思います。だから、若者団体への資金分配は大事だな、と思っています。
スウェーデンだと、年間30〜40億円ぐらいが若者団体に分配されています。気候変動の団体などは、政府からお金をもらいながらもめちゃくちゃ政府批判をしたりしています。
大人を10人ぐらい雇っている若者団体も多い。そうすると、労務や補助金申請などを大人に任せて、子どもたちは政策提言やアドボカシーなどの活動に集中できるんですよね。すごく健全な社会の姿だな、と思う。
職業として社会課題に関わることができる一方、代表の子が「私は来年辞めるんだ」と言って次に引き継ぐ姿も見ました。部活動のような感じで、めちゃくちゃカジュアル。そういう感じまで持っていけると、社会がすごく変わるなと思いました。
私も次世代の子たちの活動を応援したいし、若い世代が活動し続けられるインフラ作りに力を入れたい。どの時代にも、下の世代が上の世代を見て「自分たちならもっとうまくできる」という反抗心のようなものを持って、新しいものを作ってきた。世代交代をするとイノベーションが生まれると思います。


