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「ランチトーク」で子どもの声を市長に

執筆者の写真: 笑下村塾笑下村塾

※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年12月11日配信)



4月に施行された「こども基本法」で、国や自治体は子どもの声を政策に反映する仕組みを作るよう義務付けられた。子どもの意見表明権をどう担保するかという議論は、今や世界で重要なトピックの一つになっている。日本でもこのような動きが出てきたことに感動すると同時に、実際に声を聞く難しさも痛感している。

 そうした中、茨城県行方(なめがた)市では市長と小学生が一緒に給食を食べる「ランチトーク」が早くから行われてきた。今回は、若者の声を聞く同市のユニークな取り組みを紹介したい(取材は今年2月13日)。


素直な気持ちを聞く場

 「同じものを食べることが大事ですよ」。子どもたちと同じ学校給食を市長室で口に運びながら教えてくれたのは、行方市長の鈴木周也さんだ。この日のメニューは、ご飯、牛乳、鳥の照り焼き、切干大根の中華炒め、イワシのつみれ汁、いよかんゼリー。2016年度にランチトークを始めた理由をこう話した。

 「教室に行って授業のような雰囲気だと、どうしても子どもたちが緊張してしまう。それならご飯を食べた後にリラックスした中で会話すれば、素直な気持ちが一番出るのかと思ったんですよ」。地域の未来を作っていく子どもたちの声はとても貴重で、自分たちで市長へ伝えられ、社会に届くんだという実感を持ってもらうことが何よりも大事だという。

 東京都心から北へ約70㌔、茨城県東南部にある人口約3万2千人の行方市。北浦、霞ケ浦という二つの湖に東西を挟まれ、南北に細長い形をしている。05年に3町が合併して市が誕生した。鈴木さんは13年から市長を務め、3期目の61歳(取材時)。


行政トップにずばり意見

 「こんにちは!」。新型コロナウイルスの感染防止のため、行方市役所と4校ある市立小学校の一つ、玉造小をオンラインで結んでのランチトークは、6年3組の児童約30人の元気なあいさつで始まった。市長と話すだけの形式ばった会だと緊張しがちだが、食事を介して和やかな雰囲気が生まれていた。

 初めに鈴木市長が自己紹介や給食に関する質問をした。「給食がもうちょっと欲しいなと思う人」などと聞かれ、児童たちは素直に手を挙げていた。

 「ありがとうございます。私からの質問はここまでにさせていただきます。では、皆さんの質問を受けたいと思います」。市長が投げかけると、緊張がほぐれたのか児童たちの手が次々に挙がった。小学生とは思えない、大人顔負けの質問も飛び交った。

 「行方市は生態系が終わっているんですけど…。もうちょっと外来種を駆除してくれませんか」。教壇の前でハキハキと要望した男子児童に「外来種といえば、例えばどういうものがいいのかな。イノシシだとか…。最近はザリガニの話もあるんだけども、どう?」と、市長が具体例を挙げて寄り添う。

 「特定外来生物に指定されているブラックバスとかブルーギルとかカダヤシとか、そういう生き物を駆除してほしいんですけど」。当を得た追加発言に市長も「湖の方ですね」と感心した様子で返し、(霞ケ浦などで)市が現在行っている対策について説明した。

 「駆除の方法は漁師さんと相談しながら今やっています。ブラックバスについても、全部を駆除するとなるとバランスが崩れてしまう。どちらかというと問題になっているのが、(通称)アメリカナマズと呼ばれるものです。この前、それを取るための網を買いましょうと国にお願いしてきました。今年の6月から対象になるので、漁師さんたちや県、水産試験場とも相談しながら取ろうとしています」

 男児は自分の関心ごとに市が取り組んでいるのを知って、大きな声で礼を言い、安心した様子で着席した。後で感想を聞くと、自分の環境問題への思いが十分伝えられたと頼もしいコメントをしてくれた。「ちゃんとした対策が取られているんだなと思いました」。市への信頼感が生まれ、地域の政治や運営に興味を持ったという。

 他の児童からも「市長になって大変なことはありますか」「障害のある方でも暮らしやすい街にしてほしい」などと質問や意見が数多く出た。市長はウェブカメラに向かい、身ぶり手ぶりを交えながら丁寧に答えていた。終了後は「街の偉い人と話せて光栄です」「市長と話すのは緊張した」といった声が教室で聞かれたが、それを感じさせない活発な議論だった。


地域を変えられる実感持って

 鈴木市長は、子どもたちが思った以上に環境や地域のことを見てくれていると、この日のランチトークを満足そうに振り返った。小学生の意見が、実際の市の政策にどう反映されているのかを尋ねた。

 「一番身近なことだと、学校に国旗とか学校の旗があるんですけども、非常に傷んでボロボロになってしまった。できれば新しいものにという話になって替えました。また、通学路がどうしても狭かったり線が描いていなかったりするので、そこをどう安全に歩かせるようにするかなども議題に上がりました。スクールバスで通っている学校もあり、停留所の置き場とかもご提案いただいたり、よく見直しをしたりということに反映させたこともあります」

 政策に意見が取り入れられることで、地域を自らの手で変えられたという実感を持ち、どんどん良くする方法を子どもたちに考えてもらいたいと、期待を込めて語った。

 若者の声を聞くこのような取り組みが、全国に広がっていけばいいなと思う。

 取材の模様は「YouTubeたかまつななチャンネル」でご覧になれます。




☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。


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