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執筆者の写真笑下村塾

「笑いは無敵」ナイツ塙宣之は「いじめ 」をどうやって乗り越えたのか?




対談1回目では「漫才協会の現状やこれから」を語ったナイツ塙宣之さん。2回目となる今回は、「いじめ」をテーマに、塙さん自身の経験を踏まえて笑下村塾のたかまつなながお話を聞きました。塙さんが、今苦しんでいる子どもたちに向けて伝えたいこととは。


小学4年生の時、「笑いは無敵」と気づいた





ーー前に私のライブに出ていただいた時に、私が学校に出張授業に行っているというお話をしたら、漫才の授業をやったらどうかとおっしゃっていましたよね。それはどうしてですか?


僕は幼稚園生の時にうんこを漏らして、いじめっ子に「うんこ、うんこ」っていじられていたんですよ。すっごい嫌で。今はオイシイと思えるけど、子どもの頃はただ恥ずかしいだけだった。

ドリフターズの志村けんさん、加藤茶さんがネタで”うんこちんちん”って笑いを取っているのを見て、小学4年生の時に自分でうんこのネタを作って、いじめっ子がいじってきた時に「そうだよ、俺はうんこだよ。”うんこちんちん”、俺はうんこだ」って言ったら、めちゃくちゃウケて、いじめられなくなったんです。その時から、お笑いというのは無敵なんだと思ったわけよ。権力者に立ち向かう唯一の知恵がお笑いなんだ、みたいな。

例えば、子どもは運動神経が悪い人をいじって、レッテルを貼ったりするじゃないですか。そのレッテルを貼られる前に自分から笑いにするということを、身に着けるといいんじゃないかと本気で思っているのね。


ーー塙さんはどのくらいいじめられてたんですか?


幼稚園の年長から小学4年生くらいまで、さっき言ったヤツ一人からいじられていたくらい。でもそいつからしたら、いじめているつもりはなかっただろうし、俺も暗い性格で自分に自信がなかったから、ということもあったと思うよ。


“ユッキーナ事件”は、周囲が彼女を悪にした





ーー以前、小島慶子さんと対談した時に、「そもそもブスって言わなければいいじゃん」って言われたんです。人を容姿で判断することは良くないというような世論の空気ってありますが、私はブスって言われたことで救われる人もいるんじゃないかと思ったんですね。


「こいつブスだな」みたいな目線で傷つくよりもいい、ということ?


ーー私はそう思ったんですけど、小島さんは、そもそも言わないほうがいいんじゃないかということだったんです。塙さんはどう思われますか?


自分でブスと言い過ぎてブスになっていく人もいるし、蓄積論なんだよね。ちょっと顔が怖い人が歩いていると、あの人怖いねって思ってしまうじゃない。その「怖いね」っていうオーラで自分を怖くしていくんだよ、人間は。どんどん悪くなっていっちゃうんだよ。その人のことを怖くないとちゃんと見てあげられる人がいればそういう風にはなっていかないのに、周りが怖くさせてしまっているというのは、俺はあると思う。

ユッキーナ(木下優樹菜)の事件があったじゃない。あれはユッキーナが100%悪い。言葉遣いとか。でも、芸能人が家族で旅行に行ったりすると、必ず勝手に子どもの写真や動画を撮る奴がいるのよ。俺もされているし。そういうのが蓄積されて、爆発してしまった側面はあると思う。さらにネットで、ユッキーナはもともと最悪な奴だった、みたいに叩くじゃん。それも周りが悪くしてしまった結果だったかもしれないし、その評判自体でも悪い奴を作ってしまっている。

だから、それはやめた方がいいと思う。


ーー私は取材をしていて、誰もが犯罪の被害者にも加害者にもなるんじゃないかなと思うんです。何故事件を起こしたかを取材していくと、その人の家庭環境が複雑だったり、DVを自分が受けていたから同じことをしてしまうといった背景がある。そこへの理解がないのは怖い。結果だけを見て叩くのことは、違うのでは。


やられた人のカウンセリングは必要だし、やっちゃった人も早くケアしてあげないといけない。凶悪犯になってしまう前にね。


型にはまりたくないなら、型を作れ





ーーそういうのはお笑いの授業をすることで変わってくるものでしょうか。


あまりそういう意味合いを授業に入れてしまうと、復讐みたいになってくるからさ。ピン芸人の南野やじさんが、昔いじめられてたらしいんだよ。口開くたびに「お笑いは復讐でやってる」って言っていた。俺を馬鹿にしてきたやつへの復讐なんだよって。


ーーよくそういうこと言う人いますよね。


そういう人もいるけど、それは子どもに教えることじゃないよね。別に俺は復讐でやってるわけじゃないし。


ーー今苦しんでいる子たちは、どのような考えを持つといいんでしょうか。


”崩れない形”を作ることだね。型論ですよ。型がない人って、崩れていくのよ。

去年、ヤクルトスワローズが16連敗しましたが、それは型がなかったから。抑えがいて、中継ぎがいて、先発がいてといった型が崩れる時に連敗している。

型がないからみんな悩むんです。漫才だってそうでしょ。漫才も型がある芸人というのは、結局、長く残るじゃない。


ーー笑いのパターンづくりが得意な人。


M-1の決勝や準決勝に行けない芸人っていうのは、必ず型がないの。ボケの羅列なのよ。ボケから考えてるの。大喜利じゃないんだから。大喜利は大喜利。漫才っていうのは作品になっているわけでしょ。

イチローがカレーを毎朝食べる、五郎丸のルーティーンとか、そういう自分の型がある人は崩れない。その型が自分の中にあれば強いということなのよ。


ーーナイツさんの型は何なのでしょうか?


ヤホー漫才もそうだし、その型を今いっぱい作ろうとしてる。型があると楽だし、戻ることもできる。そこがなかったら毎回大変。だから悩む人も同じでさ、自分の型がないと毎回悩むことになる。


ーー私は、なっちゃってますね……。


いろんな本を読んだり、勉強したり、ななちゃんの考えに近い人と話すとか、そういうので固めていけばいいんだよ。


ーー型っていうのは、お笑いのパターン、生き方、何かを読んでみるということも当てはまるんですね。


「自由がいい」とか言ってる奴が、本当は一番ヤバい。自由なんかないからね。だからうちの子も、がちがちに型を作らせようと思って。今YouTubeのHIMAWARIちゃんねるばかり見せてる。


ーーそれ、どんな子に育つんですか(笑)。


「おーちゃんです、まーちゃんです」って、ずっとやってる。びっくりするぐらい馬鹿みたいになってきちゃった。


ーーいいんですか、その型を作って(笑)。


ぶっ壊さないといけないね。型論ですよ。


ーー自分のキャラクターとかを把握したうえで、型を作っていけばいいんでしょうか?


型にはまりたくないって人は多いでしょ? だったら自分の型をちゃんと作ったほうがいいと思うよ。


体験は大きな武器になる





ーー型はどうやって作っていくんでしょうか。小学生だと難しいような気がします。


難しいんじゃない。俺だって、つい一週間前に思いついた考えだから。

でも爆笑問題の太田光さんって、学校を休まなかったって言っているじゃん。それは、学校に行ってないと文句言えないっていう考えだから。それはひとつあるよね。


ーーそういうことも、ひとつの型かもしれない。


難しいけどね。本当にキツいいじめとかもあるだろうからね。そうしたら、東洋館を見に来てください。それで桂子師匠のあの姿を見たら、悩みなんてぶっ飛びますよ。


ーー生配信したほうがいいかもしれない。


生配信したら度肝を抜かれますよ、今の桂子師匠の姿を見たらね。


ーー漫才協会に入って、今年のR-1でいいネタを思いつかないとか、そういうのがどうでもよくなっちゃいました。


芸人の最終形態を見ちゃうとね。


ーー生き方を考えるようになりました。


人生観変わるよね。


ーー子どもは学校のクラスが自分の世界の全てだと考えがちですが、東洋館に来るとそれがなくなるかもしれない。本とかお笑いだけじゃなくて、いろんな文化に触れるのがいいかもしれないですね。


体験というのは、大きな武器になる。旅行も体験だし、劇場に行くのも体験でしょ。本を読むのが苦手な子は、知識を得るためじゃなく、体験ができると思うと読める。自分が知らない体験ができるって思うのが、ひとつのキーワードになってくるんじゃないんですか。

それでも本が読むのが苦手だったら、テレビドラマを観るのでもいいのかもしれないよ。僕ら世代だと『スクールウォーズ』とか『金八先生』とかで教育された人も結構いるから。『北の国から』もいいね。『北の国から』全部観た後に、ぜひ『やすらぎの刻』を見てください。


ーー最近TikTokを始めたんですけど、15秒ぐらいで体験も物語も、何もなくて、びっくりしました。以前、バラエティ番組「爆笑レッドカーペット」でネタの時間が短くなったことについて、お笑いはこれでいいのかという議論がありましたが、そんなレベルじゃない。


携帯電話を一度なくしたほうがいいんじゃないの? 『やすらぎの刻』でも最終的には土をいじれ、ということになったんだよ。スマホばっかりいじっていた引きこもりの若者が、それで人生が変わっていくのよ。みんな土をいじった方がいいんじゃない。農作物を育てたりして。


最後に


 自らのいじめの経験をもとに、「笑いは無敵」という答えを見つけ出した塙さん。「コンプレックスをポジティブな笑いに変える」「崩れない型を作る」という考え方は、いま悩んでいる子ども達だけでなく、大人でも勇気づけられます。

勉強だけでなく、一人ひとりが笑いを楽しみ、体験を増やしていくことで、いじめがなくなっていく。そんな社会になることを願わずにはいられません。


―vol.3では塙さんに今のお笑いについて思っていることをお聞きします。


動画はこちらからどうぞ。

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