※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年10月02日配信)
日本の若者は気候変動にあまり関心がないように思える。問題意識の高いスウェーデンではどのような活動が行われているのか。ストックホルム出身の著名な環境活動家グレタ・トゥーンベリさん(20)は15歳の時、気候変動対策を訴えるため、毎週金曜日、学校に行かずにストライキを行った。未来のための金曜日「Fridays for Future」として、若者を中心にヨーロッパから各大陸へと運動が広がった。2022年9月、スウェーデンの総選挙を前にした現地での気候変動デモの様子や参加者との対話、そしてグレタさんへの直接取材について書きたい。
国際的な協調を!私たちの地球のために!
ストックホルム市内のデモでは若者をはじめとした多くの人々が「国際的な協調を!私たちのそして唯一の地球のために!」と声を合わせていた。およそ4000人が集まり、熱のこもった演説が続いた。
ある男性はパキスタンで近年相次ぐ壊滅的な洪水被害を取り上げた。
「気候変動の影響を最も強く受けている他の国々と連帯することが重要です。現在は特にパキスタンのことが心配です。心に留めておくだけでなく実際に声を上げなければならないのです。私たちの行動で、苦しんでいる現地の人々に連帯を示す必要があるのです」
別の女性は、世界の技術が気候変動を救うために十分に活用されていないと強調していた。
「気候変動について真実を語ることが必要です。人類は無知のあまり全ての生態系を道連れに崖の淵に迫っています。最先端の科学技術を持っているにもかかわらず、少数の至福のために大勢を犠牲にして、技術を無視することを選択しているのです。いつかは真実を無視できなくなる時がきます。そのいつかはもう過去のものかもしれません」
そこから街中を練り歩く。「What do we want?」「Climate Justice!」「When do we want it?」「Now!」「私たちは何が欲しい?-気候正義!」「それはいつ欲しい?-今!」と叫び続けながら。
デモの終着地には、野外ステージが設置されていて、スピーチリレーが続く。海洋生物学を勉強中の学生はここにいる理由を熱く語る。
「2022年の選挙で海と気候についてほとんど話さないのはなぜでしょうか?私は初めて投票に行きます。誰に投票すればいいのでしょうか?分かりません。なぜなら、どの政党も海と気候の問題を真剣に考えていないからです。だから私はデモをします」
音楽パフォーマンスもあり、お祭りの雰囲気だ。日本の紅白歌合戦のような人気番組「メロディーフェスティバレン」で2022年に司会をつとめた人気歌手オスカル・ジアさんも登場し、盛り上がりの中、なぜこの場にいるのか司会者に聞かれた。
「私のサポートを示すためです。そして、変化は今起きる必要があるからです。気候変動問題は、深刻で実在しています。私たちは助け、投票し、声を届けることができます。それを忘れないでください」
2019年から気候変動の危機を救うために歌っているという、まだ15歳の男性シンガー・ソングライターは「Fridays for Future」が自分にとっていかに大事か舞台上で熱く語る。
「私が気候変動運動に参加しそのために曲を書こうと思ったのは、実は4年前グレタ・トゥーンベリさんが国会議事堂の前で座ってるのをニュースで見たのがきっかけです。『なぜこんなことになってしまったのだろう』と思いました。気候変動について調べるうちに状況は危機的で、すぐにアクションを起こさなければならないと気付いたんです。『Fridays for Future』は私にとってとても意味のあることなんです」
あらゆる社会正義を訴える
マイクを握ったのは、気候変動を訴える人だけではない。労働組合員や外国人労働者がいかに搾取されているか訴えたり、難民2世の人も駆けつけ話したりする。
「クルド人の祖父は政治的な活動をしていたため、投獄されました。多くの人が拷問され、虐殺されましたが、私はなんとか脱出しました。みなさんの前に立ち難民の現実を伝えることで、投票に行くときに私たちのことを思ってくれることを期待しています。父のため祖父のためそしてクルド人のために」
スウェーデンの気候変動を訴える若者たちの根底には、気候変動だけではなく、労働、難民問題などあらゆる格差をなくそうとする社会正義があることがうかがえた。
若者たちの声を聞こうと、大人たちも駆けつけていた。デモの先頭をきって歩く若者を年配の方が後ろで支えていた。かつては首相候補とも言われた、社会民主党のモナ・サリーン元党首の姿もあった。
「政治の現実を見にくる必要があると思い、今日はここに来ました」
行動を起こすことが大切
最後にマイクを握ったグレタさん。割れんばかりの拍手の中、今回の選挙への複雑な思いを述べる。
「4年前、選挙の前3週間、連日国会の外で気候変動のための学校ストライキを行っていました。当時は4人でしたが、今では何千人もいます。私が学校ストライキを始めたのは、未成年者として自分の声を聞いてもらう唯一の機会だと感じたからです。この選挙で私は初めて投票できますが、全く気分が良くないです。それは、スウェーデンには気候変動危機を真剣に受け止めている政党や、パリ協定に準拠した政策を持っている政党がないからです」
「ウプサラ大学によると、毎年38%温室効果ガスの排出量を削減しないとパリ協定を守れません。私たちは問題を先送りにし続けています。パキスタンの何千万人の人が洪水のために家を追われていることをはじめ、世界中の友人たちが既にこの危機に苦しんでいます。なのに、スウェーデンでは最悪の結果が生じることはないので心配する必要はないとよく言われます。しかし、それが純粋な人種差別ではないなら何なのか、私には分かりません」
そして、聴衆に行動を促した。
「私たち若者がこの危機を作ったわけではないけど、伝えなければならないのは私たちです。今日の大人として、子どもたちの安全な未来を確保するために、どうしたらベストを尽くして、子どもたちの目を本当に見ることができるかわかりません。しかし、私たちは闘い続けます。諦める余裕はありません。誰もが私たちにできることを行えば、意識を広め、変化と気候正義を要求する、社会を変える運動を生み出すことができます。権力者は私たちを無視できなくなります。一緒に闘いましょう、合唱で団結して声を上げましょう、通りや広場を占領しましょう、国会が揺れるほど大声で叫びましょう、決して戦いをあきらめないようにしましょう、正義のために。本当にありがとうございました!」
日本では気候変動に関するデモはあまり親しみがなく、参加するハードルが高いように思われる。参加している女性に経緯を聞いてみた。
「デモへの参加は2018年からです。友人が気候問題に関心を持っていて『ストライキに一緒に参加してみない?』と言われて『はい!』と即答しました。とてもいいアイデアだと思ったんです」
即決で「はい」と答えた彼女に、行動を起こすことができない日本の若者にメッセージをもらった。
「できる限り多くのことを学ぶ努力をすることです。全てを知ることはとても大変ですがそれでもいいんです。自分のできる範囲で学び行動することでも十分に素晴らしいことです」
デモ終了後、「Fridays for Future」を始めたグレタさんに取材し、社会は変えられるという実感が持てない日本の若者にメッセージを頼んだ。
「世界中の多くの若者が同じように感じていると思います。私も同じでした。でも私たちは若者が中心となって社会を変えるのを目の当たりにしてきました。たくさんの人が集まれば私たち若者ができることに限界はありません。その活動にコミットすることが重要なのです」
スウェーデンに比べ、気候変動に関心が薄いと感じられる日本の若者たち。日本でも学生を中心に「Fridays for Future」のデモが行われている。果たして日本人は、気候変動で苦しむ人や気候難民にいかに思いをはせることができるか。そのような人たちのことを考えられないことを「人種差別」だというグレタさん。気候変動による災害は日本も大きく影響を受ける。そんな中で、日本が果たすべき役割は大きいだろう。日本が国際社会から後ろ指をさされないため、むしろリードするために私たちも声をあげ社会を変える必要があるのではないか。
「Fridays for Future」のデモの模様は「YouTubeたかまつななチャンネル」でも見ることができます。
☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。