※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年3月20日配信)
今年は4年に1度の統一地方選挙の年。都道府県の知事と議員、市区町村の首長と議員の四つの選挙が、まとめて4月に行われる。投票日を全国的に統一することで、選挙への関心を高めることが狙いだ。
しかし、投票率は低下傾向を続けている。前回2019年の統一地方選では、道府県議会議員選挙が44・02%で過去最低だった。知事選はその前の回を辛うじて上回ったが47・72%。いずれも有権者の半数以上が投票していない。
中でも問題視されるのは、若者の投票率だ。明るい選挙推進協会による前回統一地方選の全国意識調査によると「道府県議選で投票に行った」と回答した人は20代が36・5%と、最も投票参加率が低い世代になっている。
どうすれば若者の投票率はアップするのだろうか。私は、若者の政治参加を専門にしており、代表を務めている会社「笑下村塾」では、お笑い芸人による主権者教育の出張授業を全国展開している。
昨年は群馬県と一緒に同県内の50以上の高校、約1万人に出張授業をした。そうしたところ、同県では22年参院選での18歳の投票率が8%上昇した。この授業は、海外の主権者教育を取材して教材を作りこんだものだ。今回のコラムでは、そんな私が考える、若者の投票率アップの方策について書きたい。
イギリスの主権者教育
選挙になぜ行くのか。私は22年に欧州に行き、いろんな国で街頭インタビューをした。イギリスの地方選挙で取材すると「選挙は社会を簡単に変えられる方法だから」という回答が多かった。
イギリスの小学校の主権者教育を取材すると、日本で行われているような「投票教育」とは異なり「社会にどう参画するか」を教えるものだった。
学校の先生が「社会を変えるためにはどんな方法があると思う?」と子どもたちに問いかけた上で「選挙、署名、デモ、政治家に会う、メディアに投書する、政治家に立候補する」など多様な社会の変え方があることを伝えていた。「皆も、給食に不満があれば、署名して学校に渡せばいいんだよ」と行動することの大切さを教えていた。
自分たちの不満や不便を解消するためのさまざまな方法の一つとして「選挙」があると認識している人が、イギリスには多いと街頭インタビューで感じた。
変えたいという気持ち
社会参画には、私たちの「変えたい」という気持ちが大事だ。皆さんも想像してほしい。何か生活に不満がないかを考えてみる。「賃金がすくない」「将来が不安だ」「結婚したいが、子育てのお金がない」「街中にもっとバスが増えてほしい」…。これをどうやって変えるのか。私たちの暮らしは政治につながっていることを思い起こしてほしい。
私たちの出張授業では「社会を変える宣言」というワークショップをやっている。紙を配って自分が変えたいことを書いてもらうのだが、ブラック校則を変えたいとか、学校へ行く電車やバスの本数を増やしたいといったさまざまな声が出る。
まず子どもたちの変えたいという気持ちを引き出す。そして、社会を変える方法で、私たちが簡単にできるのが選挙だと伝えている。社会を変える方法はたくさんあるが、中でも選挙は1人1票が平等に与えられていて、社会に大きな影響を及ぼすことができる。
群馬県で18歳の投票率が上がったのは、このワークショップの効果が出たと考えている。
代表者に何かを託す感覚
私は低投票率の要因の一つに、自分たちの代表に物事を託すという感覚の欠如があると思う。
政治家は国民の代表で、憲法には国民に主権があると習う。だが、それがリアルに感じられないのではないか。
政治家に自分の思いを託す、そのヒントが欧州の学校にあった。ドイツでも、スウェーデンでも、フランスでも、イギリスでも、生徒の代表者が、ほかの子らの意見を聞いた上で、学校に伝える仕組みがある。学校側も生徒代表の声にしっかりと向き合っていた。
そうした仕組みによって「LGBTQ+の子が使える誰でもトイレを設置した」「制服の着方のルールを変えた」「給食のルールを見直した」など、学校で何かを変えたという体験を持つ子が多かった。
ドイツのベルリン州には「学校会議」という制度があった。学校会議には、校長、教師、保護者代表、専門家に加えて、生徒代表も参加する。そこでは、学校の時間割などあらゆるルールについて決めており、校長先生の選任まで行っていた。これが小学校でも行われている。
私は担当者に取材し「生徒代表にお調子者が選ばれ、おかしなことになったり、ポピュリズムになったりしたら、どうなるんですか?」と聞いた。「それは、ポピュリズムを学べるいい機会ではないか。それに子どもたちはバカではない。最初はそういう子が選ばれたとしても、1年間何もやってくれなかったら、そういう子は選ばれなくなる」と言うのだ。
代表者に託して、変えられる、変えられないという経験や、代表者が信用できる、信用できないという経験を子どものうちからしているのだ。そのことにより、代表者に思いを託す感覚が身についていると思った。
政治家はわれわれ国民の代表者である。そんなことは、頭では分かっている。しかし、「感覚知」にはなっていない。だから、日本では、政治家に対して、「金に汚い!権力にまみれている!」と毛嫌いしたり、「なんでも変えてくれるんでしょ?なぜできないの?」と過度に期待したり、失望したりしているのではないか。
政治家とのちょうどよい関係性や距離感というものが、あまりないと思う。自分たちの不満や声を誰かに託し、社会が変わるかもしれないという期待を持つ。そういう感覚を持てれば、選挙にも行くのではないか。
私は、若者の低投票率の報道で、若者にマイクを向け、まるで選挙に行かない若者がいけないかのような印象を与えているのには違和感を覚える。
日本の子どもたちには民主的に何かを決めたりする経験が少ないことや、主権者教育をどうアップデートするのかを話さないままでは、いつまでたっても、社会は変えられないという諦めがまん延し、投票率は上がらないと思う。
選挙に行って社会を変えよう。昔は貧しい人や女性には選挙権が与えられていなかった。1人1票、平等に与えられている権利を行使しよう。
☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。