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執筆者の写真笑下村塾

EXITりんたろー。さんが語る介護論「親を預けることは悪いことじゃない」

りんたろー。さんが8年間の現場経験から語る‟介護のリアル”

 鮮やかなピンク色の髪、パリピ調の語り口。 チャラ男たちが織り成す軽快な漫才で、若い世代を中心に人気を集めているお笑いコンビ「EXIT」の兼近大樹さんとりんたろー。さん。


vol.1では兼近さんに育児について伺いましたが、りんたろー。さんには介護職の経験があります。介護は、現代の家庭にとって身近な問題。 悩みを抱え込んでしまった末に、世間に知られるのは事件が起こってから…なんてことも少なくありません。

現場経験がある、りんたろー。さんならではの介護に対する考えをお届けします。


プロフィール


EXIT(いぐじぃっと) りんたろー。さんと兼近大樹さんのお笑いコンビ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。「ネオ渋谷系漫才」と言われるスタイルで、結成して間もなく頭角を現し、若者を中心に人気が爆発。


たかまつなな お笑いジャーナリストとして、お笑いを通して社会問題を発信している。現場取材をし、その内容を寄席で社会風刺ネタと して届ける 。18歳選権導入を機に、株式会社 笑下村塾を設立し、全国の学校で出張授業「笑える!政治教育ショー」を実施。


■8年も続けられたのは「変化を楽しめたから」



―先ほどは育児の話でしたが、実は介護についてはりんたろー。さんがお詳しいとか。


りんたろー。(以下、り):介護のバイトを8年やってました。


兼近(以下、兼):「ゆりかごから墓場までコンビ」なんです。


―どうして介護をしていたんですか?


り:最初は他のバイトをしていたんですが、急にオーディションが入ってシフトに穴が開いたりしてクビになってしまう。どうしようかと思っている時期に、家の近くでオープニングスタッフの募集を見つけました。オープニングだからみんなと一緒のペースでやっていけそうだったし「“チャラ男の自分×ご老人“で、何か面白いこと生まれるんじゃねえか?」と思ったり。普通のバイトするのが嫌になってきていた時期だった、というのもありました。


―そんな深い理由もなく始めて、8年も続けられたんですか?


り:めっちゃ合ってたんでしょうね。「きつくないの?」ってよく言われるんですけど、僕からしたら、居酒屋とかコンビニとかで、決まった時間立って決まった作業する方がキツイですよ。介護だったら、その日その日で違うことが起きる。散歩に行ったり、相手が違うことを言ってきたり。俺にとっては変化を楽しめるバイトの方が、時間が過ぎるのも早いし楽しかった。


■ストレスを溜めないために割り切りも必要



―老人ホームと言うのはデイサービスみたいなものですか?


り:僕のところは、一軒家をリフォームした小規模のデイサービスみたいなもの。お泊りもありました。


―私も教員免許を取る際に、デイサービスを受けているおじいちゃんのところに1週間ほど行ったことがあります。ぼけちゃって全然覚えてくれないから、5日連続で「はじめまして」って言うのが辛かったです。そういう辛さはありませんでしたか?


り:介護は育児に似ているかもしれませんね。歳を重ねるにつれて、子どもっぽく幼稚っぽくなっていく。育児と明らかに違うのは、成長がないところ。


今日、一緒にやって楽しかったことを次の日には忘れてる。リセットされてしまう辛さはあるんですけど、そこをどんどん流していって楽しんでいく。一発ごとに受け止めるとダメージ食らっちゃうので。「昨日も言ったやんけ!」「さっきご飯食べたやんけ!」ってつっこんだりして、自分の中で消化してました。


―おじいちゃんのプライドを傷つけませんか?


り:「えー」って、たぶん全然分かっていないような感じでした。


―つっこんでるのを他の人は止めたりしないんですか?


り:ほかの人は笑っていたりする。心労になると積み重なっていくので、僕はダメージ食らうよりはいいと思ってる。


その人のためを思って、ご飯を作ったりお薬を飲ませてあげるし、体重のある方を運んだりもする。なのに拒否してくる人もいるので、めちゃくちゃ葛藤があるんですよね。でも、そこを受け止められなかったら、お互いに負の連鎖に入ってしまう。だからある意味、割り切って気にせず流していく。


―りんたろー。さんの性格的にそれができるということですか? それとも、何かコツがあるんですか?


り:1つは僕がお笑いを本筋としていて、副業のバイトとして介護をやっていたというのがあります。最初は「お金を稼ぐ手段として、片足突っ込んでるだけ」というスタンスから入ったのが良かったと思います。でも例えば、自分の親に対して同じことができたかというと、自信はないですね。あとは「楽しくやろう」という気持ちがあった。そこは自分の性格的なものかもしれないですね。


■親を預けることは悪いことじゃない



―老人ホームに入ると、家族がだんだん来なくなって、見放されていく感じがします。そういうことはありませんでしたか?


り:もちろんそういう人も多い。全然連絡が取れない、取れたとしても「亡くなったら連絡ください」と言われて悲しいこともある。ただ、そういう方に対しては、事情も分かった上で、最期を迎えるときに「ここにいて楽しかった」と思ってもらえるように、逆に僕たちが頑張ろうという気持ちでいましたね。


でもそういう方ばかりじゃない。さっきの育児のように(vol.1の話)、僕たちが負担させてもらうことで、ご家族の時間にゆとりができる。例えば、その時間で「夫婦で遊びに行けた」「趣味ができた」って言ってくれる方もいる。そういうところにやりがいを感じたりもします。こうやってストレスが緩和されることで、負の連鎖に入りにくい。


―私のおばあちゃんは、ホームに入った途端にやることがなくなったせいかボケ始めました。私の親はまだ元気ですが、将来的にホームに入れるべきか、徘徊するようになってもずっと家にいてもらうか、すごく考えます。


り:大きい施設もあるし、コミュニケーションを密に取れる施設もあるし、ホームにも種類がある。まずは施設を見極めるところからだと思います。


―最近、私自身が盲腸になって1か月くらい入院して、おばあちゃんの気持ちがよく分かりました。歩かなくなるし、ご飯も出てくる、テレビを見てると1日が過ぎちゃう。「何もしなくなってボケちゃうくらいなら、多少の危険を冒しても自宅で過ごした方がいい最期になるのかな。どっちが幸せなんだろう」って、自分や親の人生の最期を考えるようになりました。


り:僕が老人ホームで色んな人としゃべって分かったことなんですが、商売をしていた方は頭もクリアなんですよ。農業をやっていた方は、足腰は丈夫だけど、ボケてしまうことが多かった。会話が多い方がボケないのかもしれません。


―いいスタッフさんがいるところだったらボケない?


り:僕だったら預けます。大好きな親が自分のことを分からなくなっていくのは、ただでさえ辛い。その上、自宅で介護をしたらこの状態が死ぬまで続いていく。介護の苦労の中でストレスが溜まっていって、親のことを嫌いになっていくと思うんです。だから老人ホームみたいな施設や家族の方などにお願いして、自分の時間を作って生き抜きしなければ心が持たないと思います。


―すごくリアルなご意見ですね。


り:毎日、おしめの世話もするし着替えもさせなきゃいけない。一方で自分の人生もありますから。


―「自分が夢を追えないのは親のせいだ」とか思ってしまいそうですよね。


り:介護しようとすると、時間を取られたり働けなかったりする。そんな人のためにヘルパーがいる。俺は、親を預けることは全然悪いことじゃないと思います。


■楽しさもあるけど、やっぱり多い離職



―施設の見極め方はあるんでしょうか? 介護士の離職が多いのが気になります。


り:施設の見学に行っても、内部のことは分からないです。介護士の離職が多いのは理解できます。男の人は特に離職が多い。「これだけしんどいのに、給料がたったこれだけか」と。しんどいのにお金がもらえないとなると、そこに生きがいを感じられない人は辞めちゃう。


―どうやって生きがいを感じるんですか? 前にバラエティ番組で介護士の人と話すという企画をやった時に、介護士さんに「テレビは『介護が大変』という番組や報道ばかりするけど、私たちは楽しくやっている。楽しさをもっと伝えてほしい」って言われたんです。でも私は「楽しいわけない」と思って、全然理解できなかったです。


り:それは兼近くんが「子どもといると楽しい」というのと一緒。僕ら介護士の場合は子どもを相手にするのとは逆で、すごく時間の流れがゆっくりになる。お笑いをやって、せかせかして「頑張らなきゃ」って思っている時にバイトに行くと、公園で車いすを押しながら歩いたりする。景色を見ながら、昔の話を聞いたりしゃべったりして、楽しいやり取りができるときもある。


―若い世代にとって、年配の方とのお付き合いは大事かもしれないですね。


兼:介護に対して、マイナスイメージしかなかったですよね。悪いことしか聞かないもん。


り:何かをやってあげて「ありがとう、助かるよ」って言われた時にやりがいとか生きがいを感じる人じゃないと、現状の介護はキツイと思います。


―人生観が変わるのはいいですね。私も最近、漫才協会に入らせてもらったら、お笑いの世界がまるで違うように見えました。死ぬまで漫才できるって最高だけど、老人ホームにいるような錯覚もあったりするんです。


■不幸な事件をなくすためにすべきこと



―親の介護をするためとかで離職する人が今、すごく多い。でも仕事を辞めるとお金を稼げないから、どんどん貧乏になってしまう。それで親を殺してしまったという人もいました。仕事を両立するためのコツはありますか?


兼:介護している奥さんを殺して自分も死ぬ、っていうパターンもありましたね。


り:自分がこの世界に入るまでは、そういうニュースを見ると「ヤバい人が起こした事件だ」と思ってました。でも介護に携わるようになると、こういうことは誰にでもあり得るし、「たぶん、このタイミングで境界線を越えちゃうんだろうな」というのも分かりました。


例えば、自分がやってあげていることに対してめちゃくちゃ批判的なことを言ってきたり、ずっと嫌がったり、奇声を上げながら徘徊する人もいる。誰でも起こり得ることだから、介護している人が追い込まれてしまう前に、何か手段を取らないとダメだと思います。


―賃金を上げる、みたいなところからですよね。


り:マジで上げてほしいですね。おじいちゃんおばあちゃんは増えているのに、介護士はどんどん減ってる。


兼:国は対策してないんですか?


―一応、野党が声を上げて、賃金は上がってはいるんですが、おそらくスピードが追い付いていない。あとはバブル期に老人ホームを作りすぎて、経営が成り立たなくなって減ってきているという問題もあります。需要と供給のバランスが崩れているようです。


り:施設はあるけど介護士がいないこともありますよね。

最後に

「副業」と割り切ることで、お年寄りとのやり取りや日々の変化を楽しめていたというのは、芸人ならではのポジティブな介護職との向き合い方だと感じました。

一方で、本業としてはやりがいだけでは続けられないこと、自分の親の場合は同じようにできる自信がないというのは非常にリアルなお話しでした。


不幸な事件が起きないように、介護サービスの利用者と提供者のそれぞれに対して、必要な対策が早急に取られることを願います。

―vol.3では兼近さんの過去の壮絶な人生を中心に、2人の思いをお聞きします。


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