※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年10月16日配信)
「政治家と直接話したことがある人はいますか~?」
スウェーデンの中学校のクラスで聞くと、全員が手を挙げた。さすがは若者の投票率が8割を超える国だ。これだけ若者と政治家の距離が近ければ、投票所に足を運ぶのも当然だろう。政治家とどこで会ったか聞くと、「選挙小屋」だと多くの生徒は答えた。
選挙期間中に駅前や街頭に設けられる政治対話の場がそう呼ばれる。各政党がブースを出店し、コーヒーを飲みお菓子を食べながら、市民と意見を交換しあう。昨年9月、スウェーデンの総選挙を取材した際に目を引かれた選挙小屋について書きたい。
選挙権はないけど友達と「将来のため」に行く
選挙小屋に来ていた中学生3人に聞いてみた。どうしてここに?
「興味があるからです。それに学校選挙があってどこに投票するか考えないといけないからです」
「学校選挙」とはスウェーデンの多くの学校で行われる模擬選挙だ。本物と同じく実在の政党、候補者に投票する本格的な形式で、実際に開票も行われる。選挙について若者同士ではあまり話題に上がりにくい日本の現状からすると、中学生が友人と連れだって選挙小屋を訪れるという政治との距離の近さにいろいろと考えさせられる。
「選挙小屋は2週間ほど開いているのでクラスの友達とここに来て一緒に学んでいます。将来のために今から勉強しているのです。今、政治にとても興味があるというよりは、政治家たちが何を考えているかを知ると将来どの政党に投票するべきか決めやすくなると思います」
訪れたことを自身のインスタグラムにアップすることもあるといい、政治参加への心理的なハードルの低さがうかがえる。
学校選挙で穏健党(保守自由主義政党で現在は政権与党)に入れたという3人はこの日、選挙小屋に党首が来ると聞き、興味津々で駆けつけた。選挙小屋の各政党のブースに、党首や党幹部が現れることも珍しくない。緑の党党首に中学生らしい少年が質問をしているのを目にした。
穏健党元党首で元首相のカール・ビルト氏を見かけ、日本からのジャーナリストだと名乗ると気安く質問に答えてくれた。日本の若者は3割ほどしか選挙に行かず、低投票率に困っていると言うと、若者の投票率を上げるための工夫をしていると答えが返ってきた。
「若い人たちが重視しているテーマを議論することで、政治に興味を持ってもらうことが重要です」
他にも各政党の党首クラス、ユース政党の党首、有名政治家などをたくさん選挙小屋で見かけ、取材することができた。このような近い距離感は一体何なのだろうかと感じる。日本では街頭演説は一方的に行われ、有権者から質問することはあまりない。特定の場所に足を運べば、全政党のパンフレットを集めたり、意見を聞いたりすることができるという仕組みさえもない。
学校の中に選挙小屋が?!
選挙小屋は街中だけではなく、大学や高校の中に設置されることもある。主に、若者だけが入れる各政党のユース政党が連携し、党員拡大や支持・投票を呼びかけるのが狙いだ。生徒組合や学校の先生など学校側と交渉するのは超党派のことが多いという。ある高校では、講堂の中に各政党のブースを設け、生徒がそこを一周したあとに学校選挙の模擬投票をしていた。選挙小屋と併せて、公開討論会を学校で実施することもある。
教師も学校選挙の事前学習の場として選挙小屋を使う。気になる政策に対して、全政党に質問をしてくるという課題を出す場合もある。生徒たちは、学校の近くの選挙小屋に行き、自由に話を聞く。教師の引率は特にない。
わたしが見た選挙小屋には、ユース政党の党員や、党職員、地方議員らがいた。政策について自由に対話したり、パンフレットを渡して質疑応答したりする。コーヒーやバナナ、中にはコンドームを配っている政党もあった。お菓子目当てで来ている中学生もいた。とにかく「若者のすぐそばに政治がある」感じがしてならなかった。
若い「なぜ?」に応えてくれる場
若い人にとって、政治で議論されるテーマは難しいものが多い。若い時から政治に関心を持つことが大事と言われても、内容に共感ができなかったら身近に感じにくいだろう。スウェーデンの選挙小屋は、このミスマッチをうまく解消する場となっている。
ある高校生は選挙小屋の利点について「自分の関心があることについて聞ける場所として機能している」と説明してくれた。
「ただネットで調べたり、テレビ討論を見たりするだけじゃなく、実際に政治の現場にいる人々に会って、情報を得るための最良の方法だったんです。世間的に関心が持たれていることではなく、私個人が興味を持って考えていることを自分の言葉で質問することができますから」
日本では若者同士で政治について話したり議論したりすることが少ない。身近でないから話題にならない、話さないからますます遠いものになるという悪循環が続いている。スウェーデンの選挙小屋のような、友達とカジュアルに訪れることができる空間があれば、若者と政治が密接になっていくのではないか。
総選挙当日にのぞいてみると「これから投票に行く上でどこに入れるか迷っているから、選挙小屋に立ち寄ったんです」と話す若い人の姿があった。また中学生は「8年後の選挙で有権者になるため、その準備のために来た」と話していた。政治家との距離の近さが実感できて、世の中や自分自身の問題について気軽に話せるのが選挙小屋だ。日本でもぜひ広まってほしい。
選挙小屋の模様はYouTubeたかまつななチャンネルでも見ることができます。
☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。