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ウクライナ侵攻1年どうすれば、平和な社会が作れる?

執筆者の写真: 笑下村塾笑下村塾

※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2023年3月6日配信)


 政治や教育分野を中心に取材をし、若者に社会問題を分かりやすく伝えている時事YouTuberのたかまつななさん(29)。2016年につくった株式会社「笑下村塾」では、お笑い芸人による主権者教育の出張授業を全国に届けてきた。若者の政治参加を促し、社会を変えたいというたかまつさんに、さまざまなテーマで発信してもらう。初回は、昨年夏に現地取材したウクライナについて取り上げる。


「日本は大丈夫か?北方領土でロシアが軍事演習をしている」「気づいてからでは遅い。今から備えるべきだ」。私は昨年8月、ウクライナに取材に行った。日本人ジャーナリストであると伝えると、逆にウクライナの人から心配された。

 ロシアがウクライナに侵攻して1年がたった。ウクライナのために私たちは何ができるのか。そして、日本はウクライナから何を学ぶべきなのだろうか。


▽ロシア侵攻「想像できなかった」

 私は、キーウ、ブチャ、イルピン、ボロディアンカで1週間、30人ほどの一般市民やジャーナリスト、地方議員、歴史学者といった人たちに取材した。ほとんどの人が、まさかロシアが攻めてくるとは想像も及ばなかったと話した。

 攻め込まれないために何をすべきだったと思うか聞いた。「ロシアとの国境に壁を作るべきだった」「NATO(北大西洋条約機構)に早く加盟すべきだった」「経済成長をもっとして世界に影響力を及ぼし、戦争をしにくいようにすれば良かった」「軍事力を強めるべきだった」など後悔の声がたくさん聞かれた。

 「何もできなかったのではないか」と答える人もいたが、若い人ほど、たくさん考えてきたんだということが伝わってきた。攻めてきたロシアが悪い。だけど、ウクライナも自国を守るために何かできたのかもしれない。それを考え続けることが大事だと思った。

 中には「攻めてくると思っていた」と答えた歴史学者などもいたが、警鐘を鳴らしきれなかったと話した。「平和を維持するためには、たくさん備える必要があることを伝えたい」と、イルピンで女性の性被害の実態を調査する女性市議は語った。彼女は「日本も、ロシアの隣の国だから備えてほしい」と語った。日本は「対岸の火事」だと私を含めて思っているところがあるが、ウクライナの人たちに本気で心配されていることに少し戸惑ってしまった。


▽「朝まで生テレビ」の議論

 ウクライナに行く前、テレビ朝日系の討論番組「朝まで生テレビ!」に出演した。戦争と平和について、若者世代と外交・安全保障政策の専門家が話し合う番組で、若者世代の一人として私は出た。

 そこで私は発言した。「ロシアがウクライナに侵攻した時に、私の中で考えが変わったことがある。安保法制を決めた時に、安倍政権のやり方が強引であり、集団的自衛権に懐疑的だった。だけど、集団的自衛権が重要だということに気がついた。いまだに決め方への疑問はあるが、当時の認識は甘かった」。この発言には視聴者からの共感が多かったと、番組スタッフから後に聞いた。

 番組の中で、台湾有事についての話が上がった。もしも中国が台湾を攻めたら、日本が巻き込まれる可能性が高い。ほかの同世代の出演者は「なぜ、日本が巻き込まれる前提で話が進んでいるんですか?」と発言した。ウクライナで、力による現状変更が行われてしまった以上、「攻め込まれない可能性がゼロ」なんて言えない。世界の現実を見た以上、私はその方の発言には賛同できなかった。

 だからこそ、攻め込もうとする国があった場合に、どうやって防ぐのかを考えることが大事である。攻め込まれないために、他国とどのように外交するのか、経済や防衛はどのようにするとよいのかなど議論することが不可欠だ。


▽平和教育をアップデート

 ウクライナに取材に行ったのは、日本の平和学習をアップデートしたいと思ったからだ。

 日本の平和学習は、戦争の悲惨な体験を聞いて「平和を祈る」ものが多い。それだけではなく「平和をつくる」ために何ができるかを考える必要がある。戦争経験者の語り部の方が高齢化していて、従来型の平和学習ができなくなってきている。ウクライナに行けば新しい平和学習のヒントを得られると考えた。

 私たちの会社「笑下村塾」では平和教育の出張授業にも取り組んでいる。

 最近、フェリス女学院大学で行った授業では、ウクライナ取材での体験などを語った後、平和をつくるために、国ができること、国際社会ができることなどを紹介し、各自がやりたいことを「宣言」してもらった。

 大学生から「争いは、差別や考えの違いから生まれることが多いから、他国の文化、歴史を勉強したい」「貧困は争いの原因になるから、フェアトレードの商品を買って平和を作りたい」「防衛についての各政党の考えを調べ、選挙に行きたい」といった意見が出た。このように自分たちが社会の一員であることを知り、自分たちの力で社会をよくできることを意識させ、そして行動につながることを考えてもらうのが重要だ。


▽私たちができること

 ウクライナでは市民が取材に協力的だった。それは、国際社会からの関心がなくなれば生き残っていけないことを十分に理解しているからだと感じた。ウクライナは経済的に豊かでもなく、武力もロシアの10分の1程度だ。ロシアの侵攻を止めるためには、軍事的にも経済的にも外国から支援してもらう必要がある。

 日本にいる私たちができることは何か。まずウクライナのことを忘れないことが大事だ。一般市民であっても寄付をすること、ウクライナの物を買うことで経済的な支援をすることなど、たくさんある。

 私はウクライナで気に入った民族衣装「ヴィシヴァンカ」を買ってウクライナを経済的に支援できないかと考えた。さらに寄付先をどこにするかをまずは考えて行動に移したい。一人一人の力は微力でも、みんながウクライナを支援したら大きな力になる。ウクライナを支援して、一緒に社会を変えよう。(たかまつなな、隔週月曜更新)


 ☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。


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