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「民主主義への参加」を掲げるドイツ連邦政治教育センターとは?

  • 執筆者の写真: 笑下村塾
    笑下村塾
  • 2 日前
  • 読了時間: 6分

ドイツ連邦政治教育センターとはドイツ連邦内務省の管轄下にある政治機関であり、連邦レベルで政治教育を組織・推進している。センターの目的は国民の政治に関する理解の促進と民主主義の定着による政治に参加する意欲を高めることだ。超党派の議員がいることで、政治的に中立な立場は保ちながら国民の政治参加を目的としてさまざまな活動を行なっている。


職員は約300人が在籍しており、22人の連邦議会議員により構成される評議委員会の監督下にある。また、複数の有識者からなる学術諮問委員会には、現代史や政治経済、政治教育などの専門家がおり、そこからの助言を受けながら活動を行なっている。


ドイツではドイツ連邦政治教育センターのような、国民1人1人が等しく自分の政治的意見を持つことが国家レベルで求められている。日本では政治的な主張を個人が持つことに対して馴染みのない人も多い。ドイツではどのようにして国民の「民主主義への参加」を促しているのか。


自分で判断するための材料を提供

ドイツ連邦政治教育センターのセンター長を務めるトーマス・クルーガー氏

ドイツ連邦政治教育センターのセンター長を務めるトーマス・クルーガー氏にお話を伺った。彼は様々な市民運動に携わったり市長や議員などの政治的役職を経験し、2000年より25年にわたってセンター長を行なっている。連邦教育センターの目的は、国民の民主的意識を強化し、政治に参加する意欲を持たせることだという。


「これは政治を政治家に任せるだけでなく、人々が自ら民主的なプロセスに参加するよう活性化させることを意味します。」


そのためにドイツ連邦政治教育センターは様々な取り組みを行なっている。その大きな取り組みの一つは、教育機関への支援だ。430もの教育機関に支援を行なっている。また、政治教育には直接関与していない文化分野、社会福祉分野、さらに政治活動の文化での活動を行なっている組織を合わせると、その数は約二倍にのぼるという。ドイツ連邦政治教育センター予算は1億ユーロ(約156億円)あり、これらの団体の支援にあてられている。


さらに、ドイツ連邦政治教育センターでは出版物の制作も行なっている。その内容は多岐に渡り、政治情勢をはじめ、ヨーロッパ政治、世界政治など、さまざまな問題について約180冊の本を、なんと毎年出版しているのだ。学校向けの教職本も数多く刊行している。


これらの取り組みの他にも、オンラインサイトの運営や地方創生なども行なっているという。オンラインサイトでは幅広いテーマを取り扱い、3万件以上の記事が掲載されている。エコロジーから、文化、栄養、エコ社会問題、私たちが現在直面しているエネルギー危機など、具体的なトピックを紹介している。地方創生にも多額の予算を割き、教育インフラがあまり整っていない地方都市での政治教育を大規模なプログラムとして支援を行なうことで、格差の解消に努めている。


つまり、私たちはこれらすべての時事問題について常に論争の原理に従って構成された資料を開発しているのです。なぜならこれらすべてのテーマについて、人はさまざまな選択肢や意見を持っているからです。そして私たちが目指すのは、ある立場を納得させることではなく、自分で判断するための材料を提供することです。そのためには、情報源や背景知識が必要なのです。」


「民主主義への参加」

キーワードは「民主主義への参加」なのです。」


クルーガー氏は、連邦政治教育センターの特徴をこう説明した。そしてそのためには国民が等しく自分の意見を持ち、議論をできる必要がある。この目標を達成するため、さまざまな工夫を行なっているという。


「収入に問題があり職を失ったすべての人が国の支援を要求できるように、ドイツのすべての人が自分自身のために連邦政治教育センターに政治教育を要求することができるのです。そのため特に高い教育を受けている人も、そうでない人、もしかしたらまったく字が読めない人も同じように、自分のためのサービスを実現できるよう、サービスはできるだけできるだけ幅広くする必要があります。」


だからこそ政治的な問題を人々と議論し、彼らが自分たちの関心を主張できるようにするために、視覚的な教材も制作する必要があるのだという。


そして国民自身が自分の意見を持つことができたら、その意見にもっとも近い政党を選出することで、それを実現することができるのだ。


このように民主主義への取り組みに政治家が参画している背景には、第二次世界大戦後の反省がある。ヒトラーの独裁後、連合国による民主主義教育、政治教育を組織せよという指示に対し、そのためには政治教育が大事であるという意見を政府・野党問わず、政治に関わる全ての人々が抱き、その確立に務めたのだ。


その功績の一つは歴史教育である。


「歴史教育は政治教育の一環であり、ドイツが国家社会主義時代についてこれほど幅広い批判的理解を築いたのは、歴史教育への投資と大いに関係があるのです。ナチス時代の構造、民主的権利の弱体化、ホロコースト、すなわちヨーロッパのユダヤ人の虐殺について説明します。」


これらのことが、ドイツにおける追悼の政治を、さまざまな政党を越えて広く支持することにつながっているという。


また、「ボイテルスバッハ合意」という1976年にドイツで発表された政治教育に関する基本原則は連邦政治教育センターの民主主義的な活動を支えている。「ボイテルスバッハ合意」には三つの原則がある。一つ目の論争の原則では、社会で政治的に論争になっていることは政治教育においても論争にするべきだということだ。二つ目に強要の禁止がある。判断は個々人に委ねるべきとされる。そして三つ目はエンパワーメントだ。自分の関心を分析し政治教育に反映させる。

「この三つの原則は政治信念に関わらず全ての人に当てはまります。民主主義的なスペクトルの中で自分の立場を明確にするのは政治教育でなく自分自身なのです。政治教育はあくまで判断の過程を支援するものです。」



議論の場と材料の充実

日本では、学校教育ではもちろん、社会において、社会問題に関する議論があまり活発ではない。そこはかとないタブー感があり、ドイツと比べると明らかだ。その大きな要因の一つには、教育機関での議論の場の少なさがあるのではないかと思う。たしかに、教育機関において政治的、社会的なトピックについて議論するのは非常に難しい。先生と生徒という主従関係のある中で偏りの生まれやすいテーマについて話し合うのは意見の誘導に導いてしまう可能性もある。しかし、だから行わない、となってしまうのは時期尚早であり、意見を持たないことへの危険を孕んでいる。安全な議論をするために、ドイツ連邦政治教育センターのようなさまざまな立場に立って国民に等しく情報を提供する機関が問題解決の糸口となるのではないか。


■ 動画でもドイツ連邦政治教育センターを紹介しています!


参考資料

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