※共同通信配信の有料メディア向けコラムから転載(2024年02月05日配信)
地域で世代間交流の場がない。その解決策の一つとして、シニアと若者が一緒にゲームを楽しもうと提言した人がいた。なんと、それは高校生だ。
「eスポーツ(esports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略でコンピューターゲームやビデオゲームを使った対戦を指す。地域の活性化に寄与するとして、eスポーツを事業化する地方自治体も出てきている。群馬県もその一つで「eスポーツ・クリエイティブ推進課」を設置し、群馬のブランド力向上に取り組んでいる。
群馬在住の高1男子、倉林さんは「グンマeスポーツアワード(GeA)」への参加をきっかけに、eスポーツで地元を活性化させたいと考えるようになった。GeAでは、シニアも若者と同じようにeスポーツを楽しんでいた。だが、世代別で部門が分けられてシニアと若者が直接競う機会はなく、年齢を超えた関わりが持てるeスポーツの良さを生かしきれていないのでは、と疑問を感じた。
群馬県もeスポーツの魅力に「年齢、性別、身体能力等の差が少ない」点を挙げるものの、スキルや経験差を考慮し、世代別に部門を設けて運営されるのが実情だ。
彼は、群馬県と笑下村塾の共同プロジェクト「高校生リバースメンター」に選ばれた10人のうちの1人でもある。「リバースメンター」とは文字通り、高校生が立場を逆転させ、知事のメンター(相談役)を務める全国初の試みだ。
(注)リバースメンター 1990年代後半に米ゼネラル・エレクトリック(GE)社が始めた人事研修制度。若手社員が先輩社員に対し、逆(リバース)に相談役(メンター)として指導に当たる。若い世代の情報、アイデアを経営に取り入れる狙いがある。若手の活躍の場を広げ、離職防止にもつながる。日本企業でも採用事例が増え、各種組織に広がっている。
百聞は一見にしかず
「eスポーツは世代で分けたらもったいない。縦のつながりをつくりたい」。その思いや願いをアピールしようと、倉林さんは2023年11月に県庁で開かれた政策提言会でユニークな発表をした。はやりの「スイカゲーム」を山本一太知事と一緒にプレーするというもの!一般的にeスポーツではなくても、スコアで競い合えればeスポーツになり得るのだそうだ。
表示された果物を箱の中に落としていくシンプルなゲームに、知事は「これがはやるの?!」と驚きつつも、数分のプレーで「なるほど、面白い!」と納得した様子だった。eスポーツが世代を超えて楽しめ、コミュニティーの創出に一役買うものだということを伝える「百聞は一見にしかず」方式は見事に成功した。
年齢差は約50。1958年生まれの知事が16歳の少年に教わりながら、夢中でゲームをする2人の姿は、会場にいた大人たちにも魅力的に映ったはずだ。
提言に対し、知事は「eスポーツの概念が変わった。世代間が交流できる大会をぜひ23年度中にやってほしい!」と力強くコメント。2024年3月の「ぐんまeスポーツフェスタ」という県主催のイベントが、倉林メンターの意見を取り入れた内容で実施されることが決まった。
地域間のつながりの必要性
人口減少や少子高齢化、働き方や生活様式の多様化などを背景に、地域のつながりは希薄化している。それは、地域コミュニティーの衰退を加速させる。私はこれまで7万人以上の子どもたちの声を聞いてきたが、「地域をより良くしたい」「地域住民のつながりを作りたい」との思いを抱く子はとても多い。だが、そのような子どもの声を聞いたり、アイデアが反映されたりすることは少ない。
地域を活性化させたいと、リバースメンターへの応募を決めた倉林さん。地域とのつながりの感覚があまりに薄いのが課題という意識はあっても、行動を起こせずにいた。
言葉や行動で実践して「何事も言ってみなければ始まらないと気付いた。これからもアイデアを言語化し、協力してくれる大人と積極的に共有して知見を深めていきたい」と、提言会での手応えに満足そうだった。
eスポーツで世代間を超えた大会というアイデアや企画は、彼が提案したからこそ実行されようとしている。このような子どもの声で、新たな可能性がたくさん生まれる。
今後の展望を本人に尋ねると、まずは3月の大会成功と、その後は評価できる点や課題を洗い出し、より良い大会運営のために磨きをかけていくことを挙げた。群馬をeスポーツで元気にしようと、活動を継続させていく強い意欲も示している。
行政や大人に全てを頼るのではなく、自分にもできることがあれば先回りして動きたいと語る姿は、群馬県の推し進める「始動人」の在り方そのものだ。(たかまつなな、隔週月曜に更新)
☆たかまつなな 「笑下村塾」代表、時事YouTuber。1993年、神奈川県横浜市生まれ。大学時代に「お嬢様芸人」としてデビュー。2016年に若者と政治をつなげる会社「笑下村塾」を設立、出張授業「笑える!政治教育ショー」「笑って学ぶSDGs」を全国の学校や企業、自治体に届ける。著書に『政治の絵本』(弘文堂)『お笑い芸人と学ぶ13歳からのSDGs』(くもん出版)がある。