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中学生が「社会を変えられる」と思える教育って? 10年で見えてきた対話と幸福度の深いつながり

  • 執筆者の写真: 笑下村塾
    笑下村塾
  • 23 分前
  • 読了時間: 10分

 「自分の行動で国や社会を変えられると思いますか」


 この質問に、あなたならどう答えますか。変えられると思えなければ、政治に関心が持てないのは当たり前。そう考えた社会起業家のたかまつななは、これまで10万人以上の子どもたちに「主権者教育」の授業を届けてきました。子どもたちの意識が大きく変わるという授業は、どんな内容なのでしょうか。見学するため、文化学園大学杉並中学校(東京都杉並区)にお邪魔しました。

※ この授業は、2026年2月4日に行われました。




笑いとともに始まった授業

 「今日はみなさんと一緒に、政治について、選挙について考えていきたいと思います〜」

 体育館に集まった中学2、3年生の300人近くを前に、たかまつの明るい声が響いた。続いてお笑い芸人の「流れ星☆」が登壇する。「笑える!政治教育ショー」というタイトル通り、授業は芸人が進行するのが基本だ。すぐに漫才のようなやり取りが始まり、生徒たちから大きな笑いや拍手が起きた。


 最初のプログラムは「クイズ!世界の選挙」。「オーストラリアで行われている選挙の仕組みは?」「インドネシアで行われている変わった投票の仕方は?」といった質問に対して四択の答えが示される。たとえばオーストラリアの質問に対する選択肢は「先着でコアラを抱っこできる」「投票所行きの無料バスが走っている」といったもので、そのたびにざわざわと話し合いの声が響く。


 民主主義について話す際にスライドに写したのは、ナチス・ドイツによるホロコースト(大量虐殺)が起きたアウシュビッツ強制収容所の写真だった。ヒトラーは選挙によって選ばれたことを説明した上で「民主主義は私たちの使い方次第」「みなさんにも、ぜひ話し合いに参加していただきたいな、と思っています」と話した。




うまい棒、自衛隊……「変えたいこと」を考えてみる

 たかまつが株式会社「笑下村塾」を立ち上げたのは大学院生のとき2015年の公職選挙法改正により18歳選挙権が実現した頃だ。小学生のときに環境問題に関心を持ち、社会を変えたいと思ってきた彼女にとって、自分のような若者の声をどうしたら政治に届けられるのかは常に大きな課題だった。


 国や社会の問題を我が事として捉え、行動できる個人を育成する主権者教育の一環として始めたのが「政治教育ショー」という名の授業だ。10年間で10万人以上の子どもたちに届けてきた。2024年に日本財団が行った18歳意識調査で「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」と答えた割合は約46%で、6カ国の中で日本は最下位。でも授業後にアンケートを取ると、「社会は変えられる」と思う子の割合は平均で7〜8割にのぼる。普段とは違う様子の生徒を見て、教員から驚かれることも珍しくない。


 授業の最後には「私が社会を変えるために」と題したプリントを配り、生徒一人ひとりが「変えたいこと」やその理由を書き込んだ。発表したい人を募ると次々に手が挙がり、「日本は物価も税金も高いのに、給料は低い。変えるために、デモに参加する」「うまい棒が10円で買えないから税金を変えてほしい。そのために署名を集める」「自衛隊にもっと予算をつけてほしい。いざとなった時に人々を守ってくれる人がいなくなるから」などの意見が出た。マイクを手にして生徒の声を聞いた流れ星☆の2人は「まだ働いていないのに、これだけ考えているってすごいね」などと驚きの声をあげた。




「私の一票でも、政治は変わっていく」

授業を受けた生徒の1人は「私は社会が苦手だけど、スライドがわかりやすかった。これからの国のあり方を自分たちで決めることは大事なことなんじゃないかと思った」、別の生徒は「クイズは1問目で間違ってしまったけど、世界と日本の違いや特色が知れておもしろかった。一国民として自分の意見を表明する機会はなかなかない。私の一票でも、これからの政治は変わっていくと思う」と話した。


 同校の理事長補佐で教育イノベーションセンター長の染谷昌亮教諭は「いまの中学生は昔に比べて『世の中がどうなっていくのか、これでいいのか』という疑問を持っている生徒が多い。そういう世代にアプローチしていただき、国や社会のことを自分ごとにする良い機会だったと思います」と感想を述べた。主権者教育が広がらない背景として、教育現場が政治について触れることを避ける雰囲気があると言われがちだが、染谷さんは「今回の授業では、どこかの政党に偏ることなく、子どもたちのモチベーションを引き出す機会をいただいた。今日のようなアプローチが政治への興味につながり、生徒が客観的に政党を比較できる視座に立てるのではないかと期待しています」と話した。


 衆議院選挙の直前ということもあり、当日はテレビ局や新聞社の取材も入った。授業後、たかまつは記者たちに次のように伝えた。「社会に対して課題意識を持っている子は多いけど、自分が変えられると思っていないことが課題。普段から大人が子どもの意見を聞くことで、『自分の意見は尊重されている』と思える」「10代の子どもが社会を変えた事例や方法を知ることで『自分にもできそう』と思ってもらうことが大事かな、と思っています」






報道機関との主なやり取り


Q 授業を通じて伝えたいことは?


たかまつ:学校で「変えたい社会課題は?」と聞くと、たくさんの意見が出ます。課題意識を持っていたり、人の痛みに寄り添えたりする子はすごく多いので、日本にはとてもポテンシャルがあると思います。でも変えるために行動に移すことは難しいし、「自分は社会を変えられない」と思っている子が多い。子どもたちには「勇気をもって行動に移しましょう」と伝えたい。


子どもが意見を言ったときに、それをしっかり聞いてくれる大人が周りにいることも大事。意見を受け止めてもらう経験をすることで「自分は社会で必要とされている人間」とか「自分の意見は貴重なんだ」という思いにつながると思います。




Q この10年で変わったことは?


たかまつ:社会問題に対する子どもたちの関心がものすごく高まっていると感じています。SDGsの取り組みや探究学習を通じて社会課題について調べる授業が増え、就職の際には、社会貢献できるかという軸で企業選びをする大学生もいます。


また、クラスにLGBTQプラスや外国人の子がいれば「社会の問題」ではなくて「友達の課題」という感覚になる。そういうことも増えていると思います。



Q 私はフランス人です。多くの日本人にとって、民主主義とは「選挙に参加すること」のようですが、フランス人にとっての民主主義はデモに参加したり、友人と議論したり、生きているもの。日本の民主主義の考え方は狭すぎるのではないでしょうか?


たかまつ:その通りだと思います。授業では「今日から変えられること」として、デモに行くことや署名を集めること、政治家に会いに行くこと、SNSに投稿することといった選択肢を示しています。


ただ、小さい頃から経験しないと難しいと思う。小学校の主権者教育を取材するためイギリスに行った時に、先生が生徒に「学校で変えたいことがあったら署名を集めて学校に提出してね」と伝えていました。「子どもにも社会を変える力があるし、大人はそれをちゃんと聞く」という姿勢があり、デモや署名の先に「対話の場」があるように感じます。日本では、署名を提出しても何の手応えもないまま終わってしまうように思います。




Q 自分の1票の価値を日本人はあまり感じていないような気がします。


たかまつ:いろいろな国で「なぜ選挙に行くんですか」と街頭インタビューをしました。若い人は「社会を変えられるから」という答えがすごく多かった。そういう力が自分にあると思わないと、選挙にも行かないのかなと思います。



Q 授業にお笑い芸人さんを呼ぶ必要性はあるのでしょうか。


たかまつ:私たちは多様な学校からお声がけをいただきます。「うちの生徒は話を聞けません。だけど、うちの生徒にこそ政治の授業をやってほしい」という依頼も来ます。お笑いだからこそ子どもたちに伝わるものがあると信じて依頼してくださっています。民主主義の裾野を広げたいし、より多くの人を巻き込みたいと思っています。




Q 日本では芸能人が政治の話をするのをタブー視します。エンタメ業界の人が、政治について身近な形で語りかけてくれたらいいのではないかと感じました。


たかまつ:そういう思いでやっていますが、タレントさんと学校側に迷惑をかけることはやってはいけないとも考えています。政党名を出したり、より若者にとって深刻な社会問題を議論したりできるのが理想的ですが、それを今の日本社会でやるのは厳しい。


私たちはこの授業を10年やっていますが、教育委員会や保護者の方から文句を言われたことは1回もありません。それは具体的な論点やイデオロギーに踏み込んでいないから。今の日本社会で実施できるものを届けつつ、それでも「社会は変えられる」という気持ちを持ってもらいたい。興味を持ってもらえたら、具体的な政治事象について専門家や政治家と話している動画などを見てもらえたらいいなと思っています。



Q 若者が政治参加をする意義について、改めて教えてください。


たかまつ:若者の声がしっかりと社会に届くことは、いろいろな意味でメリットがあると思います。選挙で議論されることの多くは、長くても5年先ぐらいまでですが、若い人は何十年先という長い視点で考えている。気候変動などに対する当事者意識は全然違うと思います。


また、若者は大人と比べて正論を述べることが多いと感じます。おかしなことが起きていれば声をあげ、対話の力で落としどころを決めて合意形成することができれば、あらゆることが変わるのではないでしょうか。


デンマークでは、多くの人が午後4時に退社するそうです。理由は、対話ができるから。部下が上司に「私がその会議に行く必要はありますか」と質問することができて、「たしかに必要はないから欠席しよう」と言える。ちゃんと対話ができれば効率的に働けるから経済的な効果もあるし、みんなが幸福になっていくんじゃないかなと思います。




Q 政治参加をする若者が増えることで、社会がどうなっていくといいと思われますか?


たかまつ:誰も取り残されない、みんなが居心地がいい社会が作れるといいなと思います。いまは個人のレベルでは若者の意識は高まっていても、アクティビストが生まれにくい社会環境。誹謗中傷で精神を痛めてしまうようなことがあり、私が活動を始めたときよりも社会運動がしにくくなっていると思います。SNSについて「どういう運用がいいんだろう」とか「どこまでが表現の自由で、どこからが誹謗中傷なのだろう」と対話できるようになるといいですよね。


コロナの時に、修学旅行を実施するかを生徒たちに議論させた学校がありました。「最後の思い出だから行きたい」という子と「怖い」という子がいたのですが、どうしたかというと、校庭にテントを張って泊まるイベントをやったそうです。世の中は二者択一じゃない。「私の意見も大事だけど、あなたの意見も大事だよね」という考え方が大事だし、落とし所を見つける経験も必要です。


核の最終処分場について合意ができているフィンランドやスウェーデンは、主権者教育が実施され、若者の政治参加が浸透している国。核エネルギーを使うことによってどういうリスクがあり、そのリスクにどう向き合うかについて、ちゃんと議論できている。日本はそういう議論から、政治家も含めてみんなが逃げている感じがします。


日本人には「我慢しなきゃいけない」という感覚がすごく強いなと思います。だから、「あの人はずるい」みたいな議論になるのでは。民主主義の理念が浸透すれば、自由も、他の人の幸福も、自分の幸福も大事にできる。合意形成や民主主義の理念が浸透している国の幸福度が高いことからも、全部が紐づいているのだと思います。



文・かめ




 
 
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