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  • 執筆者の写真笑下村塾

祈る平和から作る平和へたかまつななが、ウクライナを取材して考えたこと


ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって、1年が経つ。たかまつななは平和学習をアップデートするため、戦況が激しい2022年8月にウクライナを取材した。当初に比べると現地を伝えるニュースが減り、日本人の関心も徐々に薄れつつある。そんな今だからこそ、たかまつななが日本の若者に訴えたいものとは。


おびえてばかりでは暮らせない


― 危険な紛争地へ、なぜあえて出掛けようと思ったのでしょうか。


第一の目的は、平和学習をアップデートしたいと思ったからです。日本の平和教育は、平和を祈ることに重点が置かれています。しかし現在のように強い国が力で支配するような状況下にあって、祈るだけでは平和を守ることができない。平和を祈ることから、作ることに変えたいと思いました。


日本にとってウクライナは対岸の火事ではありません。ロシアがウクライナを侵攻したことにより、力による現状変更が起きてしまった。今後日本だって、台湾有事が起きたら、日本が巻き込まれてしまう可能性だってあります。

 ウクライナにいる人たちの生活が戦争でどう変わったのか、また平和についてどのよう

に考えているのか。戦況下にある人々の声を聞くことが、これからの平和教育のヒントになると思ったのです。



― ウクライナは、どのような状況でしたか。


首都のキーウに到着した時、人々が普通の日常生活をおくっているのに驚きました。空襲警報が鳴って私だけが走って逃げているのに、誰も逃げない。ボロディアンカという街は被害が甚大だった地域で、大きなマンションが爆撃されて真ん中がごそっと崩壊しているのですが、その目の前の公園で子どもたちが遊んでいる。街並みを見ると、ホテルやショッピングモールが再開しており、人々は街なかを、オシャレをして歩いている。戦時下というのを忘れるくらい、普通の暮らしを営んでいました。


しかし話しを聞いてみると戦争が日常になっており、おびえてばかりいては精神をすり減らし、生活できない現実がありました。どんなに大変でも、生きていくために、日常生活を送らざるを得ないことに気がつきました。

人々は日常を営みながら、いろいろなトラウマを抱えています。公園で遊んでいた子に取材すると、空襲警報が恐くて夜眠れないとか、元の生活ができなくて困っているとかいう人たちがいました。子どもたちは、友達がみんないなくなってさみしい、学校が崩壊して通えない、ロシア兵がやってきて恐かったなど、いろいろな心の傷を抱えていました。


― ウクライナでは、どのような取材をされていたのでしょうか。


飛行機は撃ち落とされてしまう可能性があるため、現在は運航していないため、ポーランドからバスで17時間かけて現地入りしました。ウクライナには1週間ほど滞在し、首都のキーウ、近郊のイルピン、先ほど話したボロディアンカ、ブチャの4ケ所でインタビューを行いました。子どもや若者を中心に街頭インタビューを行い、ジャーナリストや政治家なども紹介してもらって30人ほどから話しを聞きました。


ある女性市議が性被害を調査していたのですが、証拠隠滅のために、遺体を戦車で轢いたり燃やしたりしていた。遺体から50種の精子が検出された例もあったそうです。ただ、なかなか被害の状況が表に出てこず、調査は進んでいないようです。


日本人ジャナーナリストだと名乗ると、「ロシアと隣同士だけど、大丈夫か」「北方領土はどうなるんだ」「気付いてからでは遅いから、その前に準備しておいた方がいい」などと心配されました。戦争で苦しんでいる人たちから逆に心配されて、複雑な心境でした。



― ウクライナの人々は、今回の戦争をどのように見ているのですか。


若い人に、戦争を起こさないためにどうすべきだったか聞きました。「後悔している」という若者が多かったですね。たとえば「ロシアとの間に壁を創るべきだった」「侵攻をためらうような経済大国になるべきだった」「NATOに入るべきだった」「武器をもっと準備しておけば良かった」などなど。もちろん現実的なものばかりではありませんが、みんな後悔をもっており、半年間ずっと真剣に考えていることがわかりました。


一方でジャーナリストに話しを聞くと、そういう言葉が出てこないのです。「ゼレンスキが攻めてこないと言っていたから、そう思っていた」とか、日本のジャーナリストだったら、考えられないような次元の話しをしている。「取材が足りなかった」とか、「報道で侵攻を防ぐことはできたかもしれない」というコメントは聞きませんでしたね。


実はウクライナは汚職が多い国です。物事を回すのも裏のお金が物を言い、選挙で政治家を選んで自分たちの思いを実現させるよりも、賄賂を渡した方が早い。そんな世情の中で政治家の汚職を正すことができず、言論やジャーナリズムが育たなかった。民主主義の成熟度がまだまだだと感じました。なので、たくさんの後悔の中にも、政治的なこと、例えば「安全保障に関心が高い政治家を選ぶべきだった」とかそのような発言は出てきませんでした。



― ウクライナの方たちは、今度の戦争をある程度予想していたのでしょうか。


いいえ。クリミア侵攻があったのに、多くの人が、ロシアが攻撃を開始した2月24日までは、まさか攻めてくるとは思わなかったようです。日本でも「戦争が始まったと感じたのはいつか」という質問に対して、身近な人が亡くなったり戦争に駆り出されたりして、初めて実感した人が多かったようです。その点はウクライナも日本も同じで、直接的な被害がないとなかなか実感しにくいのかもしれません。



― ウクライナ侵攻は、何を意味するのでしょうか。


私自身、平和に対する考え方がかわりました。こちらには何の落ち度がなくても、利害関係で攻めこまれることが現実にある。ウクライナでそれを間に当たりにしました。力による現状変更が許されてしまった。だからこそ、日本で平和教育をして、断固とした平和を創りたいという思いが強くなりました。



― 日本は何ができるでしょうか。


ウクライナは経済的にそこまで大きくなく、軍事的にはロシアの10分の1しかありません。金銭的にも軍事的にも国際社会の支援が必要です。経済を回すことも必要。ウクライナの

人々は現在、経済的に非常に厳しく、お金がなくて自ら軍隊に志願する人もいます。難民を受け入れるたり、ウクライナの物を買ったりすることも支援に繋がります。いずれにしても、国際社会がウクライナを見放さないという姿勢を示すことが大切です。


ウクライナへの支援は日本にもメリットがあります。そういう姿勢を見せることで、日本も何か有事があったときに、国際社会から見放されずにすみます。


日本では、ウクライナへの武器の提供をとんでもないこと、と考えている人がいます。しかし、武器がないと一方的にロシアに攻め込まれてしまうのです。命を守るためには、武器も必要。そういうことも理解して欲しい。


― どのような平和教育をしているのでしょうか。


「平和を作るために私たちができること」というテーマで、フェリス女学院大学で出張授業を行いました。ウクライナでの体験を語ったり、戦争についてのマルバツクイズなどを行ったりして、私たちができることは何かみなさんに考えてもらいました。発表やアンケートには「私ができることはないと思っていたけど、実はたくさんあった」「各政党の防衛政策を調べて選挙に行きたい」「争いは文化の違いから生まれることが多いので、大学で世界の文化、宗教をしっかりと学びたい」「争いは貧困から生まれるので、それを回避するためにフェアトレードの商品を買いたい」など、いろいろな意見が出ました。みなさんいろいろと考えてくれ、やったかいがあったと感じました


これからも機会を見つけて続けていきたいですね。また日本の過去の戦争にも目を向け、沖縄、広島、長崎などにも取材に行きたいと考えています。



日本はもっと平和教育に力を入れるべき


― 今回の取材を通して感じたことは。


武力による侵攻は、日本でも決してあり得ないことではないと感じました。近隣には北朝鮮、中国、ロシアが控えています。もっと危機感を持って、日本は今何をすべきか考えた方がいいかもしれないなと思いました。「防衛力を高める」、「外交を上手にする」、「国際社会を味方につける」など、いろいろな意見があると思いますが、ひとつは民主主義を強固なものにしていくことが大切だと思います。そのためにも、若い人がもっと政治に関心を持って選挙にも参加して欲しいです。


― 日本の安全も脅かされると思いますか。


多いにあると思います。今回のウクライナ侵攻で、世界の地政学的リスクが浮き彫りになりました。次の火薬庫と言えるのは台湾です。中国は台湾に対して、より強硬強固な態度を取るようになっており、もし、台湾有事が生じたら、日本へも大きな影響が及びます。日本は食料、エネルギーを海外に依存しており、台湾とフィリピンの間にあるやバシー海峡が封鎖されれば海上輸送にも影響が出てきます。与那国島や石垣島は台湾とも近く、紛争に巻き込まれる恐れもある。


また台湾は、世界の半導体の受託製造の6割をまかなっており、その供給がなくなればスマートホンやパソコンなどのIC機器を作ることができなくなります。経済に大きな打撃を与えるだけではなく、防衛においても大事です。ウクライナに取材に行った際、道に破壊されたロシア軍の戦車とかがずらーと並べられていました。その戦車を破壊するためのミサイルとして、有名なジャベリンには、250個の半導体が使われているんです。半導体はミサイルの精度を大きく左右します。


領土も、食糧も、経済上も大変大きな影響を受ける可能性がある台湾有事。この危機意識が国民全体で共有できていないと思います。



― 岸田総理は今後5年間の防衛費を43兆円としました。現行の中期防衛力整備計画の1・5倍以上です。


緊張感が高まっているから、防衛を見直さなければならないというのはわかるのですが、いきなり防衛費を増額するのには疑問を感じました。もっと議論を尽くすべきでした。一

回予算を上げてしまうと歯止めがきかなくなり、下げるのが難しくなります。少し強引だったと思います。


予算が足りなくなって国債を発行することになれば、未来の子どもたちにつけを回すことになります。今安全保障上危機感が高まっているのであれば、今を生きる私たちが私たちの税金で痛みを感じなければ。痛みを分かち合えば、それでこそ防衛意識も高まるでしょう。


個人的には、防衛費の予算を増やすのと、同じぐらいの熱量で子ども予算倍増も進めてほしいですね。



― 平和な社会を作るために、何をすべきでしょうか。


1人1人が「平和のために何ができるか」を考えることが大事だと思います。国のレベルだと防衛をどうするか、国際社会とどう向き合うか、外交をどう展開するか、どのような法律を作るのかなどありますが、実は私たち個人にもできることはたくさんあります。戦争のプロパガンダを拡散しないため、フェイクニュースを拡散しないようにしたり、紛争鉱物などが使われているスマホを買わない・リサイクルに出すなど、エシカル消費などもできます。

好きな言葉に「買い物は投票」という言葉があります。物を買うという行為は、どんな未来を作りたいか、一票を投票していることと同様だと。一円でも安い物を買うと、世界から児童労働はなくならないかもしれません。ちょっと高いけれども、環境や人権を考慮して作っているものを買ったら、。そういう企業が生き残る。買い物で、私たちの意志を示すことができるのです。




― 今後、ウクライナ戦争はどうなっていくと思いますか。


難しいです。残念ながらすぐ終わることはないでしょう。プーチンはウクライナに対する執着があり、またメンツもある。この戦争で負けてしまえば、国内での足元すら危うくなります。一方、ウクライナもロシアやプーチンに対する憎しみが高まって「クリミアを取り戻せ」という声も上がっている。すぐに終わる見透しは立っていません。


だからこそ国際社会が協力してウクライナを支えて行かなければなりません。私たちもウクライナを忘れず、関心を持って見続けていくことが大切だと思います。力による現状変更は許されないとしっかりメッセージを出すためにも、ウクライナを経済的にも軍事的にも支えないといけないと思います。そして日本が何かあった時に、国際社会から見放されないためにも、ウクライナを見放さないことは大事です。ウクライナに寄付をしたり、ウクライナのものを買って、ウクライナの経済を良くしたり、ウクライナに関心を向けることが私たちにできることです。


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