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政府を批判するのが当たり前 スウェーデンの若者・市民社会庁で聞いた話

執筆者の写真: 笑下村塾
笑下村塾
7 時間前
読了時間: 7分

9月13日、スウェーデンで総選挙がある。その4日前、ストックホルムにある若者・市民社会庁(MUCF)を訪ねた。学校での模擬選挙「学校選挙」を行い、年に40億円超を若者団体に配る役所だ。



■若者の権利を守る政府機関

MUCFの前身となる組織は1959年に設立された。若者政策を担う政府機関だが、学校制度の中の機関ではない。学校で起きることは、教育省が所管する学校庁が扱う。


MUCFが扱うのは、就労、余暇、健康、教育、LGBTQ+の権利、移民として来た若者の権利。若者の生活を幅広く横断して見る役所だ。

日本でも、こども家庭庁ができた。若者政策は、政策の優先度が下がりがちだが、どう優先度を上げているのかと聞いた。


「私たちは若者の専門家であり、市民社会の専門家です」



そのうえで、他機関との協働を前面に出すことだと説明された。行政だけでは地域の課題は解決できないから、市民社会と組む。各省庁の長が集まるネットワークと、市民社会の代表が集まるネットワークを両方持ち、組み合わせて課題に当たる。職員は2018年の75人から、いまは180人に増えている。




■若者を「問題」ではなく「資源」として見る

最初のプレゼンで、MUCFが若者政策で使っている「モデル」の説明があった。人権と、こどもの権利条約を土台にし、13歳から25歳の若者を中心に置く。6つの要素からなり、すべてが揃って初めて機能するという。


校長や学校運営者が、民主主義教育に予算と時間を割り当てること。

上から決めなければ現場は動かない


若者が何を望み、どう暮らしているかを調査で把握すること


若者主導であること。学校選挙では、登録にも結果の報告にも生徒が関わる


政治家を学校に招き、生徒がその場で質問できる機会をつくること


教職員がこどもの権利条約の研修を受けること


そして、若者は均質な集団ではないという前提に立ち、「問題」ではなく社会の資源であり未来をつくる存在として見ること


■1,700校、50万人が投票する

いま全国の中学・高校で「学校選挙」が行われている。国政選挙に合わせ、生徒が本物と同じ投票用紙、投票用封筒、記載台、投票箱を使って投票する。運営はMUCF、参加は無料で、申し込めば資材一式が届く。

今年は1,700校以上が登録し、投票できる生徒は50万人を超える。ほぼ全ての自治体に参加校がある。前回2022年は1,449校・約39万人が投票し、投票率は77.9%。2002年以降の累計では、若者の投じた票は延べ230万票を超えた。


ただし結果を報告しない学校もある。特定の政党と結びつけて見られたくないからだ。


4年前に取材した際は、投票結果について、学校が自分の学校だけではなく、他の学校や地域のも見ることができるため、「なぜ地域差ができたのか」などと考えることもできたという。また学校選挙の選挙結果は、まるで選挙の開票特番のような番組が生放送でYouTubeで放送されていた。


■なぜ市役所ではなく、学校なのか

投票を体験させたいなら市庁舎に投票所を作ればいいのでは、と聞いた。


「市庁舎に行くだけなら、そこに来る若者はそう多くない」


学校でやる意味は、政治を学校の話題にできることだという。これまで政治を扱ってきたのは社会科の教員だった。けれど自分たちは、自動車整備士や大工を育てる職業教育の教員にも、政治や民主主義について話してほしいと考えている、と説明された。


■「知識は増える。投票率が上がるかは分からない」

学校選挙にどんな効果があるのか聞いた。

返ってきたのは、まず言い方についての話だった。


「『知識が増える』という言い方をするのが大事です。実際に有権者になったときの投票率を上げるかどうかは、私たちは分かっていません」


模擬選挙をやれば将来の投票率が上がるかはわからない。言えるのは、民主主義と政治についての知識が増えること。公式の評価では、参加した生徒の約7割が「民主主義や政治にどう関われるかが分かった」と答え、教員の9割が「生徒の理解に違いを生んだ」と答えている。


届いていない層も、はっきりしている。障害のある若者と、社会経済的に厳しい地域に住む若者は、もともと政治への参加度が低い。そして、そうした生徒が多い学校ほど、学校選挙に登録していない。2022年に登録したのは、対象となる学校のおよそ半数。10自治体に1つは参加校がゼロだった。


■極端な主張をする政党を、どう扱うか

日本で主権者教育が止まるのはここだ。政治的中立性をどう扱うか。


MUCFの答えは、立場を取らない、だった。判断するのは各学校と校長で、役所は口を出さない。前提として、国会に議席を持つ政党は、いずれも民主主義システムの一部であり、議会は尊重されなければならない。個々の政策については議論されるべきだ、と。


現場の教員の実践も聞いた。中立を保ち、各政党が何を代表しているかを説明し、政治的スペクトラム全体を扱っているという。


ただし、教師が介入する場合がある。

非民主的なこと、人権と人間の価値に反することが言われたとき。そのときだけ「それは言ってはいけない」と入る。


右派政党が台頭する中で、移民やLGBTQの権利に否定的な政党を、教室でどう扱うのか。


「完全に遮断するのではなく、『なぜそう思うの?』と問い返して議論を続けることが最善です。15歳の生徒が何かを支持すると言えば、教室には同意しない生徒が必ずいますから」


■若者団体へ40億円超の支援を行う

MUCFは若者団体に助成金を配っている。2025年度は約2億6,200万クローナ(およそ40億円)を110団体へ。主な要件は、会員の6割以上が6〜25歳、6〜25歳の会員が1,000人以上、5つ以上の県に加盟団体があり、民主的に組織されていること。


政府からお金をもらった団体が、政府に物を言えるのか。聞いてみた。

「スウェーデンで民主主義の一部であるということは、何でも批判する自由があるということです。それは法律に基づいています」


「政府や、時には助成金を出している私たち自身に不満を持っている若者団体は、たくさんあります」


そして、こう続いた。

「それでいいんです。そうあるべきなんです」

助成の理由は「民主主義的な基盤を持つ若者団体だから」であって、活動内容の方向づけではない。「時にはいい失敗が必要です。そこから学ぶのですから」とも言われた。


■選挙のない年に、何をするか

4年に一度の選挙の年だけでは足りない、というのがこの役所の一貫した立場だ。


学校向けには無料の教材を通年で提供している。平易なスウェーデン語の資料、障害のある人と民主主義について話すための手引きが含まれる。


もう一つがLUPPという自治体向けの若者アンケートだ。MUCFが作り、実施するのは自治体。無料で、これまで延べ180近い自治体が使い、約100が継続している。実施した自治体の97%が「若者の参加を進める良い土台になる」と答えている。


若者が何を必要としているかの情報がなければ、彼らの役に立つ政策も活動も作れない。だから調べて、若者と一緒に改善を考えるところまでを民主主義のプロセスと呼ぶ。


■民主主義は博物館ではなく、日常生活で実践する

一緒に視察に来た日本若者協議会が取り組んでいる「民主主義博物館」の話をして、スウェーデンに同種の施設があるか尋ねた。


「ない」

理由はこうだった。スポーツクラブでも、15歳になれば総会で投票権を持つという。理事や書記を選び、組織の意思決定をする仕組みが、スポーツクラブなど全国の団体に広くあると説明した。自治体の助成があるので、参加費はごく安いか無料だ。


民主主義が日常に埋め込まれ、学校にもあり、多くの団体が実際に民主主義を回している。だから専用の施設が必要とされてこなかった。


そのうえで、こう言われた。

「とても賢いやり方だと思います。ただ、生徒がそこまで足を運ぶ時間を取らなければならない。より多くの成果が欲しいなら、情報と教材を生徒のところへ持っていくことです」


■民主主義は動詞だ

完璧な国の話ではない。


9割が「民主主義国家に住むことは重要」と答える国で、意思決定者に自分の意見を届けられる可能性が大きいと考えている若者は5人に1人。前回の国政選挙では、若者の投票率が20年ぶりに下がった。


スウェーデンの学校選挙も、最初は個別の学校が始めたものだ。政府機関が引き取ったのは20年前になる。


取材中、何度も出てきた言葉がある。「民主主義は動詞だ」。ティモシー・スナイダーの言葉で、文法的には正しくないけれど、常にやり続けるものという意味だという。


別の担当者はこう語る。

「国際的な文脈では、民主主義は後退しています。スウェーデンも日本も、民主主義に留まりたいなら、この問題に向き合う必要がある」


 
 
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