9月23日に投票が行われる立憲民主党の代表選挙に立候補している衆議院議員の枝野幸男さん。ヒューマンエコノミクス(人間中心の経済)をビジョンに掲げ、誰もが力を発揮できる裾野の広い社会を目指しています。政権交代して総理になったらやりたいことを含め、YouTube「たかまつななのSocial Action!」で話を聞きました。(取材:たかまつなな/笑下村塾)
※取材は2024年9月18日に実施しました。
代表選に立候補した理由とは
ーーなぜ、代表選挙に立候補を決めたのでしょうか?
枝野:危機感ですね。日本経済が崖っぷちまで来ていて、何年も待っていたら取り返しがつかないというか、取り返すのに10倍、100倍、時間やエネルギーがかかる状況に追い詰められている。その前にこの国の政治を変えましょうと訴えたくて立候補しました。
ーー枝野さんが党の代表を辞めた理由は選挙の結果に責任を取るためでした。一方、今の代表の泉健太さんは補選で3勝しています。そこにNOを突きつけるのはなぜですか?
枝野:別にそうは思っていないです。泉さんはこの3年間の任期、しっかりと仕事をしてこられたと思っていますが、任期満了での選挙ですので3年間の実績を踏まえて、泉さんがいいという人もいるだろうし、違うやり方や視点もあるんじゃないかという人もいるだろうし、それをきちんと党内で議論をすることが民主主義の前提だと思います。泉さんがどうこうではなくて、この危機のときに推してくれる仲間がいるなら、私も手を挙げて国民の皆さんに訴えたいという思いですね。
ーー泉代表時代の課題は何でしょうか?
枝野:泉さんの時代だけではなくて、この10年あまり、特に2012年に自民党が政権に戻って以降、野党第一党がどういう社会を目指すのかが見えにくくなっていた。それはやむを得ないところもあったんですよ。例えば安倍一強と言われている状況にどう対抗するかが最大の課題だったので。でも今は、自民党がちょっと困ったものなので、代わりが求められているときに、立憲民主党とは何なのかがまだ十分に伝えきれていないところは私が代表をやっている時代を含めての課題だと思います。
みんなが力を発揮できる社会を作りたい
ーーいま政権交代の機運が非常に高まっています。世論調査でも政権交代を望む割合が一番高いですが、もし枝野さんが党代表になって政権交代し、総理になったら何をしたいですか?
枝野:すぐにやらなきゃいけないのは物価高対策。それから能登の支援。短期の話を別とすれば、大きな社会の流れ、経済政策の流れを変えたいんですよ。この30年から40年ぐらいは、人を使い捨てにして目先の合理性だけを求めた経済が、結果的に山の裾野を細らせてもろいものにしてしまった。一人一人を大切にして、裾野を広くして高い山を作らなければならない。そちらに舵を切り始める。その流れを作っていきたいと思っています。
ーー「ヒューマン・エコノミクス」(人間中心の経済)をビジョンに掲げていますが、その核となる政治はどんなことをやるべきだとお考えですか?
枝野:人が生きていく上で、あるいは社会が成り立つ上で、必要不可欠の仕事なのに重労働の割には低賃金で人手不足になっている。介護とか、医療とか、保育とか。最近は公教育、公立の小中学校までそういう状況になりかけていますね。それに公共交通、タクシーだけじゃなくて実は鉄道バスのドライバーも足りないとか。間もなくトラックドライバーが足りなくなって荷物が届かなくなります。
こういうサービスは政治が決めればかなりの部分、賃金を上げて非正規を正規にできるんですよ。ここがまず何よりも肝だと思っています。するとそうした皆さんの上がった賃金の分は消費に回って経済も回っていく。公的なサービスが充実することで、ほかの人たち、例えば子育て中の方々が安心して仕事に集中できるとか、あるいは親の介護のために仕事を辞めざるをえない負担が小さくなるとか。これで社会全体のみんなが力を発揮できる社会、経済を作っていきたいです。
対立候補の総理経験者、野田さんにはない強みとは
ーー枝野さんが考える民主党政権の間違いだったところ、もし総理になったらどう修正しますか?
枝野:経験不足と一言で言ってしまえば単純ですが、一番大きいのは政権を取って実際に実行するためにどういうプロセスが必要なのかをあまり深く考えずに、何をしたいか、何をしなきゃならないのかばかりを並べてしまった。すぐにやりますと言ってマニフェストで10も20も並べたのですが、それは自民党が衆参で圧倒的多数を持っていても、与野党で意見が分かれる法案を無理やり成立させるのは1年に3本、4本できたらいい方なんですよ。民主主義のプロセスって一定の時間がかかる。自民党さえそれだったのに、我々が政権を取ったら、それをすっ飛ばして全部一気にやりますなんてできないことに事前に気付いていなかった。やはり経験不足だったので。だからこそいろいろな批判があっても、あのときの経験をしっかり活かすことが大事だと思っています。
ーー経験を活かすという意味では、今回の代表選に総理大臣経験者の野田佳彦さんも立候補しています。だとすれば野田さんが代表になるべきではないでしょうか?
枝野:私は経験という意味では、民主党政権時代に東日本大震災の指揮を取らざるを得なかったこと、それからいわゆる希望の党騒動で立憲民主党を立ち上げたこと、この日本の戦後の最も大きな2つの危機に、当事者として対応した経験は、総理をされた野田さんの経験には負けないと思っています。
集団的自衛権を容認するのか
ーー安保法制についてはどうお考えですか?立憲民主党は反対運動をしていましたが、現在は容認に転じたのか、考え方が変わったのか、そこはいかがですか。
枝野:何も変わりません。あの問題は、今までは個別的自衛権しかだめですと言っていたのを、閣議決定で勝手に集団的自衛権もOKと変えてしまったわけですよ。だからあの法律も問題になった。憲法は大きなドラム缶みたいなもので、いろいろな法律とか、役所行政がやることとかは憲法という枠の中にあるから、その中で暴発しようが何をしようが、外に影響しないで国民が守られるというのが憲法なわけですよ。ところが、安倍さん、閣議決定でその外側の枠をぶっ壊してしまったので、その中にあの法律があると日本に直接関係ない戦争にも巻き込まれかねないと。だからあれはだめなんです。だから私は、閣議決定を正しいものに戻しますと言っているんです。閣議決定さえ正しいものにして、その枠の中であれば、実は法律そのものは憲法に反しない範囲でいくらでも読み込めるし、運用できるんです。それを私は言っています。
ーー集団的自衛権自体は必要だとお考えですか?
枝野:集団的自衛権は憲法違反ですから。
ーー今の日本には集団的自衛権は必要ないという認識ですか?
枝野:例えばいま安保法制でやろうとしていることも、実は個別的自衛権なんです。なぜわざわざ集団的自衛権と言っているのか、私には意味がわからない。あの法律が今までと違うのは、存立危機事態のときは自衛権を発動できます、日本の存立が危ういときに自衛権を発動できますと。これが個別的自衛権なんです。元々昭和30年代に最高裁判決があって、日本の存立に危機を及ぼすようなときは自衛権を発動できる、これを個別的自衛権と言っていたので、あの法律の条文は個別的自衛権なんですよ。だけど閣議決定で変なことをしちゃっているからおかしなことになっているんです。
ーー私もやり方を含めてひどいと思いましたし、やるなら憲法を改正すべきだったと思います。ロシアによるウクライナ侵攻でも、ウクライナがもしNATOに入って集団的自衛権を結んでいたらまた違った結果になっていたのではないか。ウクライナの戦地に取材に行って若者に聞くと、NATOに入っておけばよかったという声がすごく多かったです。日本も台湾有事に備えていろいろな国と集団的自衛権を結ぶことは必要かと思います。
枝野:今回は、ウクライナ自体がロシアから攻撃されているので、ウクライナが行使しているのは集団的自衛権ではなく絶対個別的自衛権です。NATOが集団的自衛権を行使するかどうかという問題なんです。日本の集団的自衛権とは他国に何かあって日本には何もないときに自衛隊が戦いますという話です。日本に何かあれば、日米安保によって日本が集団的自衛権を行使するかどうかに関わらず、アメリカが集団的自衛権を行使して日本を守ることになっています。だから日本を守るために他国がお手伝いしてほしいというのは今の憲法で全然OKですから(集団的自衛権がなくても)何の問題もないです。
野党共闘、維新や共産党とは手を組む?
ーー野党共闘について伺います。選挙の際、野党のどの党まで政策協定を結ぼうと考えていますか?
枝野:相手のあることなので、私は働く人たちに支えられた政党の範囲までは、選挙の有無に関わらずできるだけ連携を深めることができるし、可能な範囲でやるべきだと思っています。それは国民民主党と社民党までです。
ーー日本維新の会と共産党についてはどう考えていますか?
枝野:いま、我々は政権を目指しています。そのときに共産党さんと維新さんは明らかに180度違う方向を向いているわけで政権が回るわけがないじゃないですか。例えば、安倍一強に抵抗することが主目的であるならば、違いがあっても安倍さんでは困るという人が手を結ぶことがありましたが、時代状況が変わって、我々は共産党さんとも維新さんとも目指す社会が違う。すると、政権を目指す上でどこを目指すか分からなくなるじゃないですか。それ(政策協定など)は考えていません。
ーーそれは単独政権ができそうということですか?
枝野:単独政権を目指しています。
ーー国民民主党とも連携しながらですか?
枝野:国民民主党さんと社民党さんは、そういう次元とはまた別のもっと近い関係だと思っています。
若者の政治参加を促すために必要なこと
ーー私たちは普段、学校に出張授業に行くなど主権者教育に力を入れているので、若者の政治参加について伺います。例えばスウェーデンなどでは、若者の団体に対して財政的な支援が年間40億円ぐらい組まれていたり、フランスやドイツでは学校内で民主主義を推奨するというのが法制化されていて、自分たちで自分たちの物事を決めることに子どもたちが参画することなどがルール化されています。日本でもそのような財政支援や学校内民主主義の法案を作ることは考えていますか?
枝野:学校内民主主義はいきなり法律まで行けるかは別としても、例えばおかしな校則を見直す動きは自治体を中心に社会運動として一定の成果を上げてきたと思うので、これをもっと国全体で進めたほうがいい。その校則を見直すにあたっては、当事者である高校、あるいは高校の生徒さんたちの声をちゃんと反映させるのが民主主義だよねということをやっていこうとは思っています。
財政支援ということでは、そもそも学生さんや若い人たちの団体そのものが、残念ながら日本ではほとんど存在していない。まずはそこをどうやって育てていくか。政治が直接介入してしまうと、政治的に偏ったところにお金が行って、本来の政治参加を普通に考えているところ(団体)が、変なことに巻き込まれてしまうと思うので、丁寧にやらなきゃいけないと思いますね。お金を出すにしても、直接政治が出すやり方は避けたほうがいい。むしろ寄付税制なんですよね。民間の皆さんが社会に役に立つことに寄付をしたときに、その分税金を安くしますという仕組みがまだまだ弱い。寄付税制を拡大することで、民間の人たちがそういう活動に、特に次世代の活動にお金を出すような流れをちゃんと作っていきたいですね。
ーー被選挙権年齢の引き下げについてはどうお考えですか?
枝野:僕はありだと思うんですけど、特に自治体議員のところでやってもらいたいと思うんですよ。政治に関心のある人って残念ながら少ないじゃないですか。その中でどこから政治に関わるかというと、身近な市区町村の自治体なんですよね。中学生や高校生の声を市に届けて実現しましたみたいな話って結構あるんですよ。すると若い人たちが政治に関わって自分も当事者になれる。特に自治体議員の被選挙権年齢は、選挙権年齢と揃えていいと思いますね。
ーー最後に、若い人に向けてメッセージをお願いします。
枝野:世の中をちょっと変えるだけで、未来が良くなると思える社会を作ることはいくらでもできると思っています。30年ぐらいやってきた政治のやり方をもう一度見直して、今まで人を使い捨てにして、目先の損得だけで物事が動いてきた社会を、ちょっと先を見て人を大事にする社会に変えていこうと私は訴えています。こういう方向転換ができれば、まだまだ日本は捨てたものじゃないですよ。政治を諦めず、できるところから政治に関わっていただければ嬉しいです。私も頑張ります。
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