皇室制度のゆくえは?歴史学者・河西秀哉教授に、青山和弘さんとたかまつななが聞く
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- 2 日前
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天皇、皇后両陛下の長女愛子さまや秋篠宮家の次女佳子さまをはじめとする女性皇族の公務が盛んに報じられる中、皇位継承や皇族数の減少といった皇室を取り巻く課題に注目が集まっています。高市早苗首相は今国会での皇室典範改正に意欲を示していますが、議論のゆくえは見通せません。象徴天皇制を研究している河西秀哉・名古屋大大学院教授に、政治ジャーナリストの青山和弘さまと笑下村塾代表取締役のたかまつななが話を聞きました。
*当記事はYouTubeチャンネル『たかまつななのSocial Action』のために2026年4月8日に取材した内容を基に作成しました。読みやすさを考慮し、編集を加えた部分があります。

今、なぜ皇室典範か
ーー 皇室制度はなぜ今、こんなに注目されているのでしょうか?
河西:高市総理の施政方針演説(編注;「我が国の伝統や歴史の重みを噛(か)みしめながら、国会において、皇室典範の改正に向け、安定的な皇位継承等の在り方に関する議論が深まることを期待しています」と発言)や国会答弁などによって注目されていると思います。
青山:皇族の方々の年齢が進み、仮に秋篠宮ご夫妻の長男悠仁さまが承継しても、それ以降は継承者が途絶える可能性もある中で、喫緊の課題であるということですよね。保守政治家として、皇室を続けていく仕組みをつくっていくことが極めて大事だという意識が高市さんにはあると思います。
ーー 自民党と維新の会の連立政権合意書にも、皇室典範の改正が盛り込まれていましたね(編注;「『皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する子を皇族とする』案を第一優先として、令和8年通常国会における皇室典範の改正を目指す」)。
河西:政権として「やりたい」ということの意思表示だと思います。小泉政権を含めてずっと議論の主流だったのは、女性天皇と、女性皇族を結婚後も皇族として残すかでした。でも、菅政権から岸田政権にかけて開かれた政府の有識者会議で、初めて公に養子案が出てきました。自民党としては、これをやりたいという意志なんだろうな、と思います。
ーー 現在の制度の課題は?
河西:基本的に、皇族数が減っていくというところです。男性の天皇陛下から生まれた男子、つまり男系男子のみが皇位を継承するという法律で、さらに女性皇族が皇族以外の方と結婚した場合には(皇室を)離れるので、愛子さまや佳子さまが結婚すれば、残るのは悠仁さましかいなくなる。平成以降、被災地訪問などの公務が明らかに増えているのに担い手は減っていく。これをなんとかしないといけない、というのがまず短期的にあります。
青山:あとは、皇位継承についてですよね。将来のことも考えないと間に合わなくなる可能性もある。
ーー 皇室を残していくという点については、国民的な合意形成が取れていると思うのですが、どういうところが議論として割れているのですか?
河西:伝統性と現代性のバランスをいかに調和させるかという問題だと思います。過去には女性天皇もいたものの、天皇は男系で続いてきたというのが伝統性を重んじる人の意見。一方、社会の変化に合わせて、女性皇族や女性天皇を認める皇室制度へと変わってもいいのではないかという意見も出ています。
ーー そもそも「男系」「女系」とは?
河西:天皇の血をお父さまから継いでいると男系、天皇の血をお母さまから継いでいると女系になります。愛子さまは父親が天皇陛下なので「男系女子」。例えば愛子さまが結婚して、天皇陛下の血縁を愛子さまから継ぐこどもが男子であれば「女系男子」となります。いまは基本的には男系男子しか認めない、ということになっています。古代は近親婚も多く、父親も母親も天皇だった双系(男系・女系双方の血統を継ぐ)もいましたが、純粋な女系の天皇はいないんです。
青山:女性天皇は8人いたとされますが、外の人と結婚して、そのこどもが継いだ例はないということですね。
河西:ないんです。それをやろうとすれば、史上初めてになります。
ーー 「男系」「女系」という考え方はいつの時代から?
河西:近代に入ってからです。明治期に大日本帝国憲法をつくり、皇室典範を定める際に男系男子に限定しました。男系がつないでいくという概念についても、日本古来だと思われるかもしれないけど、実は古代から中世にかけて中国から日本へ入ってきたんです。
青山:男性にのみ存在するY染色体が126代引き継がれているのが日本の天皇家のすごいところだとよく言われます。「女系でもいいんじゃないか」となると、Y染色体を引き継がない人になるから、天皇家の正統性が崩れるということを保守派の人たちは主張しているわけですね。「そんな時代じゃない」という意見とのせめぎ合いだと思います。
河西:世論調査によって異なりますが、女性天皇に賛成する人が7割から9割ほど。一方、女性天皇には賛成だけど、女系には反対する層も1割から1割ちょっとぐらいはいるんじゃないかな。ただ、多くの国民は女性天皇には賛成していると言えると思います。

なぜ与党は「養子」案にこだわるのか
ーー かなり議論は割れそうですが、着地点は見出せるのでしょうか?
河西:とても難しいです。
青山:愛子さまは天皇陛下から生まれた男系女子。今までもそういう例はあったのだから、天皇になってもいいじゃないかという見方はありますが、一方で、「愛子さまが天皇になるのはいいけど、愛子さまの子どもはダメ」というのは今後は通じないのではないか。そうすると女系天皇の誕生につながってしまう、ということを(保守派の方たちは)警戒しています。
青山:野党もまとまっていないですね。中道改革連合の中には「女系でもいいじゃないか」という意見もあるし、それは行き過ぎだという考えもある。 だからとりあえずは、旧宮家の方々を養子として迎えるということならいいのではということで、自民党と維新の会の案が出てきている。まずは皇族数を確保するため、そこだけ手当てしましょう、と。
ーー一般的な感覚からすると、ご本人のお気持ちも大事なのではと思うのですが。
河西:おそらく「女性皇族に結婚後も残ってもらえるようにする」「旧宮家と呼ばれる人を養子に入れる」という制度を作っても、どうするかはご本人が判断する形を取ると思います。ただ、皇位継承については難しい。天皇や皇族は基本的人権が我々とは違うからこそ税金を使って生活してもらうという形をとっているわけで、そこは憲法の飛び地みたいなところがあるんですよね。
青山:天皇や皇族に自由を認めちゃうと、制度自体が崩壊します。職業選択の自由も参政権もない。 皇室がずっと続いてきている根本には、そういうことがあるんですよね。
河西:一方で、伝統性ばかり言っていると、日本国や日本国民統合の象徴になりえなくなります。この辺のバランスをどう取るかが難しい。
ーー議論の進め方としては、今後どういう形をとっていくのでしょう。
河西:基本的には国会で衆参両院の議長、副議長の下で会議をして意見を聞いてまとめます。ただ、与党が数の力で押し切るなんていうことをしたら、皇室制度が統合の象徴じゃなくなってしまうので、基本的には全会一致のような形を取ります。
青山:一致するのが難しいからこそ、とりあえず皇族数を確保するために旧宮家の人たちを養子として迎えるというところから始めたらどうか、というのが一つの考え方としてあるのかな、という感じがします。

「養子に」手をあげる人はいるのか
河西:いま、女性天皇については国会で議論していません。 とりあえず旧宮家と呼ばれる人たちが来てくれれば男系で保たれる。しかも、愛子さまに皇位継承権は与えないけれど皇族に残ってもらって公務をやってもらおうという、二本立てでいこうとしている。ただ、旧宮家の男系男子を皇族に迎える案はうまくいくかなぁと思っています。
ーー なぜうまくいかないと思われるのですか?
河西:養子の候補となるのは、約80年前に皇族から離れており、祖父や曽祖父が皇族だったけれど、現在はごく普通の一般人として生まれ、大学に通っているとか、会社に勤めている人たち。そうした男性たちの中で、養子縁組に「手を挙げて」と言われた時に、手を挙げる人がいるのかな、と。仮に大枠が決まったとしても、残る旧宮家から現在のどの宮家に養子を受け入れるか、議論にすごく時間がかかると思います。
青山:それよりは、愛子さまや佳子さまに残ってもらう方が圧倒的になじみやすい。ただそうすると、皇位の継承順位はどうするのかといった問題に発展してしまうので、自民と維新は旧宮家の男系男子を養子に迎えるという方に軸足を置いているということなのだと思います。 中道改革連合の小川淳也代表が「女性天皇を生きているうちに見てみたいという日本国民の一人だ」と、かなり踏み込んだ発言をして、撤回した。ただ、国民の思いはそこにあるという一般論を代表したつもりだと思う。
河西:率直な意見だと思うし、私は撤回しなくてもよかったのではないかと思うのですが、党首としては、やや不用意であったことは間違いないですね。

伝統の重みか、国民の理解か
ーー そもそも養子を迎えるというのは、歴史的に例があるのですか?
河西:皇族を天皇の養子にする例は過去にはありました。でも今回のように、一般人として生まれた人が血縁だから戻るというケースになれば、これまた史上初めてです。
ーー 保守派の方は歴史を大事にされる方が多いと思うのですが、この点はどう受け止められていますか。
河西:「男系男子が伝統なのだから、養子として迎えるのは(史上初でも)問題ない」と言われます。「女系は歴史にないからダメなのだ」と言われますが、ややポジショントークですね。
青山:伝統の重みか、国民の理解か、どちらの方が大事なのかという哲学の違いですよね。伝統がなければ天皇家ではないという考えもあるし、国民の象徴として親しみを持ってもらった方がいいという考えもある。どっちが正しいとは言えないですね。
河西:私はどちらかというと後者の立場で、女性天皇や女系天皇でもいいんじゃないかという発言をして炎上するんですけど。でも歴史的に見ると、天皇家は社会の変化に応じて形を変えてきました。昭和天皇の人間宣言や平成の天皇の退位もその一例。養子を迎えても、男の子を産まなければ同じことが起こる。男系男子にこだわるより、もう少し幅広くしておけば安定的な皇位継承ができるんじゃないかと思います。昔は側室がいて、それで男系男子を守ってきたわけですが、今はそれは無理です。 だとすると、どこかで折り合いをつけなくてはいけないのでは。
なぜ女性天皇は避けられるのか
河西:これまでの議論では、女性が皇室に残ることはなんとなく一致していても、女性皇族のパートナーやこどもはどうするのか、という問題でもめた経過があります。女性皇族の家族が皇族になることで女系天皇につながることを保守派は恐れていたんですよね。
ーー それはどういう価値観に基づいているのですか?
河西:明治的な、家父長制の名残なのだと思います。この主張をする人たちは夫婦別姓に反対している人と重なっています。ただ、「家は一体となって」と主張しつつ「妻は皇族だけど、夫は一般人で」と矛盾することを言っている。近代日本がつくった制度を守りたい、というのがどこかにあるんだと思うんですね。
青山:養子を迎えるよりは、愛子さまや佳子さまに皇室に残ってもらう方が、国民としては圧倒的に親しみやすい。ただ、そうすると、皇位継承順位の問題や女系天皇を認めるかという議論に発展する可能性が出てきます。そのため、女系天皇を避けたい与党は男系男子を養子に迎える案に軸足を置いたということだと思います。

増え続ける公務、支える皇族は足りるのか
ーー 増え続ける皇室の公務について、少ない皇族数で担うのは問題だなと思います。
河西:ここも手をつけなければいけない問題です。 公務は、憲法には本来書かれていない仕事で、憲法で定める国事行為とは別に、象徴だからやっている公的行為と呼ばれるものです。イメージしやすいのは被災地訪問。外国訪問もこれに当たります。公的行為を巡っては、かつては違憲だとする憲法学者もいました。
青山:(皇族の)外国訪問は外交という影響力が生じる、という意味ですね。
河西:そうです。例えば、1992年には平成の天皇皇后両陛下(現在の上皇ご夫妻)が初めて訪中しました。当時は天安門事件の後で中国が国際社会の中で孤立している中で、日本側がある意味、恩を売ったという側面もあります。実際はものすごく効力を持つこともある。
青山:過去には、政治が皇室を外交的に利用したとされる事例がありました。民主党・鳩山政権だった2009年、中国の習近平国家副主席(当時)との会見が急に決まった。相当もめたんですよね。
河西:皇室の公務は、内閣の助言と承認に基づき、本来は内閣がハンドルを取ります。しかし、実際は宮内庁や天皇が判断しているように思うんですね。本当は公務の位置付けをきちんと決めておいた方が良い。その時々の政権や宮内庁の判断に依存しすぎるのは、問題だと思います。
青山:国民スポーツ大会や全国植樹祭などに加えて、宮中祭祀と呼ばれる私的な行事も結構ありますよね。
河西:国民行事については国民側が要請して出席をお願いしている形ですが、やや形骸化しているものもあります。国民として皇室の公務を知ることで、訪問先や頻度など皇室の負担を考えるための議論が進むといいかなと思います。
ーー 最後にメッセージをお願いします。
河西:なんとなく「愛子天皇、いいな」みたいなことではなく、政治家が考えていることも知った上で、自分ごととして捉えてもらえるといい。一人一人がきちんと考えた上で、自分と考えが違う時には声を上げてほしい。
青山:憲法の第一条は「天皇は、日本国の象徴であり」から始まります。どのように継承されていくべきか、みんなで考えたほうがいい問題。日本の国柄にかかわるという意味でも、自分ごととして考えてもらえるといいなと思います。
(文・まりも)
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