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なぜ今、再審制度が変わろうとしているのか

  • 執筆者の写真: 笑下村塾
    笑下村塾
  • 1 日前
  • 読了時間: 5分

無実を訴えながら、58年間を過ごした人間がいる。袴田巖さんの事件は2024年10月に無罪が確定したが、問題はまだ終わっていない。再審制度の見直しを求める刑事訴訟法改正案が現在国会で審議されており、その中身をめぐって弁護士や市民団体、野党が声を上げ続けている。笑下村塾のYouTube番組「たかまつななのソーシャルアクション」では、袴田さんの姉・袴田ひで子さんと、弁護士で元検事・元衆議院議員の山尾志桜里氏を招き、制度の何が問題で、今何が変わろうとしているのかを議論した。


※この記事は、YouTubeチャンネル『たかまつななのSocial Action!』のために2026年5月25日に収録した内容を元に作成しました。



裁判のやり直しを、検察が何度でも止められる

日本の裁判には三審制がある。地裁、高裁、最高裁と段階を経て有罪が確定すれば、それが「決まり」となる。ただし、確定後に新たな無罪の証拠が出てきた場合に限り、やり直しを求める「再審請求」ができる制度がある。

しかし、再審が認められるためのハードルは高いとされている。山尾氏は「判決が決まった後に新しく『もうこれは明らかに無罪だよ』という証拠が出てこないとやり直しにならない。その再審がものすごい狭き門で」と述べ、制度の高いハードルを説明した。


さらに議論の焦点となっているのが、「検察抗告」の存在だ。裁判所が「やり直そう」と判断した場合でも、検察官はその決定に異議を申し立てることができる。袴田さんの場合、再審開始が認められた後も9年間、この抗告によって実際の裁判のやり直しが始まらなかった。山尾氏は「少なくとも9年早く、やり直しの裁判がスタートしていた」と述べた上で、こう説明した。「検察が抗告できなくても、再審になりますよね。そしたらそこで検察は有罪立証するわけですよ。ちゃんと立証できて有罪になるだけなんで、これは真犯人が有罪になるだけなんですよ。でも、抗告がずっと起こり続けると何が起きるかって言うと、袴田さんが起きるわけですよ」。


今回の改正案では、検察抗告に「十分な根拠」という要件が加えられた。しかし山尾氏はその限界を指摘する。「国会で法務大臣に『袴田さんへの抗告は十分な根拠なく行ったのか』と聞いたら、多分『十分な根拠がありました』と言うと思うんです。じゃあ変わらない、ということになってしまう」。


袴田ひで子さんも「原則禁止」と「全面禁止」の違いを明確に指摘した。「検事は抜け道を作るのがうまい。でも『できない』なら『やれないんで、ルールでそうなんです』と言える。全面禁止にしてあげた方が、検事にとってもやりやすいはずです」。



検察は「出す証拠」「出さない証拠」を選べる

再審を難しくしているもう一つの構造的な問題が、証拠の偏在だ。

山尾氏は検事時代の経験としてこう述べた。「裁判を前にすると『証拠分け』という作業をやるんです。裁判所に出す証拠と出さない証拠を分けて、出すという証拠だけを裁判所に送る。出さないという証拠は、出す証拠の何十倍も手元にある」。


つまり、弁護側は検察が持つ証拠の全体像を知ることができないまま、無罪を立証しようとしなければならない。山尾氏は「弁護士さんが真っ暗闇の中で無罪の証拠を探すより、少なくとも検察官の手元にどんな証拠があるかという一覧表、リストだけでも開示されれば、何があるかが分かる」と述べ、証拠リストの開示義務化を訴えた。


ひで子さんも「いい証拠も悪い証拠も全部出して、改めて裁判やるっていうことでしょう、再審というのは。そう理解してるんです」と述べ、全面的な証拠開示の必要性を訴えた。



「証拠を外に出したら罰せられる」という新たな規制案

今回の改正案には、再審請求の過程で開示された証拠を、裁判の目的以外に使うことを禁じ、違反した場合に刑事罰を科す規定が盛り込まれている。

山尾氏はこの規定を「今国会で一番やめてもらいたい」と明言した。「例えば弁護士さんがメディアに『あのカラー写真』(袴田事件の証拠)を出したら、もしかしたらですよ、それは1年刑務所入るみたいな刑事罰がついてくると。それはすごくブレーキをかける」と述べ、「メディアも弁護士も躊躇しますよね」と続けた。

通常の刑事裁判は公開で行われるが、再審請求の手続きは非公開だ。山尾氏は「裁判自体も非公開で、証拠も外に出せなかったら、ずっと密室での戦いで勝てない」と述べた。


この規定が設けられた理由についても山尾氏は言及した。「表の理由」として普通の裁判と同じ仕組みにするという説明があるが、「裏の理由」として「袴田さんの事件で証拠の写真が多くの人の心を動かして、警察や検察を負けに追い込んだことを反面教師にしていると思う」との見方を示した。ひで子さんも「そういうことのないように規制している。見え見えに分かっている」と述べた。



「人間が決めた法律は、変えられないわけがない」

山尾氏によれば、この問題は与野党問わず改正を求める声が上がっているにもかかわらず、なかなか前進しない背景には「司法族議員がいない」という構造的な問題があるという。「農業や医療と違って、司法の問題は政治家にとって票にならない。だから普通は役人に物を言う議員がいない」。


それでも今国会では、自民党内からも野党からも、制度を変えようとする動きが生まれつつある。山尾氏は「世の中が『これで終わりじゃダメでしょ』という空気ができるかどうかを、法務省や検察はじっと見ている」と述べ、世論の動きがこの問題の行方を左右するとの認識を示した。


ひで子さんはこう語った。「法律だ、改革できんことはない。神様が決めたことならともかく、人間が決めた法律なんか改革できんわけがない」。

袴田事件を契機とした再審制度のあり方をめぐる議論は、現在も国会での審議が続けられている。


(文・玉城)

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