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  • 執筆者の写真笑下村塾

「Twitterは最悪の空間になった。だけど…」。津田大介がTwitterに見る未来とは

対談1回目では国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」をめぐる騒動の背景を語った津田大介さん。2回目となる今回は、騒動の舞台にもなった「Twitterの功罪」をテーマに笑下村塾のたかまつななが話をお聞きしました。




Twitterは良くも悪くも日本社会を変えた




ーー私は、津田さんに“Twitterの人”というイメージがあります。以前「この10年でTwitterが日本社会を変えた」とおっしゃっていましたが、改めて”Twitterの功罪”についてお伺いしたいです。


僕が世間に知ってもらったきっかけは、Twitterの本(『Twitter社会論 - 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』(洋泉社・2009年))だったと思います。それから10年間で、世の中は本当に変わりましたよね。


ーーTwitterをとりまく今の世界観というのは、当初から予想されてたんですか?


2009年当時のもっぱらの話題は、「Twitterはキャズムを超えるのか」、ということだったんですね。Twitterは一般の人が使って社会にも影響力があるようなWebサービスになるのかという。今だったら当然、議論の余地もないわけですけれども。


僕はそうなったらいいなと思って、そうなった際の社会的に有用なポジティブな可能性というのを論じていた論者でもあります。それはある意味では達成しました。


今、Twitterが日本人の3人に1人が使う国民的メディアに成長しました。それによって起きている良いことは、例えばクラウドファンディングとかが分かりやすいですよね。昔だったらありえなかったような意志や行動力がある人が、それを示すことで達成する速度が圧倒的に上がったことは、社会の中での富の再分配という意味ですごくいいことが起きていると思うし、それによるポジティブなこともたくさんあります。


一方で、Twitterによる負の効果もあります。主に2つあります。


1つ目は、フェイクニュース、炎上などの問題によるデメリットがすごく大きくなったことです。とりわけここ4、5年ぐらいは負の側面ばかり目立つ状況にあった。10年前に書いた本『Twitter社会論』や『ウェブで政治を動かす!』ではTwitterのネガティブな可能性にも触れていたんですが、自分の予想を数倍超えてネガティブな可能性のほうが大きくなってしまったなという印象があります。


もう1つは、今「GAFA」「FANG」などと呼ばれているようなTwitterやFacebook、Googleといった巨大IT企業が、僕が思っている以上にモラルがなかったこと。これも大きな誤算でした。





炎上が生む攻撃にどう対策するか




ーーフェイクニュースなどに対するサービス側の対策が足りないと思っていたということですか?


これだけいろいろな社会の大きな問題を引き起こしている明らかに主要な原因のひとつであるのにも関わらず、基本的には自分たちのビジネスを優先するという姿勢で、まともに対策してこなかった。その結果、世界がめちゃくちゃになっているという状況がある。


ーー私は、自分の発信力を高めたらいろいろなことができると、希望的観測をずっと持っていたんですよ。津田さんなんてフォロワー150万人を超えていて、その発信力をもってすればいろいろな問題に対して世論の喚起ができると思っていました。ところが今回の「あいちトリエンナーレ」の問題では、その津田さんでさえネットに飲み込まれてしまった。そんな大変な姿を見たら、正直、恐ろしいなと思ってしまいました。


僕自身は、ここ4、5年ぐらいは炎上することが明らかに増えたなと感じていたんです。問題は炎上自体ではなくて、炎上したことによる攻撃が自分ではない周りの人に行ってしまうこと。「あいちトリエンナーレ」のような多くの人が関わるプロジェクトだと、発言力が強い人ではなく、弱い人のところに行ってしまう。今回のケースだと電凸(電話での突撃取材という意味の略語。疑問や不満のある企業・団体に対して電話をかけ、直接対応などを問うことを指す。)が公務員である仲間に行ってしまったこと。僕が攻撃されるのはいい。仲間が攻撃される方が辛いんです。


ーーそういう動きって、どうすればいいんでしょうか?


組織的な攻撃が来るという状況を想定した上で、マニュアルを最初からつくっておくことが重要だと思います。


本人に対して気に食わない人がいた時に、本人ではなく所属組織といった関係者を攻撃をする方がダメージを与えられるという方法論が、攻撃をする側に共有されてしまっているんですね。ある意味、組織化されているんです。それに対して社会的にどう向き合っていくかが大事。


僕が「あいちトリエンナーレ」で8月3日に中止した「表現の自由展・その後」を再開させるために絶対に必要だと思ったのが、電凸から職員を守るということ。内容が明らかに不当なクレームに対しては正面から対応をしなくてもいいということを法的にも確認して、9月の途中からは対応を大幅に変更しました。展示の再開後も、職員が傷ついてしまうような内容の大量の電話も乗り切れるようになり、かなりノウハウ化されました。これは今後、他の行政にも共有をしていこうと思っています。


ーーもしかしたら、「あいちトリエンナーレ」の件も事前に対策できたかもしれなかったということでしょうか。


そうですね。ただ、僕もここまで大きなものになるということは予想しにくかった。「あいちトリエンナーレ」の場合は、真面目に対応をしすぎたことが、傷を深めた側面があります。抗議の電話に対して何の準備もしていなかったのかとよく言われるんですが、逆なんです。準備をしすぎたんです。

抗議の電話にきちんと対応するために回線を増強し、クレーム電話にも慣れているベテランの職員を配置し、Q&Aも用意していたんです。ところがいざ始まってみると、回線を増強したことが仇となり、あふれてしまった。多くの電話を受けることができる環境にあった上に、他の部署にもきた電話が回され、結果的に若い職員が電話を受けざるを得ない状況にもなった。


そういう意味での初期対応はまずかったですね。これもやってみなければ分からないことだったので、今後に活かしていくしかないと思っています。





Twitterには苦しめられたが、救われもした



ーーTwitterの現状をふまえて、津田さんが今後やっていきたいことは?


Twitterはろくでもない空間になってしまった。でも、そうでない側面にも光を当てていくのが僕の仕事のひとつだと思っています。


Twitterは告知をするツールとしてこれ以上のものはないですし、替えがきかないもの。苦しめられたけれども、支えられもしていたんですよ。


「あいちトリエンナーレ」について、マスコミは「表現の不自由展・その後」の話しかしてくれないわけです。それ以外にもいい企画はたくさんあるにもかかわらず。一方でTwitterでは、注目度の低い作家から高い作家まですべての作品についての感想や写真がツイートされていて、お客さんたちが楽しんでいる様子が伝わってきました。報道内容に関係なく、実際に自分の目で見た人の満足度が非常に高いということが分かったんです。


それは、芸術祭に行った人の本音だと思うし、実際、会場を歩いているときに罵倒されたりしたことは1度もなかったんです。それどころか、応援しています、頑張ってくださいと、声をかけられたりもしました。





文化庁の不交付問題を撤回させるためには、なんでもやる



ーー芸術祭の監督を務めたように、今後もアートとジャーナリズムを繋ぐような役割をされる?

これだけの大騒動を起こして、依頼してくる行政があったらすごいなと思いますけどね。絶対頼まないでしょ。でもアーティストと話すのは楽しいので、今回お世話になったアーティストたちへのサポートは続けたいなと思っています。


あと実は、ある公的な施設で夏に行われる展覧会を手伝ってほしいとお話をいただいています。打ち合わせに行ったら、「むしろあれを見て頼んだんだ」と言ってくれて。アートから離れてしまうかなと思っていましたから、捨てる神あれば拾う神ありのような心境です。


これからは本業である、取材をして原稿を書くジャーナリストに戻ります。ただ、トリエンナーレの後始末はつけなければいけない。文化庁の不交付問題は、撤回させるためにすべてのことをやろうと思っています。政治的にも動くし、取材もするし、なんでもやります。


ーーこの問題はこのまま暗闇に葬るわけにはいかないことだと、私も思います。


ここまでやるのが、自分に残された最後の尻拭い。あとは、「あいちトリエンナーレ」自体に迷惑をかけたので、2022年に予定されている次回につなぐためのお手伝いもしなきゃいけないと思っています。





編集後記


以前は社会で起きていることに対しての視点を、マスコミから発信される情報に頼るしかありませんでしたが、Twitterによって自ら情報を発信し、多くの人々の視点を得ることができるようになりました。そこには救いもありますが、悪意もあります。今後、Twitterがどのような場になっていくかは、私たちがそれを理解し、いかに対策していくかにかかっているかもしれません。



―vol.3では、津田さんが感じるテレビの未来などをテーマに話をお聞きします。


第一回対談

第二回対談

第三回対談


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