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教育系YouTuberのヨビノリたくみが考える「理系という学問の必要性とは?」

登録者数35万人を誇る教育系YouTuberのヨビノリたくみさん。「ヨビノリ」とは「予備校のノリで学ぶ」の略語で、その名の通り、たくみさんは予備校講師さながらに、数学や物理など理系科目をわかりやすく解説してくれます。

YouTuberというまだまだ“異端”と思われる仕事をしていますが、東京大学大学院に通って研究者としてのエリート街道を歩むも、突然中退。

今回、「なぜ大学院を中退したのか?」といったこれまでの経緯に加えて、「ぶっちゃけ理系って勉強してなんか意味あるの?」と攻めたことまで伺いました。

プロフィール ヨビノリたくみ 日本のYouTuber。YouTubeチャンネル『予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」』の講師で、主に大学の数学や物理の解説動画を配信中。

たかまつなな お笑いジャーナリストとして、お笑いを通して社会問題を発信している。取材をし、その内容を寄席で社会風刺ネタと して届ける 。18歳選権導入を機に、株式会社 笑下村塾を設立し、全国の学校で出張授業「笑える!政治教育ショー」を実施。


研究者になれなかった時の保険としてYouTubeを始めた

ーーYouTuberになったきっかけはなんだったのですか? ヨビ:もともと大学院に通っていたころ予備校講師をしていました。ただ、博士過程に進むタイミングで“学術振興会特別研究員”という研究者になりたい人の王道ルートみたいなポジションに採用されたのですが、そこは「副業禁止」だったんですよね。なので、予備校講師を辞めたのですが、「結構楽しかったな」という思いが浮かんできたのと同時に、「博士課程を出ても研究者になれるとは限らないな」という不安も出てきました。

それで、保険として「大学の先生や研究者になれなかった時のために、YouTubeで予備校講師のようなものをやっておこうかな」と思ったのが最初ですね。それから動画投稿を始めて、割と早い段階で認知されるようになって、大学院を中退してそっちに専念しました。

ーーなかなかそんな決断できないですね。早々に稼げるようになったんですね。

ヨビ:辞めたタイミングでは全然稼げていませんでした。

ーーそれではなぜ辞めたんですか? ヨビ:学術振興会特別研究員は生活費として月に20万円貰えるのですが、そこから税金や学費を払うことを考えたら、月収20万円ってそんなに高くないですよね?当時は「20万円も貰えた!」と喜んでいたのですが、次第に「この感覚ではマズイ」と思うようになりました。 ただ、いい意味でお金に対するハードルが下げられたので、「YouTubeをやりながら最低限の生活を送っても良いかな」という気持ちに早々に切り替わって、大学院を中退する時も意外と悩まなかったですね。



大学の授業がつまらなかったのが最初のキッカケ



ーー動画を投稿しようと思った最初のキッカケなんですか? ヨビ:言い方が悪いですけど、大学に入った時、授業がめちゃくちゃつまらなかったんですよ。そこで「塾や予備校でやっているクオリティの授業を、専門教育に持ってきたらどうなるんだろう」という気持ちを常にもっていたのですが、自分が博士課程に進むタイミングでもそういったものはまだ世の中になかったので「それなら自分でやろう」と思い立ち、その2日後に動画をアップしました。

ーー確かに大学受験に向けた動画はたくさんありますが、大学の授業で置いていかれると取り戻す方法は少ないですよね。そういったことがあったから専門性に特化したんですね。 ヨビ:そうですね。初めて動画をアップしたタイミングが7月だったんですけど、大学生の7月って夏休み前のテスト期間なんですよ。一番大変なタイミングだけど、「このタイミングでテスト対策の動画をアップしたらどうなるんだろう」と思いました。理系の大学の1年生なら必ず通るであろう授業のテスト対策を中心にアップしたら、最初からグワーって再生数が上がって、1万再生を超えた時はとても驚いたことを覚えています。

ーーヨビノリさんの動画は大学生だけではなく、社会人の視聴者も多いそうですね。

ヨビ:最初は「大学生が見てくれればいいかな」、「優秀な高校生が先取りで勉強できたら面白いかな」と思っていたんですが、いざ始めてみると半数近くが大学を卒業した人だったんです。それで「実際にどんな目的で見ているか?」を考察すると、「社会に出ても統計学やAI技術を学ぶ必要があるから、数学を理解しなければいけない」とか、「在学中は意味が分からなくてモヤモヤしていたけど、今になって『あれはなんだったの?』って知りたくなった」という人がたくさんいました。





留学やボランティアより大学の勉強にフルコミットすべし



ーーたくみ先生は「大学生はもっと勉強しなきゃいけない!」みたいなことを発信しているイメージなんですけど。 ヨビ:そんなことはありません。高校までは「科学が楽しい!」「物理が楽しい!」と思って大学に進学したのに、授業がつまらないせいで「意味分かんねーわ」「どうせ社会に出ても役に立たないし」という気持ちになる大学生を減らしたいだけです。

ーーそもそも大学に行く必要って何だと思いますか? ヨビ:もし高校生に「大学は行く必要ありますか?」と聞かれたら、「行きたいなら行けばいい」と答えますね。例えば、理系学部に行ったら就職する時、実際はそんなことなくても“理系に詳しい人”と認識してもらえるじゃないですか。

ーー現役の大学生は在学中、どのように活動をすべきですか? ヨビ:「4年間のうちに社会に出ても通用する個性を身につけろ」とよく言われますが、その個性を身に付ける場として、ボランティアと留学が挙げられますよね。ただ、そんなことしなくても、自分がいる学部の勉強をすれば簡単に個性は身に付きます。自分は“物理ができる”という個性を持っていますが、この個性のおかげで今の仕事できているので。 ーーなんとも皮肉な話ですね。 ヨビ:学生にとって勉強ってめちゃくちゃコスパが良いんですよ。図書館もあるし、質問したら答えてくれる先生がいるし、環境面が本当に整っています。だから、大学生のオススメの過ごし方は、学部や学科の勉強をすることですね。



学び方の選択肢が増えると勉強嫌いの子供は減る


ーー現在、教師の長時間労働が問題視されていますが、多忙ゆえに授業準備に時間を割くことができていない状況です。そのため、授業は動画などのデジタルコンテンツが担い、ファシリテーター(補佐役)として教師がケアしていく形に変化していくのではないかと考えています。 ヨビ:そうなると思います。「自分は授業をやりたい」という教師は授業をやる側に回るケースもあるかと思いますが、授業を補佐する教師も出てくるかもしれません。

ーーただ、デジタルコンテンツと学校教育がどのようにコラボレーションしていくのかは、非常に難しいように思います。 ヨビ:そうですね。「このテーマには同派や参考書などの様々な教材があるので、この中から好きなものを選んでやってみてください」とやっても良いのですが、各校には教材のメーカーとの契約があるので難しいですね。

ーー私が実際に取材した学校では、「あなたのレベルはこれくらいだから、この教材をやってみましょう」といった感じで、自由に教材を選んでいる学校は結構ありましたよ。 ヨビ:それはすばらしい取り組みですね。学習に対するアプローチが増えることは子供にとって非常にプラスになると思います。例えば、「数学が嫌い」と言っている子供のほとんどは、数学が嫌いなんじゃなくて数学の先生が嫌いなんですね。 「野菜嫌いの子供は一流シェフが調理した野菜なら食べられるのか?」みたいな番組がありますけど、本当に作る人によって反応が違うんですよね。これは食べ物に限らず勉強でも同じなので、学び方の選択肢が増えることによって、勉強嫌いな子供を減らすことができるはずです。

ーーただ、“選択肢の多さ”と“富の多さ”は比例する可能性があるので、今以上の教育格差、ひいては経済格差をにつながりかねません。金持ちの方がたくさん塾に通えたりしますし。

ヨビ:経済格差は今よりも生まれないです。現在、誰でも無料でクオリティの高い教育に触れることができるじゃないですか。本だって、無料とまでは言わないですけど、実質無料みたいな額で本を読めるようになっていますよね。 この流れが教育関連の動画で起きても不思議ではない。入り口を無料にしてファンを付けて、課金してもらうスタイルもあれば、動画内に広告を貼りつけるスタイルでにいい。「富のある人だけがコンテンツを独占できる」ということにはならないでしょう。



情報に惑わされないために理系の勉強は必要


ーー私は文系なので理系の学問に対して苦手意識がとても強いのです。そもそも“理系の勉強の価値”をどのように捉えていますか? ヨビ:生活には困ることはあまりないので、「理系の学問はやらなくていい」と思っています。ただ、個人的に「やって良かった」と思っている点を挙げるなら、“論理的に考える練習”をめちゃくちゃできたところですね。今、ネット上のフェイクニュースに惑わされている人は多いですが、そういった記事をじっくり読むと、一瞬で矛盾に気づくことができます。自分がよく授業の中で言っているのが、「数学や物理を勉強する理由は、直観に反してる物事を論理的に受け入れる練習をするためだ」と言っています。

ーーただ、世の中には数字アレルギーの人は多いです。そういう人に「理系の勉強をしないとなんで困るの?」と聞かれたら、どのように答えます? ヨビ:自分はよく、「グラフが見れないと困りますよね?」という話しを例に出します。「横から見たら数字が変わってないじゃん」みたいなうさんくさい棒グラフが、世間には結構あるじゃないですか?「そういったグラフを見ても違和感に気づけないって怖くないですか?」ということを伝えます。特に統計のデータって嘘をつきやすい。元のデータが同じでも、まとめる側によって大きく見せ方を変えることができるので。

ーーダイエットだとよくありますよね。脂肪が何%下がりましたとか。 ヨビ:そうですね。「20kg痩せました」と言っても、「元々何キロだったの?」と思います。ダイエットって「どれだけ体重が落ちたのか?」ではなく、割合が大切になるじゃないですか。「120キロの人が100キロになりました」と「40キロの人が20キロになりました」では同じ20キロの減少でも話が全然違う。こういった違和感に気づくために理系の勉強は非常に役に立つので、決して無駄にはならないと思います。



最後に

これからの時代の学びのあり方は大きく変わることが予測されます。教育格差が教育YouTuberが出現したことによってなくなる可能性があるというのは、とても素敵な未来だと思いました。  フェイクニュースが溢れ、情報戦になる中で、「ロジカルシンキング」や「クリティカルシンキング」など、物事を感情ではなく論理的に捉える考え方がビジネスパーソンに求められています。理系に対する苦手意識はまだ残りますが、そういったスキルを獲得するために、たくみさんの動画を見て勉強しようかな、という気持ちになりました。





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