安野貴博さん:AIエンジニア、起業家、SF作家の肩書きを持ち、今回、東京都知事選に無所属で立候補。
政治システムをアップデートしたい
ー今日はよろしくお願いします。本当にいろいろな分野をされていてすごいです。
安野さん:いろいろやってきたんですけど、テクノロジーを通じて未来はこういうふうになるといいなということを考えるという一貫した軸はありますね。
ー未来に対して、社会を良くしたいとか、特にこういうのを変えたいみたいなものはあるんですか?
安野さん:テクノロジーっていい方向にも使えて悪い方向にも使えるので、なるべくいい方向にテクノロジーをどんどん使っていきたいなということは思っていますね。
ー今回、また政治というのはぜんぜん違うように感じられるところもあるんですけども、どうして政治に着目されたんですか?
安野さん:世の中で一番大きなシステムである政治システムをアップデートしたいと思っていて。
今は広い世代でのスマートフォンの普及や、AIの台頭など、ツールがどんどん揃ってきたということも要因の一つです。
あとは、僕が被選挙権を得られたということもあります。
ー今回は小池さんや蓮舫さんなど、対抗馬もすごく強い中で、なかなかここで勝負をというのは難しいとは思わなかったんですか?
安野さん:結構厳しい戦いになるというのはもちろん認識しています。でもその中でも世の中に良いインパクトを残せることがあると思っています。
私は、選挙期間中にデジタル民主主義的な考え方を通じて、オープンソースで政策というのを磨き込んでいこうと思っているんですよ。
そのために今ボランティアチームと一緒に開発を進めていて、選挙が終わったらそのシステム自体を誰でも使えるように公開しようと思っているんです。
これによって良い政策ができるということを実証し、その仕組みもオープンになったら、選挙のやり方ってめっちゃ変えられると思うんですね。
ー変わりそうですね。
安野さん:というのは、少なくとも僕が当選しなかったとしても、世の中に残せる価値としてあるなと思っているので。これはもう全力でやるべきだと思っていますね。
AIを活用した選挙活動
ーちなみにAIを使った今回選挙戦もすごい考えられているというふうに拝見したんですけども、どういうことを考えられているんですか?
安野さん:AIという意味で言うと大きく2つあります。1つ目はブロードリスニングと呼ばれる分野で、世の中でどういう意見があるのかをどんどん可視化していきたいなと思っています。
2つ目は、AIの僕を作ろうと思っています。自分の作った政策のマニフェストをAIに学習させて、どなたでも質問を投げられるようにしようと思っているんですよ。
具体的にはYouTubeライブ上で僕のAIアバターがあって、コメントを付けるとその質問にAIが答えてくれるという仕組みを考えています。
ーすごい!全然イメージが湧かないです。
安野さん:これは私が出馬表明したネットの反響をいろいろなつぶやきとかコメントを拾ってきて、AIに可視化させたものです。
使ったコードは全部公開をしているので、変な操作をしないということも明示できますし、似たようなことをやりたい方がいれば使うこともできます。
ーこれは結局プラスの意見が多かったんですか?
安野さん:プラスもマイナスもありましたね。こういうのを見ながら、自分に足りていないところはどうやって補うかというのを考えたりとか、そういうことに使っていますね。
ネガティブなコメントってないんですかというところで言うと、最近のAIは暴言かどうかとかそういうこともチェックできるようになっているので、まずヘイトスピーチと暴言はフィルターした状態で、そのあとに建設的な意見だけを解析対象にしていたりするんですよね。
安野さん:これがYouTubeライブの画面になっていまして。これが私のアバターになっていると。
ーどのくらいのレスでできるんですか? コメントに対して。
安野さん:これは3、4秒ぐらいですかね。
経済政策について教えてくださいと聞くと、私が用意しているスライドがあるんですけど。そこを使いながら説明してくれるようになっています。
テクノロジーを使って誰も取り残さない東京にアップデート
ーちなみに、東京都知事選に出るということは、東京都をこうしたいとか、そういうビジョンについてもお伺いしたいんですけど、そこはどういうふうにお考えですか?
安野さん:テクノロジーを使って、誰も取り残さない東京にアップデートしたいと思っています。
テクノロジーってすごい取り残されるんじゃないかって思われる方も結構いらっしゃると思うんですけど、テクノロジーの性質をよく見てみると、ちゃんとハンディキャップがある方とか、社会的な弱者の方をうまくサポートする、エンパワーするようなことってすごくたくさん起きてきたと思っているんですよ。
例えばメガネとかも視力が悪い人でも普通に見えるようにしたりとか、電卓とかも計算がちょっと遅い方でも普通に仕事ができるようにしたりとか。車椅子を使えば移動がある程度できるようになるというところで。
今の出てきているChatGPTとか自動運転みたいな新しい技術も、よくよく見てみると割とITリテラシーが低い人でもベネフィットがあって、助けられる技術だと思っているので、それをうまい方向に使っていきたいというのが大きな考え方です。
ー安野さん自体の思想というのはどういうところにあるんですか?
安野:いわゆる右なのか左なのかみたいな話があると思うんですけど、どっちなのか正直僕もよく分かっていないんですよね。
でも格差をどれくらい許容するかという政治思想についてお話すると、経済成長に伴い格差が生まれるのは一定あると思っているんですが、ボトムの人たちが今より悪くなってしまうというのは、これはあまり許容すべきではないと思っています。
テクノロジー企業であるGAFAがすごい力を持っているという話はありつつ、それによって世の中全体が良くなっているという側面もまた事実としてあると思っているので、それをいかに利用してボトム層を上げていけるのかということは結構、しっかり考えたほうがいいと思っています。
ーLGBTQ+の問題とか、選択的夫婦別姓とか、そういうジェンダーとかマイノリティーのところはどういうふうにお考えですか?
安野さん:僕は選択的夫婦別姓は認めたほうがいいかなと思っています。
お聞きしていただいた同性パートナーシップというところも、私は認めたほうがいいと思っています。誰もが自分らしく生きていける社会のほうが僕はいい社会だなというふうに思っているので。
最終的な決断は行い責任を持つ
ーテクノロジーを使う上で、寄せられる意見の偏りやバイアス、自分の思想との相異についてはどういうふうに考えていますか。
安野さん:まさにすごい重要なポイントだと思っていまして。今回オープンソースで政策議論をできるようにしようとしているのですが、責任意識も含めて、最後は自分が決めるというふうにしているんです。
様々な意見が出た上で、今は人間の代表者がバランスを取るというのが一番いいと思いますね。
これが電子的にテクノロジーでサポートできる領域が徐々に広がっていくだろうなとは思っているんですけど。
ー安野さんの考えや活動、本当にすごいなと思っているのですが、あえて意地悪な質問をさせてください。選挙というものすごく東京都知事選で注目度が高い中で、あえて安野さんとアンチの対立候補の人たちが極端な考えの変更提案をしたりとか、政治的な文脈以外で例えば外交的なものとしても扱われるリスクとかについてはどうお考えですか?
安野さん:狙われる可能性は全然あると思います。ただ、この試みをこの規模でやられたことがまだないので、それ自体が貴重なデータになるかなと思ってはいます。
おっしゃられたとおり、まず間違いなく極端な考えであるとか、ある種の荒らしであるとか、自分の利益を考えた提案というのはいろいろ来ると思います。
2つ重要かなと思っていることのうちの一つは、大量に来すぎて人間がさばけない状態になってしまうことを防ぐために、荒らしとかヘイトスピーチとかそういうものはフィルターを機械的にかける、そういうモデレーションがありうるかなと思っています。
その上でもう一つ重要なのが、最終的に責任を持つ人がこう考えたからこれは取り込む、こう考えたから取り込まないみたいなことを表明できるようにしておいて、議論が透明になることだと思っています。
システムに触れない方も取り残さない
ー私は若者の政治参加を促すために学校にわざわざ足を運んで出張授業を行なっているのですが、テクノロジーの力とかYouTubeを使ったらもっと効率がいいんじゃないかという思いもあります。安野さんは、テクノロジーだけじゃなくて、そういう啓発みたいなことについてはどうお考えですか。
安野さん:どれだけテクノロジーを使ってこういう変更提案ができるようにするよと言っても、そのシステムに触れない人とかもたくさんいらっしゃると思うので、啓発は必要だと思います。そういう方をどう取り残さないようにすべきかということを考えるのが大事なポイントだと思っています。
具体的に言うと、これはまだ開発中で期間内にできあがるかどうかまだ全然分からないんですけど、電話番号を1個用意して、YouTubeだけじゃなくて、電話して僕のアバターとしゃべれるようになれば、これって高齢者の方も結構使いやすいデバイスじゃないですか。
あと変更提案をオープンソースのシステム上でできるよみたいなこともできない方はいらっしゃると思うので、タウンミーティングみたいな形で、エンジニアの人と実際の当事者の方がリアルでセッションをしてその場で出てきたアイデアとかをうまく変更提案の形に落とし込んでいくという方法もあると思っています。
ー私たちの活動はどう思いますか? 私は若者が社会参加のための行動を踏み出すために、出張授業やリバースメンターをしています。リバースメンターとは高校生が政策提言して、実際にいいと思われたものを予算化して群馬県内でやるというようなもので、若者の意見が政治に反映されるというようなことを見て、ほかの高校生たちがじゃあ私も社会を変えるために何かできるから行動してみようというふうに思ってもらうというようなことをやっているんですけども。
安野さん:私はそれはめちゃくちゃいい話だと聞いていて思いましたね。やっぱりシルバー民主主義みたいな問題を抱えている中で、政治参加において投票しか若者は投票だけというと、なかなか何かが変わるという期待感を持ちにくいと思うんです。リバースメンターやオープンソースみたいな仕組みは、いろいろなパスを用意するというところですごくいい取り組みだと思います。
都知事は変化を起こすのに最適なポジション
ー若者の声を届けるのはすごい難しいと思うんですけど、実際に一番若い候補者になるんですかね?
安野さん:一番若い層ではあると思いますね。
ー若い人の期待というのもあると思うんですけども、若者政策についてはどういうことをやっていきたいというふうにお考えなんですか?
安野さん:小池さんもやられていたような子育て政策みたいなところはすごく重要なポイントだと思っています。あとは現役世代が働きながらしっかりと高い所得を得られるように経済を活性化させていくというのもまた重要だと思っています。
ー私、台湾に今年の選挙で取材した際に、v台湾という5000いいねが付いたら政策として政府がしっかり考えなきゃいけないというものを使って実際に政策を実現したという、当時高校生だった女の子に会いに行ったんです。その子は、夜市に行った時タピオカのストローがたくさん捨てられていて問題じゃないかと思って、プラスチックストローを規制するというのを提案したんです。そしたらそれが通って、プラスチックストローを規制しようというものができたと。
安野さん:ルールになっているんですね。
ー私は彼女を取材してすごくびっくりしたのは、社会を変えようという強い意気込みとか、それを背負っているという感じではなかったんです。
安野さん:カジュアルな感じで。
ーそうなんです、めちゃくちゃカジュアルなんです。日本の若者で社会運動をしている子たちって、すごいプライベートも犠牲にして活動して、ようやくちょっとずつ動くみたいな、そういうシーンがすごく多いので。
日本でv台湾みたいなこととか安野さんのやっていることって必要だと思うんですけど、それを決断してくれるトップ層が全然いないなと思うんですよね。だからこそ挑戦されたのかもしれないですけど。
安野さん:まさにそれはそうですね。都知事というのは国会議員とか都議会議員とは違って、党派で動かなくても、トップダウンの意思決定をできうる権限を一定持っている役職なので、こういう変化を起こしていく上ではすごい良いポジションだなというふうに思っています。
テクノロジーで広い世代が暮らしやすい社会に
ーちなみにテクノロジーを使ってなんとなく社会は変わりそうだなと思っている人はいっぱいいると思うんですけど、具体的にあなたの生活のここがこういうふうに良くなりますよというのをいくつか挙げられたりします?
安野さん:いろいろあるとは思うんですけど、例えば自動運転。規制緩和をして自動運転というのを、交通の便が悪く困っている人たちが多い地域に投資をして入れていくことで、日々の生活というのはより良くなると思ったりしますね。
ほかの例で言うと、例えば東京都って急患を診るときに、大学病院とかごとにリソース配分をしていて。実はここでは、めちゃくちゃ医者が余っていて患者の取り合いになっている地域もあれば、ちょっと足りなくなっている地域もあって。
こういうのをデジタルの力で今どこにどれだけ急患がいて、どれだけ医者のリソースが空いているのかというのを都に限らず可視化することで、より医療資源のリソースというのを最適配置できるようになるわけですよね。
ーちなみに特に若者にとってここは変わるというところはあります?
安野さん:若者で言うと、今、東京で妊娠・出産すると、7回ぐらいリアルに市役所に行かないといけないらしいんですよね。これって別に情報をやりとりしているだけなので、別にスマホと本人認証ができる、例えばマイナンバーカードを組み合わせれば全部オンラインで完結するんです。
民間のサービスって別にもうオンラインが普通じゃないですか。でも行政はすごく遅れてはいると思うんですね。いろいろな理由があるとは思うんですけど。そこをちゃんとデジタル化していって、ユーザビリティを上げていくみたいなことは、特に我々世代とかはすごくありがたいなと。
ーすぐやってほしいですね。
政治力は自分にとってのチャレンジ
ー今のお話を聞いて全てすぐに実現できたらワクワクするなと思ったんですけど、政治力の部分はどういうふうにお考えですか?
安野さん:政治力は自分にとってはすごいチャレンジになると思っています。
ただ一方で、自分である程度裁量があるという首長はちょっと違うかなというところは感じています。
あと自分がある意味、全く政治的なところから遠いところから来ているというところで、あまり既存のしがらみみたいなのはない中で意思決定できる立ち位置にいるのかなとか思います。
ーちなみに8年間の小池都政はどういうふうに評価されていますか?
安野さん:小池都政で言うと私がまずすごいいいなと思っているポイントは、小池さんが力を入れている注力分野、特に子育てとスタートアップというところ。この2つは私もまさにこの2つ、めっちゃ大事だと思っているのでいいなと思っています。
一方で、ここは課題だなと思っているところで言うと、結果がどこまで出ているのかという意味で言うとちょっと怪しいなと思っています。
現状を打破するためにはどういう政策を打っていくべきなのかというところは、すごく考えていかないといけないと思います。
デジタル民主主義で政治に興味を持ってほしい
ーオードリー・タンさんとはどういうことをお話しして、どういう期待をされているんですか?
安野さん:ある種のデモンストレーションとしてデジタル民主主義の理解を深めたいということをご相談したら、それはすごい面白いねと言っていただいて。
めちゃくちゃプラクティカルなアドバイスもいただきました。
ー最後に見ている視聴者の方にぜひメッセージを。
安野さん:デジタル民主主義であるとか、こういうツールを使うことって、あくまで手段に過ぎないとは思っていて。本質的に実現したいことというのは、声を届ける手段がいくつもあることで興味を持ってもらうきっかけにしてもらうことです。
全然失敗するかもしれないし、大炎上するかもしれないんですけど、いろいろな実験に興味を持っていただけると嬉しいです。
そこから自分もこれをやってみよう。ちょっとでも参加してみようと思っていただけるとすごく嬉しいなと思います。
ーそれを機にぜひ政治参加、一つの方法としてやってみてもらえると私も嬉しいなと思います。
本当にデジタル民主主義、日本で進める第一歩になると思うので、期待しています。楽しみです。
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