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  • 執筆者の写真笑下村塾

選挙で若者の投票率が上がらないのは「政治に関心がないのではなく、社会の変え方がわからないだけ」。主権者教育で何が変わる?

今年は4年に1度の統一地方選挙の年。都道府県の知事と議員、市区町村の首長と議員の4つの選挙が、まとめて4月に行われます。投票日を全国的に統一することで、選挙への関心を高めることが狙いです。前回2019年の道府県議会議員選挙の平均投票率は44.02%で過去最低(​令和4年3月 総務省 選挙部​)。統一地方選を前に、全国の小中高校への出張授業やYouTubeでの動画配信などで主権者教育を専門に行っている笑下村塾のたかまつななに話を聞いた。


若者の投票率の低さ、政治への無関心が背景に


ーー統一地方選挙で問題になっているのはどのようなことなのでしょうか。


投票率の低さと、立候補者が少ないために無投票(※)になってしまうことです。


※選挙での投票なしで立候補者が当選してしまうこと



実際に前回(2019年)の統一地方選挙では、1人しか候補者がいなかったところが、市長選で31%、町村長選で45%ありました。かなり大きい数字ですよね。


また、若者世代の投票率が特に下がっているのも問題です。明るい選挙推進協会による年代別投票率の調査によると、20代が36.5%と、最も低い世代になっています(他の年代は、18・19歳55.0%、30歳代52.1%、40歳代53.8%、50歳代59.6%、60歳代70.4%、70歳代79.5%、80歳73.6%)(「第19回 統一地方選挙全国意識調査」公益財団法人 明るい選挙推進協会 令和元年12月)。



ーーなぜ若者の投票率が低いんですか?


選挙、ひいては政治への関心が低いためです。同調査によると、投票の棄権理由として最も多いのは「選挙にあまり関心がなかったから」( 37.9%)、次いで「政党の政策や候補者の人物像など、違いがよくわからなかったから」( 25.8%)という結果が出ています。


争点が分かりにくいこと、地方政治に対して身近に感じられていないことなどが原因なのかなと思います。





主権者教育、「選挙に行かないと損する」がカギ


ーーどうすれば、若者の投票率を上げられるのでしょうか。


主権者教育(※)の質を高め、政治を身近に感じられるようにしていくことだと、私は思います。


※主権者教育:国や社会の問題を自分ごととして捉え、考え、判断し、行動していけるようにするための教育


主権者教育は、「投票教育(投票をさせるための教育)」と勘違いされることが多いのですが、そうではありません。主権者教育で大事なのは、「投票させること」ではなく「政治・社会に参画し、社会を変えること」。投票は、その1つの手段にすぎません。


教育のなかで、選挙が社会を変える方法の一つだということをしっかりと伝えていかなければなりません。


私は、7年前から全国の小・中・高校・大学で出張授業を行い、約7万人の子ども達に主権者教育について話をしてきたのですが、最近、印象的なできごとがありました。昨年、選挙管理委員会と一緒に群馬県の高校で1万人の生徒たちに授業を行ったのですが、授業後に同県の18歳の投票率が約8%上昇したのです。実際に、主権者教育で効果は出るのだと再認識した出来事でした。



ーー選挙の大切さを、若者にどのように伝えるのでしょうか。


経験上、ただ「自分たちの未来を自分たちで決めていこう」などと言っても、あまり響かないんですね。だから、「選挙に行かないと損する」という言い方をします。


私たちは、お笑い芸人のみなさんと一緒に授業をする時、彼らに高齢者向けのネタと、若者向けのネタの2種類のネタをやってもらうんです。そうすると、ウケかたがまったく違う。芸人さん達は、観客にあわせてウケるネタ選びをしているわけで、子ども達は身を以てそれを実感するんですね。



それは政治でも同じことが言えます。政治家は、票を入れてくれる人にあわせて政策を打ち出す(ネタ選びをする)わけで、投票率が低い世代のことは考慮されなくなってしまう。実際、日本は若者向けの予算である教育費にわりあてる国のお金が、先進国のなかでもかなり少ないのです。コロナ禍では、若者の失業率や自殺率が上がったことが話題になりましたが、そこへの対策もなかなか進みませんでした。


若者の投票率が1%下がると、その世代の1人当たり年間7万8000円の損をしてしまうという、東北大学の吉田浩教授(加齢経済学)の研究もあります。





子どものころから「社会は変えられる」成功体験を

ーー主権者教育で大事なことは?


子ども達に「社会は変えられる」のだと伝え、その変え方を知ってもらうことです。日本財団の調査によると、日本では「社会を変えられる」と思っている17歳から19歳の若者は26.9%しかおらず、これは先進国の中でもすごく低い数字なんです。


「社会はどうせ変えられない」と諦めているから、「選挙に行かなくてもいいや」となる。実際に”社会を変えた”という小さい経験をすることで、自信に繋げていくことが大事だと思います。


ーーその「社会を変える」成功経験とは、どのようなものなのでしょうか。他の先進国ではどのような教育を?


私はいま、イギリスとの二拠点生活をしながらヨーロッパ諸国の主権者教育について取材をしているのですが、日本との大きな違いを感じています。


子ども達に「なぜ選挙に行くんですか」と街頭インタビューしたときも、「手軽に社会を変えられる手段だから」と答える子がとても多い。その背景には、大人達が子ども達を信頼し、学校などでも、大切な意思決定の場に子ども達がいるというところが大きいと思います。


例えば、ドイツのベルリンには「学校会議」というものがあり、学校の時間割や、校長先生の選任までもを決めるような、学校にまつわる物事を決める最終的な会議の場に、子ども達の代表も出席しているんです。


イギリスでも「The house system(ハウスシステム)」というものがあります。映画「ハリー・ポッター」に出てくる、スリザリン、グリフィンドールというようなクラス分けです。ハウスごとのグループの代表者(学級委員長)が、メンバーに「学校をどうしていきたいのか」と個人面談をし、「制服を変えたい」「校則を変えたい」といった要望を持ち寄り、会議で話し合います。実現のために投票で決めるところもあります。

フランスにも「学校管理評議会」という似たような仕組みがあります。




政治に関心がないのではなく、社会を変える方法がわからないだけ

ーー日本の主権者教育の課題は?


2022年4月から、主権者教育を推進するため「公共」の授業が高校で必修化されました。主

権者教育の実施率は96%ですが、現実の社会情勢と照らし合わせてどのように生かしていくか等の具体的なところまで踏み込んで取り組んでいるのは3割ほどです。


主権者教育には「政治的中立性」が求められるのですが、その定義や線引きが曖昧で、先生達がどう教育をしたらいいかわからない状態になっている、というのが問題です。


スウェーデンの教科書では、小学校高学年のものからすでに、政党は何があるか、各党がどのような主張をし、どこがリベラルでどこが保守なのかのマッピングがされていたりします。



また、スウェーデンでは、クラスの子ども達のほぼ全員が、地元の政治家に会ったことがあると答えます。政治家や政党に所属してる人に対して、身近に感じることができているんです。


選挙の時期になると、駅前などに「選挙小屋」というブースができて、そこでバナナやコーヒーをふるまいながら、政治家や政党のスタッフが有権者と会話を楽しむ機会があります。子ども達もそこに足を運びます。「課題で来た」「学校で模擬選挙があるから、どこに投票するか考えるために来た」、なかには「8年後の選挙のために来た」と答える子もいるんですよ。




ーー日本の子ども達は、そもそも社会を変える必要性を感じているんでしょうか?


先ほどもお話したように、「社会を変えられる」と思っている若者は3割もいないという調査がありますが、私たちが出張授業で子ども達が社会を変えた事例をお話しすると、ガラッと意識が変わるのを感じます。変えたいことがないのではなく、変え方がわからないだけ。


例えば、英検の受験料が値上がりしたときに、高校生が署名を集めて値下げにつなげた事例や、いわゆるブラック校則で、理由なく髪の黒染め指導をされて精神的苦痛を受けた高校生が裁判を起こして世界中から注目された事例などを話したあとに、「変えたいこと」を5分間くらいで書いてもらうワークをするんですが、みんなすごくたくさん書くんですよね。「先生も説明できないブラック校則を変えてほしい」「調べ物をしたいのでスマートフォンの利用禁止を見直してほしい」「学校にエアコンを設置してほしい」とか。


変えたいことを実現するためには、政治家に会いに行く、署名をする、メディアに投書する、SNSに投稿する、デモに参加する、政治家に立候補する・・・いろんな方法があります。
政治家も、高校生など若い子の悩みや意見とか知りたいんです。双方をつなげていく設計を作ることができると良いと思います。


ーー日本で、若者が変えたいことを変えていくための仕組みは?


欧州諸国のような、学校のなかでの場づくりや先生の理解はまだまだ進んでいませんが、今後に向けての兆しは感じています。


まず、今年4月から施行される「こども基本法」。子どもに関する政策を決めるときに子どもの声を聞くことを、すべての自治体で義務付けられたので、子ども達の声を政治の場に反映していくという機運は高まっています。


また、私たちは「若者会議」を広めたいと思っているんです。選挙等で選出された若者達による会議で、予算の使い方などを話し合い、実際に政策に反映されるようにするというものです。今年から群馬県とは一緒に取り組んでいるところです。


先んじて、昨年度に高校生が知事に物申す提言会を行ったんですが、実にさまざまな提言が出てきました。「群馬県は中高生の自転車事故が全国トップクラスだから、自転車専用道路を作りたい」とか、「高校で配られた端末はセキュリティの関係で他校の人にメールできないようになってるから、それを変えたい」など。山本一太知事からは、「各課で検討しましょう」と前向きな言葉がありました。これって、子ども達の成功体験にも繋がりますし、それを新聞などで見た子は、自分も変えられるかもしれないと思いますよね。






大人は、子どもの「変えたい」という気持ちに伴走を

ーーたかまつさんが主権者教育に力を入れてから7年。変化を感じることは?


正直、あまり変わっていないと思います。まず、報道の論調がアップデートされていないんですよね。「若者をどうやったら政治に関心を持たせられるか」とよく報道されていますが、それは若者たち自身のせいじゃなく、教育など他のところに根本的な原因がある側面もあるのに、と思います。



一方で、学校の外では良い変化を感じます。インターネットで署名がしやすくなったり、SNSなどを通じて社会変革をしている同世代の子を目にする機会が増え、刺激をもらったり、同じ考えの子たちが集まりやすくなったりしていますね。


主権者教育が進むことで、こういうボトムアップで社会を変えていこうという流れが加速すると思います。


ーー今後、どのような活動を?


群馬県とはすでに主権者教育の取り組みを始めていますが、今年1年は、ほかの自治体とも進めて行きたいと思っています。47都道府県で先端事例をつくって、出張授業や、YouTubeを通じて伝えて伝えていけたら。全国の子ども達が、社会を変えていこうというムーブメントを作っていければと思います。なので、今、たくさんの自治体の首長に直接会いに行って話をしています。


ーー最後に一言お願いします。


誰でも社会は変えられます。


政治家への投書やデモへの参加、それにちょっとの時間でできるネットの署名やTwitterの共感できるツイートのシェアなど、方法はたくさんあります。ぜひ、何かしら1歩を踏み出してみてください。


大人は、お子さんが何かを変えてみたいと思っているなら、信頼して、子どもの「変えたい」という気持ちに伴走してあげてください。政治家に手紙を書いてみる、メディアに連絡してみる、学校の先生に相談してみたら、など、できる範囲でアドバイスいただければと思います。


簡単には変わらないかもしれません。でも、その行動で何かが変わるかもしれない。そうやって、どんどん社会を変えていってほしいなと思います。


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