対談1回目では「漫才協会の現状やこれから」、2回目では「いじめについて」、そして3回目は「今のお笑いについて」、ナイツ塙宣之さんに笑下村塾のたかまつなながお聞きしました。著書『言い訳~関東芸人はなぜM-1で勝てないのか~』が話題になっている塙さんは、今のお笑いについてどう考えているのでしょうか。
ナイツが時事ネタで気をつけていること
ーー塙さんって、よくお笑いについて語られていますよね。
すげー取材があるからだよ。語るのなんて嫌なんだよ、本当は。M-1って、はじめから人気があったわけじゃなくて、2007年のサンドウィッチマンの敗者復活戦からの優勝劇くらいから、国民的コンテンツになった。その後に俺たちは3年連続で決勝に行ってるから、取材の嵐だったのよ。他の決勝メンバーもかわいそうなのよ。意気込みとかを聞かれ続けて。そんなことどうでもいいんですよ、優勝したいに決まってんじゃん。
ーー自明ですね。ちなみに塙さんは時事ネタをやっていらっしゃるじゃないですか。時事ネタを作る時にどういうことを意識されていますか?
時事ネタはコツがあるんですよ。「波瀾爆笑」といったテレビ番組にひな壇などのゲストで呼ばれるのを1、ネタ番組でネタをやるのを2、ラジオ番組で話すのを3とする。この3つとも、違わなきゃいけないんだよ。
同じ時事ネタでも、例えばこの前の沢尻エリカさんの件をいじるにしても、俺たちはネタで「どうしてあんなことしたんですかね」みたいな話はしないって決めているのね。別に言う必要はないし、言うならラジオとか別の場所で言えばいい。
今、フリートークみたいな漫才が多いと感じてるのよ。去年のTHE Wでも、彼氏いないんですよとか、私モテないんですよとかいうのを披露している人がいたけど、それはネタじゃなくてフリートーク。こっちとしては知ったことじゃないのよ。それがネタとして成立しているならいいんだけど、自分のことを知ってください、みたいなのは、テレビ番組のひな壇とかでやればいい。
ネタって、思想を入れるものでも、自分を知ってもらうためのフリートークでもない。違うもの。
ーー私は以前、こんなアドバイスをいただいたことがあります。テレビ番組に出る時に、有名な人は座っているだけでいいけど、初顔の私は冒頭でネタをやることが多い。そうすると、ネタ終わりでMCの人にいじってもらえるように、”いじりしろ”を作らなきゃいけないと。「私ね、コンビニに行ったことないんですよ」みたいなネタには別に必要ないことを、わざと入れる。そうすると終わった後に「コンビニ行ったことないの?」って絶対にMCの人が言ってくれるって。
本来、ネタは夢を見せるもの。ネタとフリートークが逆になっているんだよ。
ーーすごく困りました。ひな壇に出ている時に、ネタのまま引きずっていいのかという。
その困りましたっていうことを、ネタとしてひな壇で話せばいいじゃない。
ーーめちゃくちゃ勉強になります。自分がどう思っているかは、ネタじゃないからラジオで、ということですか。
そう思うけどね、俺は。だけど、例えばウーマンラッシュアワーの村本大輔君とかがさ、政治ネタをやるじゃない。思想なわけだけど、ラジオではできないじゃん。いろいろ言う人はいるけど、あれはやっぱり漫才だと思うよ。
漫才はある意味、すべてが社会風刺
ーー村本さんの政治ネタについて、塙さんはどう思われているんですか?
ほぼひとりでしゃべり続けるっていう形を作ったこと自体が面白いでしょ。そこに発明があるから、中身なんかどうだっていいんだよ。すごい技術だよ、あれは。 あれをTHE MANZAI に毎年出すフジテレビは頭おかしいなとは思うけど。
ーー1組だけ浮いてますからね。面白いですけど。 私は最初から社会風刺をやらずにお嬢様ネタをやっていたのは、社会風刺をやっている人は面白くなくてもいい、みたいな感じになっているんじゃないかと思って、それが嫌だったんです。だからこそ、村本さんは社会風刺をしながら笑いもとっていてすごいなと。
でも社会風刺の概念ってさ、どこまでが社会風刺なのか?って思わない? 例えば、バカリズムさんは時事ネタをあまりやらない人なんだけど、100mで金メダルを獲った記録が2秒76でしたっていうネタ(「速すぎた男」)は、捉えようによっては時事ネタになるわけじゃんか。ネタはネタ元があって、どこかしらから拾って生み出しているものだから、そんなに深く考えなくていいと思うんだ。
結婚したいんですっていうのも時事ネタじゃん。結婚ブームがあったりとかさ。時事ネタかどうかで分けるなら、基本的に世の中にいる漫才師の漫才、全部時事ネタだと思ってる。
落語以外は時事ネタじゃないかな。
R-1、THE Wのことをどう思う?
ーー塙さんはR-1とTHE Wのことをご著書『言い訳~関東芸人はなぜM-1で勝てないのか~』でボロクソに書いていますよね……。
違うんだよ。大会として、R-1は見づらいとは思うんだよね。キングオブコントも若干そうなんだけど、統一感がないでしょ。例えば、バカリズムさんはキングオブコントに出たいのに、なんで俺は出られないの?って言っていたことがあるんだけど、確かにそうなんだよ。ひとりっていうだけでR-1という大会しかないじゃない。
ーーピン芸人っていうだけで、出られる大会が少なくなる......。
R-1がダメということじゃなくて、M-1がすごいってこと。据え置きのセットを使っていて、全員が同じルールでやっている格闘技のように見える。大会をするなら漫才が合っているなと思った。R-1は大会としては非常に難しい。
ーー年によって傾向が変わりすぎるので、対策が立てづらいというか。予選では前年に決勝に行った芸人の真似をする人がたくさんいたり。
そんなに影響受けちゃうんだ。そういうやつは全員やめたほうがいいな。自分がないよね。なんでそうなるか分かる? 大体ネタ作りを早く終わらせようとするやつってそうなるんだよ。俺の論理ね。
ネタ作りします。思い浮かびません。だんだん夜勤のバイトの時間が近づいてきます。とりあえず何かやらないといけない。この前の●●がやってたこのパターンで行こう!ってなるわけ。
ーーTHE Wのことはどう思われますか? 今回で3回目ですが。
THE Wは面白かったですよね。
ーーいつもラジオで酷評されているイメージがあります。
ゲストの座る場所と、演者の立ち位置とか、若干おかしかったでしょ。ネタはちゃんと、みんなしっかりしてたと思いますけどね。
ーーなんか急に声が……。
THE W面白かったですよ。
ーー声がすごい小さいですけど(笑)。
去年はちょっとひどかったですけどね。THE W、出てないの?
ーー出てます。悔しいですけど、普通に予選落ちました。難しいですね。お客さんが男性だけだし、R-1より独特ですね。
そういうことか。お客さんが男の人が多いのか。
芸人YouTuberを「否定はしない」
ーー私、社会問題の発信をしていきたいんですけど、どうやっていけばいいのかアドバイスをぜひいただきたいです。
これは口コミでやるしかないんじゃないの? 一気にやろうとするとだめなんだよ。これはちっちゃいところから、着実にやるしかないんじゃない?
寄席で頑張って認められていくことが、遠回りなようで一番の近道なんじゃないかな。近道しようとすると、みんな炎上みたいなことを狙いがち。結局長続きしないで終わっちゃう気はしますけどね。
ーー私、多分世代でいうと「お笑い第七世代」(2010年代後半から活躍している若手お笑い芸人)に一応入ってると思うんですけど。難しい世代だと思うんです。
出た、「第七世代」。せいや(霜降り明星)が考えたやつでしょ? すごいよね、あれ。あれでみんな救われてるよ。だって1グループみたいになってるじゃない、EXITとか。
ーー第七世代の人はYouTuberみたいな人も多いんです。フワちゃんもそうですし。
そこは俺の中ではもうわからないのよ。初期なのよ初期。後で分かるもの。だから今、否定するつもりもないし。
ーーでも塙さんの世代の人も、カジサックさん(キングコング・梶原雄太)とか、中田さん(オリエンタルラジオ)とかがYouTube始められてるじゃないですか。
そうなんだけど、単純に俺が使っているのがガラケーだから、出遅れちゃってるのはある。この前フワちゃんに「iPhoneに変えたら?」って初対面でタメ口で言われたり。フワちゃんが言うなら間違いないなと思って、変えようと思ったけど。 例えば、さっき言ったみたいにうちの子どもも見ている、子どもがいっぱい出ているチャンネルとかがあるじゃない。今は小さい子どもたちがさ、あと20年ぐらいしたら悩んじゃったりとかする可能性があるわけでしょ。デジタルタトゥーだから。消したい過去。 みんな今しか考えずにガンガンやるじゃない。YouTubeも子育てブログも。でも、その子どもの意思が出てきた時のことを考えておかないといけないと思う。なんで子どもの頃の私を勝手に出したのとか、言われる時が来るかもしれないから。 まあ、よく考えたらうちの一番上の兄貴(3兄弟の長兄)が子どもをめちゃくちゃネットに出しているから、何も言えないんだけどね。
漫才協会を戦慄させた、おぼん師匠の”こぼん死ね事件”
ーー塙さんはYouTubeは始められないんですか?
「塙チャンネル」でしょ? ちょっと考えてるのよね。ドラマについて語るってだけのチャンネル。月曜日はドラマ、火曜日は相撲、水曜日は野球、木曜日は漫才協会とか。漫才は一切喋らない。
ーーお笑いを語ったら、絶対見ますよ。
金曜日は健康とか。
ーー塙さんって、健康志向でしたっけ。真逆なイメージがありますけど(笑)。
これから挑戦するの。土曜日は美容とか。化粧水使ってみようのコーナーとか色々考えてますから(笑)。
ーー需要に全然合わせてくれないんですね。でも絶対面白そう!漫才協会の芸人さんを紹介するのも面白そうですけどね。
おぼん師匠がやってるからね。おぼん師匠に対抗してやろうかな。「おぼんちゃんねる」ぶっ潰そうかな。
ーー見てるかもしれないですよ(笑)。
見てないよどうせ。むしろ最後まで見てたら大したもんだよ。おぼん師匠、仲直りしてくださいよ。
ーー大丈夫なんですか?
大丈夫じゃないよ。めちゃくちゃ仲悪いんだから。知ってる? この前のおぼん師匠のポストカードの事件。
ーー知らないです。
漫才協会でポストカードをこの前、ホームランさんが絵を描いて売っていたでしょ。そのポストカードに一人一言好きな言葉を書こうとしていたの。例えば俺だったら「ヤホーで調べました」、ねづっちだったら「整いました」、みたいな。おぼん師匠は、”こぼん死ね”って書いてあったの。
ーーネタですよね、きっと。
でも、さすがにそれを買わないでしょ。恐ろしいよ、”こぼん死ね”って書いてあったら。さすがに漫才協会で問題になって、上から修正して、印刷して販売してたの。こぼん師匠だけ文字が書いてなかったの。
ーー面白すぎますね。
面白すぎますよ。
ーー漫才協会に入れていただいて、本当に勉強になって楽しいです。ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。本日はありがとうございました。塙さんでした。
最後に
塙さんはすごすぎる。自分が芸歴1年目の頃、いろんな番組に出て売れなかった理由がわかった気がする。フリートークでネタをやりすぎていたのだと気がついた。そして、こんなに面白くて、優しい先輩に相談できたら結果が違ったのかもしれないと思った。これからも、社会風刺ネタをやるために、笑いで世直しをするために、たくさんご相談させていただきたい。