元ベビーシッターの兼近さんが考える‟頼ってもいい”優しい子育て
鮮やかなピンク色の髪、パリピ調の語り口。 チャラ男たちが織り成す軽快な漫才で、若い世代を中心に人気を集めているお笑いコンビ「EXIT」の兼近大樹さんとりんたろー。さん。
意外にも、兼近さんはベビーシッターの経験があります。 今、まさに育児に悩んでいるお母さん・お父さんに伝えたい…! vol.1では、兼近さんならではの子どもへの接し方、そして親御さんへのメッセージを、笑いを交えてお届けします。
プロフィール
EXIT(いぐじぃっと) りんたろー。さんと兼近大樹さんのお笑いコンビ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。「ネオ渋谷系漫才」と言われるスタイルで、結成して間もなく頭角を現し、若者を中心に人気が爆発。 たかまつなな お笑いジャーナリストとして、お笑いを通して社会問題を発信している。取材をし、その内容を寄席で社会風刺ネタと して届ける 。18歳選権導入を機に、株式会社 笑下村塾を設立し、全国の学校で出張授業「笑える!政治教育ショー」を実施。
■やりがいは「お母さんの助けになっている」こと
―兼近さんが育児に詳しいと聞きました。
兼近さん(以下、兼):実は「育児ット」でもあるという(笑)
―実際に子育ての経験はあったのですか?
兼: 妹以外にいとこが多かったので、小さい頃から自分より下の子どもたちの面倒を見ていました。それで子どもが大好きで、「育児に関わる仕事をしたい」と思っていたんですが、普通の道から外れた生き方をしていたので諦めていました。それが芸人になった時に、たまたまベビーシッターの会社の社長さんと知り合いになって、紹介していただいたんです。
―どのようなところにやりがいを感じますか?
兼:僕のお母さんが苦労していたのを昔から見ていたので、ベビーシッターをしている家族の助けになっているという自己満足ですね。僕は資格とか持っていないのもあって、お給料はめちゃくちゃ安い。お金じゃないんです。
りんたろー。(以下、り):爆裂貧乏家族だったしね。
―お子さんと触れ合っているのが楽しい、というより、家族のお母さんとか依頼主の言葉がうれしいということですか?
兼:子どもと遊ぶのが好き、というのが第一。
り:ロケに行っても、子どもさんがいると遊んじゃうから止まるんですよ。一刻も早く終わらせて帰りたいんですけど。
―何がそんなに好きなんですか?
兼:かわいい。
り:子どもと一緒の精神年齢になって遊んでいますね。
兼:人って、根本はそんな大人にならないものですよ。野球の素振りみたいに手のマメがどんどん厚くなるのと一緒で、人も大人を演じれば演じるほど、大人の仮面がどんどん厚くなっていって、子どもの時の感覚を忘れちゃうんです。僕は大人を一切演じないから、ずっと子どもでいられる。
り:たぶん、普通の人が重ねていく経験値が兼近にはないのかもしれないですね。
兼:「子どもはこうしたいんだろうな」っていうのを分かってあげられる。会話とか何か言いたそうな雰囲気とか、表情や動きから見て取ります。
■親は子どもと一緒に成長するもの
―私も子どもは好きですが、ずっと遊んでいると疲れちゃいます。世の中のお母さんは子育てに疲れていると思います。
兼:お母さんは女性なので、激しい遊びをしてあげられない。そうでなくても家事をしなきゃいけない。日常的に疲れていると思います。
―ベビーシッターを使うことに抵抗がある人もまだ多いと思います。
り:こいつはチャラ男ですから、家に来ただけで嫌悪感がハンパないと思います。
兼:僕が登録しているベビーシッターは写真や住まいの場所もだいたい先に分かります。一回、ベビーシッターに行くと、「この人はこんな感じの人でした」というのを書かれるし、レビューもあります。「見た目はチャラ男ですけど」と書かれているのもある。
自分でも「チャラ男キャラで芸人やっています。見た目に難はありますが、その分、真摯な対応で向き合っていきます」みたいなアピールポイントみたいなのも書いています。最初はしっかりと書いて、安心してもらうようにしています。
―前にテレビで発言されていたことがネットで話題になっていました。疲れているお母さんに向けてメッセージを発信されたとか。
兼:育児に悩んでいる人ですよね。「子どもが生まれたと同時に親も生まれるので、最初からうまくできるわけがない。一緒に成長していくものなんですよ」という話をしました。
■経験から知った「大人だって子どもと一緒」
―すっごい素敵ですよね。そう思うようになったきっかけは何ですか?
兼:僕のお母さんがすごく頼りなかった。でも他の大人に頼ることができなくて、なぜか僕に頼っていたんですよ。「お金が足りない」とか「生きていけない」とかいうことも、小学生の頃から聞いていたので、中学校になってすぐ新聞配達を始めました。
り:お母さんは精神的に不安定なこともあったの?
兼:お酒を飲んで帰ってきたときは、そんな状態。「俺はどうすればお金が稼げるかな」とか「どうしたらお母さんの助けになれるかな」って考えていたから、お母さんと一緒に俺も成長していったんですよ。それが小学生の頃の話。
―子どもがどうやって稼いだんですか?
兼:小学生の時から働きたかったけど、それはできなかったので、お母さんの働いている場所で顔を出して1曲歌うんです。そしたらおじちゃんたちが喜んでくれて、チップをもらえたりしました。
―お母さまのことが好きだったから、できたんですね。
兼:たぶん、子どもなりに「お母さんを助けてあげたい」っていう気持ちがあったと思うんです。
―周りの家庭がうらやましくなかったですか?
兼:「なんでうちだけ、こうなんだろう」と思った時期もありましたけど「常に周りに大人がいて、喜ばせたらお金がもらえてお母さんが助かる」というのは、それはそれで楽しかった。
そういう経験の中で、お母さんじゃなくても、そこに来るおじちゃんにだって悩みがあることも知った。大人も頼りない部分があって、子どもと一緒だと思えたんです。
―子育てする親は、そんな頼りない姿を子どもに見せた方がいいんですか?
兼:絶対に見せた方がいいと思います。これは持論ですが、例えば重い荷物がある時に、持ってもらわなくてもいいけど「お母さん、この荷物重たいな」って小さい子どもに言うんです。そしたら子どもが「自分がお母さんを助ける」って、自分以外の誰かを助けようと思うきっかけになるんです。だからベビーシッターをやる時も、全部やってあげるんじゃなくて「これ、俺できないんだよなー」って言うと「僕できるよ」ってやってくれたりするんです。
―上手ですね。私だったらイライラして「あんた持ちなさいよ」みたいに言いそう。
兼:それだと「やらされている」っていう感覚が強くなるからダメなんですよね。
り:義務になると嫌なんだね。
―自分に余裕がないと、できないですよね。ストレスが溜まっていたら、考えるより前に「これやってよ」「どうして私のこと理解してくれないの」っていうコミュニケーションになりますよね。
兼:それは相手の子どものことを考えられていない。「自分がしてほしいからこうして」って言うのは、それこそ子どもと全く同じ目線、むしろそっちの方が子どもです。
■できなくて当たり前だから頼ってもいい
―ベビーシッターとして、芸人であることの強みはありますか?
兼:子どもだけじゃなく、お父さんお母さんも喜ばせてあげられる。例えば会話の流れで、子どもが言うはずのないことをふざけて言ったり。
り:「哺乳瓶のことをショットグラスって言ってましたよ」とか。
兼:あとは、子どもが言っていたことを後で伝えるだけでもすごく喜んでもらえる。そこは嘘をつかずに言います。子どもが「僕のママはこうするよ」と言ったらメモって、後で「『お母さんはこうする』と言って、それをちゃんと守っていました」と報告すると「私がいないときに、この子はそういうことをしているんだ」って親子の絆を再認識するような感じ。第三者である俺から聞くとそれがより深くなる。
―芸人でも同じですね。「『たかまつがいると場が盛り上がる』って先輩が言ってたよ」とか聞くと直接言われるよりうれしいですよね。
り:裏でそんなこと言ってくれてたのか、って思いますね。
―子育てで悩んでいるお父さんお母さんへのアドバイスなどありますか?
兼:難しいなあ。特に日本では“ベビーシッターは金持ちが使うもの“というイメージがあります。「楽してる」とか世間が言うからかもしれない。でも別にそんなことはなくて、バシバシ呼べばいい。
―地方だと難しいかもしれないけど、首都圏だったら専用アプリもありますよね。
り:時給いくらでしたっけ?
兼:僕は1,200か1,300円。利用する人は1時間1,500円とかだと思います。
お母さんたちは「私が頼ったら、できないと思われるんじゃないか」と考えてしまう。でもみんなできないから大丈夫。ベビーシッターを使うのも1つの手ですが、それよりも家族、旦那さんを頼る。旦那さんだったら奥さん。友達でもいい。とにかく頼ることが一番です。
―これで安心して子ども産めます。ありがとうございます。
兼:たかまつさんは子どもに厳しそうですよね。細かいところで「こうしなさい」とか。
―3歳からバイオリン習わせて、英語も落語とかもやらせたい。
兼:嫌がってたら辞めさせてください。「友達と遊びたい」って言ってるのに「落語やりなさい」って言われてもね。
り:強制されてその道に行く人もいるんじゃない?
兼:子育てなんて洗脳ですからね。例えば、ちっちゃい子が赤のランドセルを欲しがるのは、お母さんが一度は「女の子は赤だよね」っていうのを聞いて「女の子である自分は赤にしよう」って赤が好きになるだけ。
―私は情報を疑う子に育ってほしいです。女の子には黒、男の子には赤のランドセルをあげようと思ってます。
り:それを6年背負うと、色々ゆがんだりするんじゃない?(笑)
兼:理由が分かれば納得するかもしれない。
最後に
子どもの頃の「お母さんを助けたい」という想いが根底にある兼近さんの‟子育て論“は、優しい言葉に溢れていました。 何より本当に子どもが好きで、ベビーシッターの仕事に誠心誠意取り組んでいたことが伝わってきました。
ベビーシッターは選択肢の1つで、まずは家族や友人を頼ってみる…当たり前のことかもしれませんが、今まさに子育てに悩んでいる方にとっては、意外な盲点だったかもしれません。
―vol.2ではりんたろー。さんに介護のコツをお聞きします。
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