前回は、乙武洋匡さんに、メディアで伝える限界、政治家をめざした経緯、現在の心境などをインタビューしましたが、(前編はこちら)
今回は、子どもたちにどうすれば政治に興味を持ってもらえるのか、
さらに、実情に即した性教育をどうやれば現場に導入することができるのか、
私たちの笑下村塾の活動内容へのアドバイスをいただきました。
杉並区立杉並第四小学校教諭として3年間、教壇にも立たれていた乙武さんに性教育や主権者教育を学校現場でやる裏技を聞きだしました。
小学生に「選挙に行こう」はまだ早い?
――私たちの話をさせていただくと、笑下村塾は、「意識」の部分で社会を変えていきたいと考えています。というのも、どんなに想いのある政治家でも報われない、政治を変えられない現実があります。でも、さきほど乙武さんがおっしゃったように、意識が変われば、制度も変わるわけですから。私たちは、その「意識」の部分を頑張ろうかなと。具体的には、主権者教育(若者の政治的リテラシーや政治参加を育む教育)に取り組んでいます。それこそ、小学生に「選挙に行こう」って、彼らが選挙に行くのは10年後とかなんで、ほんと気の遠くなる話なんですけど、未来のことを考えると、それが近道なんじゃないかなと。
本当にそうですよね。
――具体的には、いろんな事務所の芸人さんを派遣して、民主主義とはなにか、選挙に行かないとどうなるのか、MC役とボケ役を立てて伝えています。いわば“出張テレビ”ですね。
すごくいいですね。ちなみに対象学年はどのあたりなんですか?
――かなり幅広いです。小学校高学年から中学生、高校生。一企業向け研修もありますし、行政と一緒にやると、60代、70代の方も対象だったりします。実際は中高生が一番多いかもしれませんね。
是非、小学生に力を入れてほしいな。元々僕が小学校の教員だったというのもあるけど。「小学生に選挙や政治の話?早い、早い」って思われるかもしれないけれど、小学生の吸収力をなめちゃいけないですよ。
――確かに。それは私たちも現場で実感します。
でも今の学校の主権者教育って、模擬投票をしたり、何をやったら選挙違反になるのかしか話されていない。政治の話だって、国会には衆議院と参議院があって、定員が何人で、任期が何年で、って、正直あまり本質的なことじゃないでしょう。
――おっしゃる通りです。だから、私たちは模擬投票を学校ではしていません。
意味のある主権者教育をするには?
――例えば、フランスでは、学校管理評議会というのがあって、学校運営の最終決定をもつ議会の中に、校長や保護者に加え、生徒代表がいるんです。日本だと生徒会は、PTAや校長より権限がないと思っている。だから、政治への実感、誰か代表を選んでその人が自分の意思を反映したり、大きなルールを作っているいう意識が低いと思うんです。お金と権限を若いうちからつける。これが主権者教育で、実感を持たせるために大事なことだと思います。今のルール内で、どうやって、子供たちに政治の実感を持ってもらえると思いますか?
政治って、誰かと誰かの利害がぶつかったときに、どう妥協点、落としどころを見つけるかってことですよね。そのルーツは「学級会」にあると僕は考えています。例えば、1時間自由時間があるけど、何をするか皆で決めよう。多数決?その前に話し合いじゃない? って、それこそ民主主義でしょう。それこそ主権者教育につながると思う。政治の話だからっていきなり硬直してしまうのはおかしな話だと思うんです。
――そうなんです! 政治って実は身近な問題なはずなんです。それを子どもたちに是非実感してほしいんです。だから、私たちは身近に感じてもらえるよう教材に「笑い」だけではなく、工夫を凝らしています。私たちが提供している主権者教育の内容をさらっと説明すると、まず民主主義を3分で説明します。家族に1つプリンがあるけど、誰が食べるかどうやって決める? 「殴りあう」これは原始的な無政府状態。お父さんが全部食べるという「掟で決める」。これは独裁。「投票で決める」。これが民主主義、という具合です。これを超高速のパワポ芸で見せていきます。他にも、「もし選挙に行かないとどうなるのか」を人口比、投票率でポイントを変えてシミュレーションするゲームや、「悪い政治家を見抜く人狼ゲーム」という、若者に人気の人狼ゲームをモチーフにした情報を疑う模擬投票のようなゲームを実践したりしています。
面白そう! 受けてみたい!!
――ありがとうございます。4月26日にも開催するので乙武さんに是非見て頂きたいです。何かこの授業に対してアドバイスもいただけないでしょうか。
子どもたちは間違いなく楽しみながら学べますよね。ただ、子どもって、その時だけ楽しんで、忘れてしまいがちなんですよね。持続性を考えると、子どもたちに喜んでもらうだけでなく、先生にも喜ばれ、また呼んでもらわなければなりません。
そのためには、ちゃんと事後のフィードバックをもらう、足りない部分はなにか、ヒアリングもする。それが、地味な作業ですが、大事だと思います。
僕も教員時代、外部講師を呼んで授業をする機会があったんですけど、外部授業って、思っていた以上にハードル高いんですよ。前例がないって。先生方は、そうした職員室での軋轢を超えて、呼んでくださるのだから、期待に応えたいですよね。
――本当にそうですね。私たちも学校で場を設けていただくにあたって、政治的な発言はしない、政治的に中立であるよう心がけています。
セックスって言えない性教育って、どうなの?
――主権者教育のほかに、私たちが取り組みたいと思っているのが「性教育」です。
ですが、足立区の中学校が行った性教育に、都議会議員が異議を唱え、東京都の教育委員会が指導をするなど問題視されました。結局、セックス、中絶という言葉使ってはいけないというルールに縛られてしまいます。どうすれば、現実に即した性教育が、教育現場に取り入れることができるのでしょうか。
例えば、学校の外でやるという方法もありますよね。また、私立校なら、学校のトップがOKなら比較的導入しやすいでしょう。
ただ公立となると、けっこう大きな壁があるのも事実です。
ひとつテクニック的なことを言うと、そもそも学習指導要領って、「最低限、これだけは教えてくださいね」ということで、「これは絶対に教えちゃダメです」と禁じているわけではないんです。ですから、性教育でセックスや中絶のことを教えてもいいと考える人もいます。でもまあ、現実としては指導はされちゃうんですけどね。
――そうなんですね。じゃあ、例えば、区長や市長がOKだって判断すれば導入できるはずってことですか?
ただ、東京は複雑で、小・中学校は各市区町村立なのですが、教員の人事権に関しては東京都教育委員会が握っているんです。
でも、骨のある自治体のトップが理解を示し、その自治体と組んで、モデル校にするのは、ひとつの道だと思いますよ。
――ああ、ここでも政治の論理になるわけなんですね。
そうなんですよ。やっぱり、政治の力は大きいです。現実に即した性教育になっていないと、メディアがおかしいと伝える。権限のある政治家が行政に働きかける。それが必要なんです。
少し話がそれますが、政治家になって僕が取り組みたかった分野に、同性婚や選択的夫婦別姓があります。政治には、辺野古問題、原発問題など、相反する利益や権利を調整して、妥結点を探す役割がありますが、一方、誰も損しないのに、未だに認められない権利もあるわけです。そのひとつが、同性婚や選択的夫婦別姓。なんのための反対なのか。僕の友人である「サイボウズ」の青野慶久社長が夫婦別姓を選べる法制度がないのは憲法に違反するとして、国に損害賠償を求めたのですが、今月(2019年3月)、夫婦別姓を認めないことが合憲だとされたので、非常に残念ですね。
――確かに、あれは、お金のある企業のトップが、自ら当事者となって異を唱える、貴重な機会だったかと思います。
だから本当に残念なんです。またとないモデルケースとなったはずですから。
僕が、最初に政治家になろうとしたとき、「なんだ、権力がほしいのか」と批判されたけど、「はい、そうです」と肯定するしかないよね。そりゃそうですよ。権力って、つまり何かを変えられる「権限」でしょう。権限がほしいから政治家になりたいんです。そう思っていない人間は政治家になる意味がないと、僕は思います。
――政治ができることってやっぱり大きいんですね。それを動かすメディアの力も必要。私たちがしていることも小さな礎となると再認識しました。本当にありがとうございます。
ありがとうございます。笑下村塾の授業、僕も受けてみたいな。頑張ってください。
――ぜひぜひ!そして、乙武さん、選挙出てくださいよ。
だから、無理だって(笑)。今は「5人と不倫した人」だって言われるんだから。「五体不満足」の人じゃなくて。
――あれ、両方「5」ですね 。かけたんですか?(笑)
いやいや、かけてません。(笑)
文:長谷井涼子 写真:相馬ミナ
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