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せやろがいおじさんが、沖縄で叫び始めた理由

エメラルドグリーンが美しい沖縄の海をバックに社会問題を叫ぶ赤いふんどしの男、せやろがいおじさん。3分程度という短い時間の中、テンポの良い関西弁で問題の本質を突き、思わず吹き出してしまう面白さもある―今やチャンネル登録者数は20万人超え、昨年は地上波にも登場しました。時にはデリケートな内容もありますが、柔らかい言い回しや例え話で包み込み、某メディアが「誰も傷つけない笑い」というキャッチコピーとつけたのにもうなずけます。


良質な情報、納得感のある例え、社会問題と笑いの掛け合わせなど、短い動画にはせやろがいおじさんの思いや鋭い視点、努力や工夫が詰め込まれているように思います。


Vol.1では、せやろがいおじさん誕生秘話や、現在の形になるまでについてお伺いしました。





プロフィール せやろがいおじさん 本名:榎森 耕助(えもり こうすけ) 普段は相方の金城晋也さんとのお笑いコンビ「リップサービス」として主に沖縄で活動。2017年9月にYouTubeチャンネル「ワラしがみ」を開設しせやろがいおじさんとしての活動を開始。



■沖縄芸人13年目、県内では連続優勝!でも現実は…



―まず、なぜ芸人になられたのかをお伺いしたいと思います。


元々は奈良出身で、大学進学を機に沖縄に来ました。そこでオリジンという芸能事務所があったんですが、割と一般人との距離が近い雰囲気で、本土で芸能事務所に所属するようなハードルの高さがなかった。サークル感覚で所属したのが始まりです。


―普段はコンビでご活躍されていますね。


「リップサービス」というコンビで13年くらいになります。


―コンビの活動は、普段どんなことをやってらっしゃるんですか?


毎月の定期ライブが主で、あとは沖縄のテレビやラジオに出演しています。普通の地方芸人って感じです。事務所の定期ライブが月1回あって、みんなそれに向けてネタを作っています。年2回ほど、沖縄だけの賞レースがあるんですよ。


―M-1とか目指さないんですか?


行くけど、なかなか勝ち進めない。2回戦でいつも負けちゃう。いつも旅費払ってM-1受けに行って、現実を突きつけられて帰ってくる。


―それはショックですね。


3分のネタをしに5万円くらいかけて行きますから。台風直撃してLCCが飛ばなくなっても、絶対帰らなきゃいけないから、追加で飛行機取ってプラス10万円かかったこともあります。


―YouTubeを始められた理由は何だったんですか?


沖縄の賞レースでは4連勝とかして結果を残しているんですが、それでも食っていけなかった。「芸人続けたいし、何かないかな」と考えて、稼いだり知名度が上がってお仕事がいただけたらいいなとYouTubeを始めました。


―そんなに活躍されていても、食べていくのが難しいんですか?


なかなか金額的にも難しい。バイトは沖縄の瓦を作る工場とか、色々なところを転々としていました。


―YouTubeを初めてからはお金には困っていない?


やり始めが一番困っていました。バラエティ番組みたいなチャンネルをやっていた時は全然ダメでしたが、せやろがいおじさんをやって、SNSで拡散してもらってからお仕事もいただけるようになってきました。今は「今月の光熱費どうしよう?」みたいな暮らしではなくなりましたね。


―その後のお仕事にどう繋がっていますか?普通のYouTuberは、企業案件やったりPR動画作ったりしますが、せやろがいおじさんはそのイメージはないです。


PRは基本的にお断りしています。営業的なものが入ったり、トークライブで全国を回ったりしています。


―芸人の仕事が増えたということですか?


いえ、せやろがいおじさんの仕事が増えました。


―コンビ仲は悪くならないんですか?


相方は石垣出身の心優しい男なので、そうはならない。非常にありがたいことです。うちの相方がエライのは「あいつは今、色んな所に行ってて俺はやることがないから、1日1本コントを書こう」って言って、本当に書いてるんですよ。去年は200本くらい書いていました。


―芸人の鑑ですね。


それでいて土日はちゃんと休んでるんです。働き方改革してる。さすが俺の相方やなと。


■“あるある”ネタから社会派へ。転機は沖縄知事選で見たコメント



―YouTubeでは、主に時事問題について叫んでいらっしゃるイメージですが、最初から時事問題に関心があったんですか?


めちゃくちゃ関心が高いということもなくて、最初は話題になっていることを扱っていました。それより前は“あるある”もやっていました。例えば「久しぶりに会ったのに『覚えてる?』って聞いてくるヤツに一言」みたいな。徐々に変化していった感じです。


―変わったのには、何かきっかけがあったんですか?


時事問題についてやっていくうちに、昨年、沖縄知事選挙があったんです。その期間中に「この候補を応援して」とか「この主張をもっと広めて」みたいなメッセージをいっぱいいただいたんです。

「この人に投票したら?」と勧めるのは、自分の中で違うなと思いました。でも県知事選の結果が出た後に、ネット上で「沖縄終わった」みたいなコメントが溢れているのを見て「それは違うだろ」と思いました。沖縄の人たちが一生懸命考えて一票を投じて、出馬した方も主張はそれぞれ違うけど沖縄のことを本気で考えていた。だから「沖縄終わった」のコメントに対しては言ってもいいだろうと思ったので「こういう結果が出たから、ここから沖縄を始めていこう」という動画を上げました。初めて政治的なことに関して一線を超えた感じですね。


―そもそも海で叫ぼうと思ったきっかけは何だったんですか?


「色々なことに物申す系」みたいなのを若いYouTuberさんたちがいっぱいやってらっしゃるのを見て、真似して室内で撮ったことがあるんです。でも「おじさんが室内でしゃべってるのを誰が見るねん?」って思って。俺以外の要素で見てもらえるものを考えた時に、事務所の外を見たら海がありました。


―なかなか窓の外を見てもこんなキレイな海はないですよ。


沖縄のいいところをフルに使わせていただいてますね。


―心が癒されますが、内容とのギャップがすごいですね。


僕の動画を見て「海いいな」って思った方が「おじさんとテロップが邪魔」なんて言って、切ないこともありますけどね。でも沖縄の海の魅力を知って遊びに来ていただけたら、観光産業にも貢献できるのではないかと思っています。


■風潮を変える一助になりたい。ただし笑いはマスト!




―社会派に転向してよかったですか?


良かったも悪かったもまだあんまり思っていませんし、社会派かどうかも疑わしいんですけど。やり始めて気づいたこともあるし、知って良かったこともあるし、黙っているよりはみんなで声を上げた方がいいと思うこともある。少なくとも、やっていることの意義は感じています。


―動画を届けるときに、どういう意義を見出してらっしゃるんですか?


「政治的なことは言わない方がいいよ」っていう風潮がありますよね。内容ではなく、話していること自体がタブーのような風潮が、ちょっとでも変わる一助になればいいなと思います。

例えば沖縄の辺野古の問題や、長崎県の地元住民の民意を無視して進められている石木ダムの問題など、困っている人はいっぱいいる。それを見て見ぬふりしていたら、もし自分が困った側になった時に誰も助けてくれない。そうなったら怖くね?って思うんですよね。泥にハマってズブズブ落ちている人が「誰か助けて!」って言った時に、通行人が「黙ってた方が賢い」って素通りしたら怖い。もっと風通し良く、声が広がりやすくなればいいと思う。


―そういう考えになったのは、せやろがいおじさんが沖縄で活動しているということも関係しているんでしょうか。


あんまり関係ないかもしれないですね。発信してみて、反応を受けて、だんだんそう思うようになってきたので。それまで応援してくださっていた方の中でも、政治的なことを言ったらものすごくお怒りになって「そんな芸人と思わなかった」「色が着いた」「もう応援しない」とかたくさんきました。「何がそんなにアカンのやろ?俺が強盗したくらいのレベルのコメント来てるけど、そんな悪いことしたかな?」みたいな。


―せやろがいおじさんになってから、芸人としてやりにくくなったことはないんですか?


そこまで感じてないですね。一応、せやろがいおじさんも芸人としてやっているので、失敗するときもありますが、自分なりに笑いの要素を入れているつもりです。だからそこまでかけ離れてはいないと思っています。


―コンビとしてのキャラクターはどうなんですか?


僕、ツッコミなんですよ。動画でも時事問題についてつっこんでいるというポジションなので、相方につっこむか、世の中につっこむかの差でしょうか。


―私はすごくやりにくくなりました。元々、お嬢様芸人でデビューしたので、社会派になると世間は真逆に行ったと思うらしく、困っています。


たかまつさんの場合は、ギャップに驚かれているのかもしれませんね。でも僕は全国的な認知度が全くない状態から出たから、そういうのがないのかもしれない。


―“ふんどしの人“というイメージの方が強いと。


僕のことをお笑い芸人と思っている人の方が少なくて、「ふんどしのキテレツな奴」と思われていそう。


―イメージの問題は難しいですよね。


僕らはお笑い芸人。時事問題の解説とか、分かりやすくまとめてお伝えするだけでなく、どうやってお笑いを入れるか。一番難しいけど、そこから逃げたらいかんなと。


―すごいですね。私は「今日は政治について熱く語る」「今日はお笑い芸人で営業に行く」みたいな形で、スイッチを切り替えちゃう。政治に笑いを入れようとすると、「茶化しているのか?」と思われてしまうこともあるので。


それはホンマにありますよね。僕もこの格好で扱っていい問題とそうじゃない問題があります。人の命に関わることは良くないけど、そうじゃない世の中の問題はこれでいっても大丈夫かな、とか。たかまつさんの中で、笑わせながら語る、というちょうどいい立ち位置というのがあるんでしょうね。


―芸人さんとして、あるいは自分の生き方として、どこを目指していますか?


引き続き、せやろがいおじさんの動画で今ある問題をみなさんに知ってもらうきっかけを作りながら、語りやすい風潮に変わる一助になりたい。お笑い芸人としても、漫才作ったり面白い動画も作ったりしたいですね。今はせやろがいおじさんのチャンネルしか持ってないけど、他の沖縄芸人と一緒に面白いものを発信して、そこからせやろがいおじさんの動画を見て今の問題を知ってもらう。そういう循環が作れたらいいなと考えています。


―賞レースも頑張りたい?


賞レースは苦行です。夢があるというより、滝を浴びに行くような。


―vol.2では、実際の動画づくりについてお聞きします。

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