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執筆者の写真笑下村塾

女性初の総理大臣を目指す稲田朋美はどんな女性なのか飲みに誘ってみた



Yahoo!のトップニュースになった「石破茂は飲んだら本当に楽しくないのか」に続く、サシ飲みトークの第2弾は、衆議院議員の稲田朋美(いなだ・ともみ)さんです。

稲田さんと言えば、2017年に南スーダン国連平和維持活動(PKO)に派遣された陸上自衛隊部隊の日報問題をめぐり、陸上自衛隊が「廃棄した」と説明しながら保管していた事態などを受けて、防衛大臣を辞任しました。

伝統的な家族観を大事にする自民党で女性初の総理大臣を目指す稲田さんは、私にとっては「保守」の象徴的存在で、どこか距離を感じる方でした。しかし最近は、シングルマザーへの支援などリベラルな政策にも積極的に取り組んでいます。実際はどんな女性なのか、その素顔を探るべく食事にお誘いしました。


夫の影響で「正論」を読み始める



ー本日は、稲田朋美さんの地元、福井県にゆかりのあるお店に来ています。よろしくお願いします。


稲田:ここは福井の方が経営していらして、個室があるので時々利用させていただいています。このメガネも鯖江のものです。


ー素敵なメガネですね。さっそくですけど、私の稲田さんに対する印象は、自民党の保守的な方というイメージでした。最近は女性の問題などを積極的に発言されていて意外に思いました。今日は稲田さんがどんな方なのか、ぜひいろいろとお聞きしたいです。稲田さんは、弁護士同士でご結婚されているんですよね?


稲田:夫とは同じ大学の同じ学年でした。司法試験の受験会場で偶然会って初めて会話をしたのがきっかけです。その後、お付き合いしたんですけれど、一度別れて、しばらく経ってから再会して29歳で結婚しました。一緒にいて気を使わないところや、同じものを見て笑えるところなどがいいと思いました。


ー稲田さんって笑うんですか?


稲田:笑いますよ(笑)。笑っているイメージないですか?国会答弁ではいつも批判されていますから、失敗しないように緊張しますし、真面目になりますよね。でもよく笑いますよ。


ー笑うイメージがありませんでした。ご主人とは政治的な思想も似ているんですか?


稲田:私は意識の高い方ではなかったので、結婚するまでは夫と政治的な話は全然しなかったです。だから、結婚してから夫が読んでいる雑誌とか新聞とかに影響を受けましたね。「正論」という雑誌を夫は定期購読していました。最初はすごく保守的な雑誌だなと思いましたが、のちに読者のページに「歴史教育がおかしいと思う」と投稿したら掲載されて、4,000円の商品券をもらったのをよく覚えています。嬉しかったですね。


ー元防衛大臣から4000円の商品券で嬉しかったという言葉が出るとは意外です。ご主人は、稲田さんの仕事の支えにもなってくれていますか?


稲田:支えられていますね。選挙に出たとき、子どもが2人とも中学生だったので、普通は反対すると思うんですよね。でも、「君は絶対に政治家に向いているから出たほうがいい」と背中を押してくれて、そういうところは理解がありました。今は後悔しているかもしれませんが。


人生初の挫折で考え方が変わった



ー稲田さんは、9月に行われた自民党の総裁選にも立候補するのかと思っていましたが、今回はなぜ出なかったのですか?


稲田:はっきり言って出られる(推薦人を集められる)とは思ってはいなかったんですけれど、手を挙げました。女性も総裁を目指していますという意思表示をすることはすごく重要だと思ったからです。でも、立候補をするための推薦人20人という壁はすごく高かった。それに展開も急でした。安倍総理が辞任して、一気にその週末で決まるという激流の中で、急に派閥というものが存在感を示して一致団結して物事が進むという‥。「永田町政治」というものを見ましたね。


ー最近、稲田さんはすごく変わった印象があります。伝統的な家族観を大事にする自民党に所属していて「保守」のイメージがとても強いですが、シングルマザーへの支援などにも力を入れています。自民党の家族観とは違うのではないかと思って驚きました。


稲田:私は自分では保守だと思っています。国家とか安全保障とか憲法改正とか、そういうところは保守だと思いますし、どちらかというと非常に右だと思います。でも一方で、人権とか女性の活躍とかシングルマザーの問題とか貧困の問題とか、そういう問題はすごく気になるし、重要な問題だと捉えています。


ー周りからは、急にリベラルな政策をやり出したと見えるかもしれません。なぜ変わったんですか?


稲田:変わった部分はあります。それも含めて自分だと思うので、変わるということはそんなに悪いことだと思っていません。なぜ変わったかというと、防衛大臣をやらせていただいた1年で、大きな挫折をしたからだと思います。すごく順調な政治家としてのキャリアの中で、完敗でした。そういうときに、順調に行かない人とか疎外感を感じる人の気持ちがわかるようになって、そこで自分ごとになったんですよね。あれほどの大きな挫折は人生で初めてです。


寡婦控除の課題に切り込む


ー今までは見過ごしていたけれど、特に関心をもつようになったテーマはありますか?


稲田:未婚のシングルマザーの寡婦控除の問題です。今までは死別や離婚を理由にひとり親になった人に対する支援はありましたが、未婚の人に対する支援はありませんでした。自民党の考え方では、死別や離婚でひとり親になっている人と、未婚でひとり親になっている人の間には大きな川があって、絶対にここは一つの線を引くという考え方なんです。 去年、それはおかしいと言って、未婚のひとり親でも寡婦控除の対象とすることが実現しました。この問題が解消した時に、シングルマザーの会の代表が「同じ新宿の駅なのに風景が違って見えた」とおっしゃったんです。当事者の方は、お金の問題よりも、そういうふうに社会から排除されて、不平等に扱われていることがすごくつらかったのではないかと思いました。


ー自民党が未婚のひとり親を認めるということがすごく意外でした。


稲田:自民党でははっきり言う人と言わない人がいますが、結婚もしないで子どもを産んでいる女性は、ふしだらな人かキャリアウーマンなんだという前提があって、未婚のひとり親まで支援したら、わざわざ結婚しなくてもいいという人が出てきて、法律婚が壊れて、伝統的な家族も壊れるという理屈で考えられているんです。


ーそういう女性こそ苦しんでいる可能性が高いのにですか?


稲田:そういう人こそ救わないといけないですよね。ひとりで子どもを育てる大変さは、離婚も死別も未婚も変わらないのに、公平じゃないと思いました。


ー自民党内で対立しませんでしたか?


稲田:若い男性議員の中には、意外と賛成してくれる人もいました。そこで賛同者を募ったところ144名が集まりました。数は力ですから、それでなんとか突破できたんです。税制の改正(「未婚のひとり親にも「寡婦控除」を適用することが盛り込まれた税制改正大綱)が成立したら、もう誰も何も言わないです。よかったね、となるんです。

根底に「怒り」があるから言うべきことを言う


ー選択的夫婦別姓についても、稲田さんは考えが変わったということですが、なぜですか?


稲田:困っている人の意見を聞いて、「選択的夫婦別姓」は反対だけれども、同姓を選んだ上で、公的に法的な裏付けをもって「婚前氏」を使うことができる制度にすればいいと思いました。 私は29歳で結婚しましたが、弁護士としては5年ぐらいしかやっていなかったので、姓を変えてもそんなに不利益はなかったんです。だから、姓を変えたことで非常に不利益を被ってキャリアが続かないとか、いろいろなことで辛い目にあっている女性の気持ちは分かりませんでした。男性もほとんどの人が結婚しても姓を変えていません。結婚した夫婦のうち96%は女性が男性の姓に変えているので、男性はこの問題の深刻さに気づきませんよね。すごく困って陳情に来る女性が多くいるのに、そういう人たちを切り捨てるのは間違っているのではないかと思ったんです。


ー稲田さんがリベラル的な動きをすることで、批判する人もいると思いますが、政治家の立場として損をすることにはなりませんか?


稲田:多分損はしているでしょうね。「あなたには言ってほしくなかった」みたいなことを言う人たちもいますし。そういう意味では茨の道かもしれないですね。でも私の根底には怒りがあるんです。これだけ多額のコロナ対策をやっているのに、ひとり親の特別給付ぐらいケチるなという怒りがあるから、そこは言うべきことを言います。


ーあえてお聞きしますが、総理を目指す上で支持層を広げるためにやっているという計算もあるんでしょうか?


稲田:そういうことができる人だったらこんなに苦労はしません。いつも、もう少しうまく根回しをして、人が気を悪くしないような言い方をできたらどんなにいいかと思っています。どうしても言いたいことを言ってしまうんですね。ずいぶん反省もしています。


ーどうして、女性に対して理解のない人が多い自民党にいたいと思うんですか?


稲田:自民党がやっぱり好きなんです。自民党は歴史が長くて、立党の精神を見ると良いことを言っています。あと、国民政党として、いろいろな人の意見を聞いて、決めるときは決めるという政党なので。だから、自民党の本来のよさは、地域社会とか家族とか国を大切にすることと、多様性を認めて右から左まで包容力のある政党だということです。いまも本質的には変わらないと思います。


日報問題は「本当に知らなかった」



ー稲田さんは2017年、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題を巡って防衛大臣を辞任されました。あれは結局何が問題だったんですか?


稲田:私は南スーダンに行って日報を見ているので、あんなに分厚いものを捨てるかなと思ったんです。探せばあるんじゃないかと。安全保障上、問題のあるところを黒塗りにして出せばいいんだからと言っていたら、結局あとで出てきたんですよ。出てきたんですけど、それがどこから出てくるかとか、出てきてから私に対しての報告がすごく遅かったということがあったんです。


ー稲田さんが虚偽答弁じゃないとすれば、本当に知らなかったということですよね。嘘をつかれていたということですか?


稲田:嘘をつかれていたというか、時間がかかったということです。それが出てきたあとに、どこにあったかということがすごく問題になりました。今思えば、コミュニケーション不足から来ている問題でした。制服組(自衛官)と背広組(事務方の防衛官僚)との間の意思疎通が非常によろしくないとか、陸海空(陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊)の間で全然空気も違うとか、今なら分かります。「そんなこと、話し合いさえすればうまく対処できたのにどうして?」ということがたくさんありました。


ー稲田さんにわざと報告を上げなかったというわけではないですか?


稲田:そういう悪意があったわけではないと思います。いろんなことを考えてやったんじゃなくて、もう少し原因は単純だったと思います。(2016年7月に 南スーダンへのPKO派遣の日報の情報公開請求があった時は、)4万人の隊員がメールで見られる状況だったんですから、どこかにはありますよね。


ー結局、何が問題だったんですか?


稲田:私の答弁の未熟さがありました。「知らない」ものは「知らない」でいいんですけれど、「この時点はどうだった」とか、「もしかしたらこういう可能性もあるかもしれない」とか、言い方はありますよね。「知らない」という報告を受けて「知らない」と答弁して、あとになって「実はあった」となってしまったので。それが虚偽答弁だということになったわけですね。


ー日報問題でまだ言えていないことや本音はありますか?


稲田:それはないです。聞かれたことには答えています。

「政治とは生活」 誰にでも大切だと気づく時が来る



ー率直にお答えいただきありがとうございました。最後の質問になりますが、稲田さんはどうすれば若い人に政治に興味を持ってもらえると思いますか?


稲田:政治への関心に自分が気づく時期があると思います。私もたまたま子育てで時間があるときにいろいろと読むことで政治に関心を持ちました。政治って生活なんですよね。政治家になるまでは、私も経済や財政はすごく難しい話だと思っていましたが、これはやっぱり一人一人の生活そのものですし、権利を守るということも生活に密着していることです。人によって早い人もいれば遅い人もいると思いますが、世の中のことに「なぜだろう」「おかしいな」と自分で考え始めるきっかけはどこかにあるので、そこから政治に興味を持ってもらえたらと思います。


ー陳情とか行ってもいいんですか?稲田さんの本に書かれていましたが、LGBTの団体が自民党に今まで来なかったけど、それではダメだと。


稲田:(自民党では) LGBT特命委員会作りましたよね。それで初めてLGBTの人が陳情に来てくれるようになりました。ただそういう特命委員会とか作らないと、自民党ってLGBTには冷たいと、LGBTの人たちも思いますよね。ところが、特命委員会作ると、来てくれて、それで自分たちも伝統的な家族を作りたいんだと言われると、そうなんだって思いますよね。人の話をまず聞くところから共感が生まれるかなと。私の事務所にくる陳情もだいたい聞いています。


ーありがとうございます。今日、食事をご一緒して稲田さんのイメージがすごく変わりました。ふつうに笑うことも意外でした(笑)稲田さんのような女性議員が増えて、女性政策の議論が活発になれば自民党は変わると思うので期待しています。何かあったら陳情しに行きます。


稲田:分かりました。事務所にいらした方や電話をいただいた方の話は必ず聞いています。いつでも連絡をください。


ー今日はありがとうございました。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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